初のシャッター商店街の活性化議論会②
割と短い時間での話し合いだったけど、学生ズはネット情報やテレビからの引用で色んな案をひねり出してくれた。その中には、伝手さえあればすぐに実行に移せる案も少々。
そう言う意味では、第1回目の『シャッター商店街の復興問題』議論は成功かも知れない。動画を撮影しながら、ブンさんも感心した表情でこの学生集団を眺め回す。
朋子が苦労しながら、次の商工会の議題に掛けれる様にと、カテゴリー分けして出た案をメモってくれていた。さすが『ニー党連合』の書記役、碌に机もない中でマメな性格である。
充希もコンビニやスーパーに対抗する武器は、当然『地元愛』だろうと鷹揚に発言する。どうやら彼の脳内では、案出しだけでなく商店街への手伝いも計算に入っているらしい。
週1で田舎の放棄農地の復興作業も抱えている身としては、何としてもそれ以上の重荷を背負いたくない。そんな計算を脳内で働かせる基哉は、それは無茶だろうと積極的なヘルプには及び腰。
こんな対決は、昔からよくあった事なので周囲の者達は何とも思っていない様子。かなり高い確率で、基哉が折れて無茶な充希の案が通るのが常である。
今回の案件もそうなりそうで、皆の負担は確実に増える予感。ただまぁ、学生がシャッター商店街の復興の手助けをしてるとか、確実に話題になりそうではある。
そう言うのを含めて、集客の餌にするのもアリとも思える。ついでに言えば、今後出す動画のネタにもなるので、悪い事ばかりではない気も。
復興案件のイベント案など、継続してお客を集める手段はまた今度考えるとして。今は使える案も使えなさそうな案も、いっぱい出して貰う期間である。
その為の手伝いを学生たちで担うのは、ひとえにこの倉庫を借りた恩に他ならない。れっきとしたスポンサーなので、ブンさんの意向はしっかりと汲み取らないと。
『ニー党連合』の最初の活動理念と、違うじゃないのとのツッコミは確かにその通り。そもそも最初は、全てのニートを救済するって感じで始めた活動である。
それも随分と大風呂敷な発言ではあったが、今やお節介の矛先は多方面へと伸びてしまっている有り様。その内に収拾がつかなくなるって仲間の心配は、確かに的を射ており正論そのもの。
それに対して、復興と救済を上手く融合出来ないかなと、冴えた意見が和也から飛び出す。それが出来れば一番良いが、放棄農地問題を含めてハードワーク待ったなしである。
学生の身の面々からすれば、やはり全ての面倒は大変そう。
復興とは微妙に違うけどと、前置きした基哉が昔のテレビでやってた企画を紹介する。その番組では、ニートを10人くらい集めて変わった企画をやっていたそう。
まぁ、趣旨とすればバラエティ的な色合いが強かった。その番組では、ニートたちに起業と言うか、モノ作り案を依頼してどうなるかって経緯を撮影していたそうだ。
良く分からないが、ニートからの企業とかそんな絵が撮りたかったのかも。そんな彼らから出て来たアイデアだが、美少女の吐息を缶詰に詰めて売りに出そう的な下らないモノ。
いや、一定の需要はあるかもだし、一概には下らないとは判断は出来ない。ただし、それを耳にした朋子と知佳は総じて冷ややかな表情。
同じく、和也や直哉もアホなのとの反応が思わず口に出てしまった。反対に基哉は、付加価値があれば無価値のモノにも値段は付くよと苦しい正論を述べる。
実際に、清浄な空気がウリの観光地には、空気の缶詰を売ってる所もある。女子高生の握ったお握りとか、付加価値があれば普通のよりも確実に売れるのは道理である。
世間の評価とは、煎じ詰めればそんなモノ。
「まぁ、男としてその気持ちは分かるかな、ねぇ直哉君? 比較論だよね、工場で作られた味気ないお握りよりは、女子高生の握ったモノの方が良いに決まってるもん。
最近は性の商品化がどうのって、圧力が厳しいみたいだけどさ。男も女も異性を意識しなくなったら、人類は人口減少待ったなしになっちゃわないかな?
性=駄目なモノ的な過剰な位置づけは、自分たちの首を絞めてるだけじゃ?」
「特に日本人は性教育も下手で、未成年への性知識の規制も厳しいみたいだよな。最近のデータにもあったんだけど、若者の草食化と言うかデート離れは酷いらしいぞ。
未婚率もそうだな……最終的には成人の半数が、結婚せずに人生を終えるんじゃないかって話も出てたぞ」
「そんな事になってるんだ、知らなかった……結婚しない人や子供を産まない人が増えたのは、単純に給料が低くて生活が苦しいからだとばかり。
でも実際そうだよね、共働きで無いと子供を育てられないってウチの親も言ってるし」
何故か話題は、結婚問題や少子化問題にすり替わってしまっている有り様。ただまぁ、考えてみればニートは出会いも結婚ともかけ離れた存在には違いない。
このデータの数値にも、見事に貢献している存在とも取れる。やっぱり出会いって大事だよねと、知佳などはしたり顔で腕を組んでうんうんと頷いている。
それじゃあ結局、今の世の中って景気は悪くないんじゃと、大量のニートを養えている社会の現状に疑問を呈す和也である。この新たな議題の投下に、それは確かにと納得する面々。
年金などは第二の税金などと揶揄されて、その癖当てにならないと批難されるこの現代で。それだけじゃ将来が不安だと、せっせと各家庭が節約と貯金に躍起になる家庭が大半を占める有り様。
『たんす預金』が50兆円もあると、前にネットで見たなと基哉もポツッと呟く。そんな不安が、結局は経済を停滞させているのが今の現状なのかも知れない。
言うまでもなく、お金は使わないと経済は活性化しない。とは言え、消費税や馬鹿みたいに高い市民税を含めて、何重もの税の取り立てに不安になるなと言う方が間違っている。
それなのに肝心の年金の受給の年齢は、知らない間にどんどん引き上げられて行く始末。基本的なシステムの崩壊を、誰もが知らなかったで果たして済む問題なのだろうか。
昔は公務員になれたら、一生安泰だなんて言われた時代もあったけれど。今や学校の教師は、労働時間がブラック認定で給料に見合わないと言われる始末。
「1億総中流家庭なんて時代は遥か昔だよな……まぁ経済が安定したからって、このシャッター商店街の問題が解決するとは思わないけど。
取り敢えず、次の学生集会でも引き続き活性案を募ろうかな?」
「了解っ、何か集客に繋がるようなアイデアを考えてくれば良いんだね? 何か文化祭で屋台を出すみたいで面白いね、何が良いかなっ?」
「いや、現実での集客に繋がる案を頼むぞ、知佳……まぁ、俺たち学生側も楽しむ分には、全然構わないけどな。
むしろ楽しんでやらないと、長続きもしないだろう」
「そうだねぇ、政治や経済の解決案を出すよりはよっぽど楽だもんね。そう言うのは、頭の良い人にお願いするかしないと解決しないよね。
台湾のオードリー・タンみたいな優秀な人が、日本にも出て来てくれないかなぁ。他の分野では凄い人出て来てるのにね、野球の大谷翔平選手とか将棋の藤井7冠とか」
他人任せはアレだけど、確かにそうだねと政治界のスーパースターを望む声が上がる中。ガンちゃんならなれるんじゃないか的な期待も、ちらほら仲間内から上がっていたり。
そんな柄じゃないぞと謙遜する充希だが、カリスマ性と統率力は充分にある同級生である。そういう意味では、将来の社会を見も知らない老人に委ねるより建設的かも。
自分達の信頼する人物に頼る方が、よっぽど健全な考えだ。
――『ニー党連合』に関しては、取り敢えず地元の事からコツコツ活動を始めるのみ。




