初のシャッター商店街の活性化議論会①
「さて、難しい議論のニート問題の解決策案は、今日の所は一旦横に置いておこうか。どうせ簡単に解決策なんて出て来ないし、実行に移しようも無いもんな。
そんなモチベーションで悪いが、次もやっぱり難題の議論が待ってるぞ。えっと、次は何だったかな……そうそう、『シャッター商店街の復興問題』についてだな。
それじゃあ、皆で忌憚のない意見を頼むぞ」
「うん、確かにこっちも相当な難題だよね……まぁ、各地で色んな取り組みをやってるから、パクリで良いなら意見は出せるけど。
それにしても、本当にこの問題は各地で起きてるんだねぇ」
「数値データもどっかで見たけど、ここで発表しても意味は無いしスルーしたな。流れ的には大型店の進出で、各地の商店街の売り上げが激減して閉店に追い込まれるパターンがほとんどだったかな。
価格競争では、小さな個人店は大型店にどうしても負けちゃうからな」
それは仕方ないよねと、消費者の心情に寄り添う生徒達である。そんな事を言ってたら、解決策など値引きしろしか出て来ないのも事実。
値引き以外のアイデアを出してくれとの充希の言葉に、テレビで観たので良ければと発言する面々。一番手で話し始めたのは、意外にも直哉だった。
とは言っても、ある番組では閉じている各店のシャッターに絵を描いて、見た目を賑やかにしていたとの簡素な報告。それでも充希は、それなら俺たちだけでも取り組めるなと高評価を与えている。
それから各方面から、誰がメインで絵を描くのとか、シャッター通りって確かに侘しいもんねとか。色々と意見が飛び出して、場は一気に騒がしくなる始末。
それを基哉が制して、今は案出しの段階だからと皆を嗜めに掛かる。そんな中、元4年6組に、異様に絵の上手い奴がいたなと充希の呟き。
それを受けて、動画視聴の時から気配を消したように静かだった、ジョーが突然に当てがあると発言した。それから、もし良ければこの集会に誘ってもいいかと、皆に伺う素振りの大男である。
知佳が突っ込んで訊ねてみると、どうやら章栄の家の超ご近所らしい。そのせいで、今でも繋がりと言うか顔を合わせる機会が割と多いとの事。
この時点で、皆が思い描いた人物は一致していると基哉も確信に至る。朋子も同じく、スミちゃんは美術部とかに所属してるんじゃないかと口に出してみる。
確か中学でもそうだったなと、ジョーは思い出しながらそう呟く。それに対して、芸術活動に垣根など無いぞと、良く分からない充希の横槍が入る。
その理論は良く分からないが、ジョーも重々しく頷いて同意の構え。まぁ、文化部の活動は割と暇な印象があるし、あとは本人の意思次第なのかも。
「それじゃあ、本人に参加の確認をするのはジョーの役割でいいかな。ついでにシャッターに絵を描く案と言うか許可取りを、取り敢えずブンさんに提出って事で。
ブンさんによると、商工会の月の集まりが近々あるみたいなんで。それに向けての提案や企画案、他にもあるかな?」
「私が昔にニュースか何かで見たのは、空き店舗をお化け屋敷みたいなアミューズメント施設に改装しちゃうって奴だったね。空き店舗同士を強引に中で繋げて、割と広い通路を作るんだって。
そんなの出来るか分かんないけど、一応はこれも案って事で」
「改装が前提なら、空き店舗の2階を宿屋にするところもあるみたいだね。特に観光地の周辺とかだと、海外からの旅行客はうなぎ登りらしいしさ。
インバウンド需要で宿が足りないってのもあるし、アーケード通りで使えるクーポンとか宿泊客に配るんだって。そしたら周辺のお店に落ちるお金も増えるって、そういう複合的な取り組みが紹介されてたかな。
空き店舗の活用と周囲の活性化が合わさって、なかなか悪くない案だと思うよ?」
悪くないどころか、かなり良い案に聞こえる朋子の発言である。広島市のこの地は、市内の“平和公園”と廿日市の“宮島観光”の丁度両方にアクセスの良い立地。
市内だと路面電車で2~30分、宮島へフェリーが出ている宮島口までも同じ位で到着が可能だ。そういう意味では、この町は願ってもない好位置に存在する。
「ほうっ、宿屋に改装前提だと確かに金は掛かるが……思い切ってかじ取りするのに、悪くはない案な気がするな。何にしろ、今は案出しの段階なんだ……こんな感じに金が掛かったり、突拍子もない案だって受け付けるぞ。
和也はどうだ、いつもみたいに漫画やアニメを搦めての妙案は無いか?」
そう話を振られた和也は、そうだねぇとしばし考え込む素振り。例えば、皆が知ってる『こち亀』の両さんとかは、アイデアマンで手先も器用なキャラである。
商才も意外とあって、まぁそこはギャグマンガの王道と言うか。突飛な案がたちまちヒットして大金持ちに、そして何かのアクシデントが発生して最後には元の貧乏にのパターンが王道だったりする。
そんな起承転結がたった1話に詰まっていて、喜怒哀楽な人生が描かれていて面白いギャグ漫画なのだが。それらを全パクりする訳にも行かず、和也は何らかのイベントとかどうだろうと至って無難な発言をする。
例えば地元住人の地元愛を刺激するような奴とか、お祭り的な催しを試しに月に1度くらい。内容は何でも良くて、田舎で出来た野菜を売るとか女子校生の手造りクッキーを販売するとか。
何らかの付加価値があって、更には地元の学生が手伝っていると言うニュースが地元に広まれば万々歳だ。それを応援しようと言う地元の人達も、定期的にここに足を運んでくれるのではなかろうか。
月に1度のイベントなら、自分達にもそれ程の負荷は掛からない筈。
「付加価値と言えば、アニメなんかで取り上げられた土地があるとするでしょ? そこに聖地巡礼って、ファンの人たちが訪れる行為が割と流行ってるらしいんだよ。
その経済効果が凄いって、前にテレビでやってたかなぁ?」
「ほうっ、自分達でブームを作り出すのも手だと? なるほど、動画や何かで俺たちが有名になって、将来はファンたちがこの地に押し掛けて来ると。
なかなかいい案だな、アニメを作るのはちょっと難しそうだが」
「う~ん、クッキー位なら作れるけど、ファンを魅了するアイドルになれと言われてもねぇ。でも、ファンの聖地巡礼の話は聞いた事があるかな。
私も好きなアニメ舞台になった地とか、ドラマで有名になった場所とかは行きたいと思ったもん。そう言う動機となる切っ掛けって、意外と大事だよね」
「確かにカンフル剤にはなるな、何かで有名とか催しものをやってるって話は。そう言う話題作りでまずは集客して、そこから継続してお客を集めて行く作戦は良いかもな。
例えばコンビニは『近さと品揃え』って利便性を武器にしているし、スーパーは『特売』って魅力をお客にアピールしているからな。
そんな感じの分かりやすい武器を、まずは1つでも考えるべきかな」
確かに基哉の言いたい事は、とっても分かりやすくて為になる。ただし、コンビニやスーパーに対抗出来る“売り”など、学生の素人集団がパッと考え付くモノではない。
それでも色んな活性案が場に出て、集会は割と活気づいて来たのも確か。お金や時間が掛かる案から、人手が揃えば明日から実行出来る案まで結構出たと思う。
その手腕には、撮影役をこなしていたブンさんも驚き顔。
――単なる学生達と侮るなかれ、ヤル気だけは満ちた学生ズである。




