新たな拠点②
現状は、与えられた案件が難解な分、頼りになる仲間も集まって来てるのでバランスは取れているかも。直哉などからすれば、一体この事態をどう収束に向かわせるのか気掛かりで仕方ない。
或いは、そんなの最初から無理な相談なのかも知れないが。
若さで突っ走って、諸々の問題の内の1つでも解決出来れば万々歳な感じだろうか。そんな事を思いながら歩いていると、借りた倉庫前で基哉達と合流した。
女性陣も既に揃っていて、さっそく中に入ろうよと催促して来ている。鍵を持っているのは、今の所は充希だけなのでその点は少し不便ではある。
まぁ防犯上、あまり大量に合鍵を作る訳にもいかず、そこは考え処。中に大した物が置かれてないとしても、やはり借り物の倉庫だし管理責任がある。
そして様子を見に来るかなと思っていたブンさんは、どうやら今日は現れないみたい。そんな倉庫内は、空き時間に掃除を行なっただけあってそれなりに片付いていた。
ただし机や椅子の数も揃っておらず、充希の欲しがっていたホワイトボードも無い有り様。真ん中に広い空間が出来ただけマシ、壁際には雑多な品々が重なっていると言う。
辛うじて電気は通じていて、明かりも灯るけど倉庫感は否めないこの現状に。まだまだ改良は必要だねと、女性陣は足りないモノのチェックを始めている。
男性陣は、何とか椅子の代わりになるようなビールケースなどを、雑多な倉庫内から発掘する作業。それに直接座るのもアレなので、座布団代わりの段ボールも発掘する。
それをジョーが適当な大きさに千切って行って、数分後には何とか人数分の椅子が確保出来た。和也と直哉は、家から持って来たノートパソコンで動画の視聴準備を始めている。
「最初見た時より、かなり綺麗になってるねガンちゃん。でもまだ、足りない物が多いし見た目は倉庫以外の何物でも無い感じかなぁ?
ちょっとずつ手を加えて行って、集会に集中できる環境にして行かなくちゃ」
「そうだな、今後の目標だが、なるべくお金を掛けずに椅子や机を増やして行こうか。ホワイトボードは、さすがにその辺に落ちてる物でも無いしなぁ……カンパでも募って、新しいの買うしかないか?
それとも、思い切って手作りとかしてみようか?」
「うむっ、その2択なら手作りで良いんじゃないかな……なるべく金を掛けずに、空いた時間に集まってここの居住環境を良くしていこうじゃないか。
ジョーも新加入してくれたし、男手が1.5倍くらい増えたからな」
頼りにしてるよとの知佳の言葉に、寡黙に頷く章栄である。朋子がこの集まりの趣旨や日程などを説明し始めるけど、基本はラインで集合が掛かるからねと割と大雑把。
そんな雑談で賑わう倉庫内だが、ボチボチ視聴会の準備が整って来た。そこに遅れてブンさんが登場、済まんとか言いつつ今日の集会を見学させてくれと言って来た。
「遅れて済まないね、ちょっと椅子とか机がただで入手出来ないか、商店街の仲間に掛け合ってたんだ。それなりの数を揃えるのが、ちょっと大変で手間取っていてね。
ただし、机は近日中に持って来れそうだよ」
「それは有り難い、座る場所もないがゆっくりして行ってくれ、ブンさん」
「ナチュラルに嫌味になってるよ、ガンちゃん……でも、座る場所は無いのは本当なので、そこは我慢して下さいね」
割と酷い扱いのブンさんだが、反論は無く大人しく朋子の言葉に従う素振り。それに対して、基哉が今日のスケジュールをブンさんに説明する。
それによると、今からするのは視聴会を行なってのそれに対する意見出し。それから後半に、『ニート問題』と『シャッター商店街の活性化案』を論じる予定であるらしい。
ついでに新加入のジョーの紹介が、ブンさん相手に簡潔に行われた。それからブンさんに撮影役を頼んで、新拠点の紹介とそこでの活動も撮影して貰おうと盛り上がる学生たち。
それぞれ席について、集会を頑張るアピールに余念がない。
確かにここは、憧れていた自分達だけの活動拠点で秘密基地感が満載である。何より、今後は他人の家に押し掛けて迷惑を掛けずに済むと言う大きな利点が。
いずれはお茶セットとか用意したいよねと、女性陣の気配りと言うか欲望はとどまる所を知らず。とは言え、水分補給は夏場とか大事になって来るのは確か。
「ちなみにトイレとか水場は、ウチの八百屋のを使っていいからね。遠慮しないで使ってね、差し入れに売れ残りのフルーツも後で持って来るよ。
何しろ君らには、ここの商店街の未来が掛かってるんだから」
「うっ、いきなりプレッシャーが……一応は、各地の対策とかは調べて来たけど。ただし、それを試しにやってみようと思っても、お金が掛かるし大変だよねぇ。
気楽に撮影した素材を編集して、動画をユーチューブにアップとかと違って、安易な挑戦は無理だよね」
「そうだよな、学生が気軽にこなせるレベルを明らかに超えた案件ではあるよな。だから俺たちは案出しからのレポート作成に留めて、実行はそっちでお願いのスタンスで良いんじゃないかな、ミッキー?
そもそも、金を掛けようにも先立つモノが全く無い訳だし」
「駄目だ、そんな最初から妥協してたら結局は尻すぼみになるに決まっている。金がないなら人数をかけて、少なくとも出た案件の2つか3つは形にするぞ。
それが俺たち『ニー党連合』の、立派な経歴になるんだからな」
真面目顔でそう口にする充希を、ヤレヤレと言う顔で眺める基哉に対して。ジョーは当然だと言わんばかりに、頷きながらその前向きな姿勢に賛同の素振り。
それじゃあ、お金を掛けないで出来る案を出さなきゃねと、知佳などは切り替えも早い。なかなか難しそうねと、朋子はやや否定的な感じで首を傾げている。
各々の性格によって、活動への立場と言うか角度が変わって来るのが面白い。まぁ、ノリで安請け合いして結局は尻すぼみに終わるとか、確かに考えてみたら嫌かも。
恐らく充希の考えとしては、最初からブレーキをかけて走行してたら、進む話も進まないって考えなのだろう。それに便乗している和也や知佳は、あまりモノを考えない代表とも。
ちなみに直哉はひたすら困惑して、最初から無理だって顔付きで固まっている。そしてそれに伴う活動も、巻き込まれたら酷い事になるってのが分かっているよって身構えてる表情。
誰か止めてと周囲を見回すも、ジョーはサポートするぜって自信満々の顔付きである。そもそも、この『ニー党連合』自体が割と前のめりな団体な気が。
ブンさんも、そこまで頼んだ覚えはないと戸惑いを隠せない模様。最終的にはいつもの事だと諦めた基哉が、それじゃあ視聴会から始めようと音頭を取る。
すると、待ってましたと和也が持参したノートパソコンを立ち上げての準備に取り掛かる。それから、出来上がりについての評価は遠慮なく下さいと、やや緊張気味で言葉を発する。
その表情は、モノ作りに携わった喜びに溢れていてキラキラしていた。皆の評価を待ち侘びて、ある意味とっても楽しそう……逆に直哉は、とことん不安げな表情ではある。
そんな両極端な2人の手による動画が、ポチっと再生されて行く。
――さてはて、これを観た仲間たちの感想や如何に?




