新たな拠点①
日曜日に田舎で畑仕事をこなしての、明けて月曜日の週初め。忙しない面々は、ラインで今日の予定を書き込んで放課後の集会を確認し合っている。
まぁ、昨日も顔を合わせてその事も直接話し合ってはいる。しかしまぁ、最初は直哉の部屋に無理に詰め寄っての会合だったと言うのに。
それがまさか、たった1か月でこんな大規模な事態へと発展して行くなんて。つまりは新拠点である、それを棚ぼたでゲット出来たのはとっても大きい。
充希にしても、その点は感無量で満足そう。よくぞ毎週、途切れる事無くこんな小難しい会合が続くよなぁって感じ。
お陰で部活に所属していないと言うのに、放課後忙しくて大変ではある。その分やり甲斐があるし、今日の会合では最初の動画の視聴会もあるとの話。
皆でやって来た事が形になるのは、やっぱり感慨深いモノが。
とは言え、これをユーチューブにアップして、すぐにどうこうなるとは皆も全く思っていない。世の中には毎日何万と動画がアップされ、世間のアンテナにヒットしない話題はスルーされて行くのだ。
幾ら作り手が汗水流そうと、秀逸な作品を作ろうとそれは同じ事。世間のニーズにマッチしなければ、再生数は稼げない厳しい世界だとは和也も言っていた。
動画編集は、その和也と直哉がメインになってこなしてくれた。肝心の世間のニーズに当て嵌まるかは、全く自信はないと当の本人はさっきポロッとこぼしていた次第。
そんな訳で、放課後の集会は期待半分と不安も半分な感じ。彼ら『ニー党連合』も、先週に参加を決め込んだ新しい仲間を招き入れ人数も増えてくれた。
更にはアーケード通りに新拠点を得ての、今週から新たな船出となる訳である。その時が待ち遠しくもあり、空恐ろしくもアリって感じ。
もっとも、他のメンバーは特に何も考えてないだろうけど。
「えっ、新拠点の何を怖がってるの……充希君ってば、そんなタイプでも無いでしょ? 皆を巻き込んで、何も考えずに邁進して行くみたいな性格だとばかり。
まぁ、確かに半年後にこのクラスくらい参加人数が集まってたら怖いけど」
「そうだろ、怖いだろ……同じ年代のパワーを舐めたら痛い目を見るぞ、和也。暇な学生ほど、世の中の良く分からない会合に首を突っ込みたがるんだからな。
お前もあの集まりの事は、極力周囲には内緒にしておけよ」
そんなもんかねと、良く分かっていない感じの返事の和也に。まぁ、ある程度は今後も増えて行くだろうなと、不穏な言葉を漏らす充希である。
そんな暇人そんなにいないでしょと、和也は飽くまで懐疑的なのだけど。充希は顎に手を当てながら、元4年6組の結束力を舐めるなと言いたげな表情。
正直、小学校の頃の絆と言うか結束力など、自身の経験からほぼ感じない和也である。それをそこまで確信ているなんて、想像すら出来ない。
そもそも近所に住む幼馴染の同級生すら、和也としては数える程しか存在しない。そんな感じの付き合いで結束力とか言われても、ハテナが脳内に飛び交うだけ。
そんな感覚の果てしなく違う2人が、今や同じ『ニー党連合』の仲間である。そして週に3日以上集まって、議論をぶつけ合う間柄と言うのもちょっと面白い。
どこで運命がねじ曲がったのか、理解に苦しむ和也ではあるけれど。それなりに楽しいから良いかなと、その事についてはあまり深くは悩まない事に。
今の所は、和也に割り当てられた仕事と言えば、動画編集や漫画やアニメを引用した話題提供位のモノ。その程度ならお安い御用、何しろ『ニー党連合』には可愛い娘も多く在籍しているのだ。
そんな訳で、今日の集会も楽しむつもりの和也であった。
そして放課後、充希と和也は連れ立って駅前のアーケード通り方面へ。5分も経たずに駅が見えて来て、その駅前に週末に見た巨大な人影を発見する。
その隣には、帽子を深く被ってマスクをした小柄な不審な影が1つ。巨大な人物は襟付きの黒い学生服を着ているが、小柄な影は私服姿である。
デジャヴかなと思わなくもない和也だが、それが新入りの章栄と直哉だとすぐに気付いた。遠目から見ると、何とも凸凹なコンビには違いない。
直哉の方は寄らば大樹の影なのか、精神的には安定しているかのリラックスムードである。ジョーの方は、いつもの鉄面皮で何を考えているのかはよく分からない。
もっとも、付き合いの長い充希には彼の機嫌も分かっているのかもだけど。2つの集団は、軽く挨拶を交わし合ってから無事に1つに合流する。
それから、新たに獲得した拠点を目指して進んで行く。
その辺りから、和也と直哉は少々緊張気味に言葉を交わし始めた。何しろ今日の集会で、彼らが作った動画の初の視聴会が開催されるのだ。
これが不評だったりしたら、計り知れないダメージを喰らう事に。いやまぁ、リテイクを2回や3回受けるのは、或いは普通の事なのかも知れないけど。
趣味レベルでしかソフトを弄った事のない2人にとっては、それできついお叱りを頂いても戸惑う事しか出来ない。と言うか、なるべく上手だねと持ち上げて貰って、次の仕事に浮かれて取り組む雰囲気を作って欲しい所。
つまりはモチベーションである、まぁそれが無理でも長い目で見て欲しいなぁと、意外と後ろ向きな思考の和也と直哉であった。そんな2人は、前を行く充希と章栄の背後でコソコソと小声で話し合ってみたり。
「だ、大丈夫かな、和也君……一応は頑張って作ってみたけど、初めての編集作業だし不慣れなのは仕方が無いよね?
駄目だったら、また作り直せば済む話だって言われてるし」
「そうだな、何事も最初は時間も掛かるし慣れない作業に手間取っちゃうのは仕方無いよな。皆の意見を聞いて、そこから作り直す段階だって思っておく位が丁度いいのかも。
だからまぁ、きつい意見が出てもめげずに耐えようぜ、直哉君!」
そんな感じでお互いを励まし合う内に、一行はいつの間にやらアーケード通りへ。八百屋の前を通る際には、しっかりと店番の親父さんに挨拶をする。
今日から倉庫を使わせていただきますと報告すると、頑張れよと大声で励まされてしまった。どうやら八百屋の親父さんは、彼らの会合をアーケード通りの復興計画の話し合いだと思っているよう。
そんな案件など、たかが高校生には荷が重過ぎると思わなくもない和也ではある。逆に充希は、痴れっとした表情で頑張りますと頼もしい返答振り。
それが或いは、充希がリーダー役に相応しい重要なポイントなのかも。傍から見たら、頼りない人物より無駄な自信に溢れている人の方が、神輿役に担ぎ上げやすいのかも知れない。
そう言う意味ではピッタリの人選、ただまぁその旗が傍若無人で無理難題を身内に投げ掛けて来るけれど。そんな訳で、いつの間にやら『ニー党連合』は、ニート問題に加えて、放棄農地問題やシャッター街問題も議題に加える破目に。
それもひとえに、充希の人の良さと言うか安請け合いしてしまう性格が原因と言えなくもない。よく言えば人徳のなせる業なのか、そんな充希の元に諸々の問題が雪崩れ込んで来ている気がしてならない。
そうして、それを考えるのは周りにいる仲間の役目なのだ。
――それを良い迷惑と思うか、己のスキルアップの糧と思うかは人それぞれ?




