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加賀章栄と言う人物②



「今までの経緯は、人伝いだけど一応把握してる。大変だったな、直哉なおや……何か手伝えることがあれば、今後は俺も力を貸すよ。

 ミッキーがリーダーだっけ、後で詳しい話を聞かせてくれ」

「了解した、ジョー……取り敢えず、俺たちが新たに獲得した拠点に向かいながら、ボチボチ今日やる事を聞かせてやるよ。

 問題は何故か山積みだから、新戦力は大歓迎だ」

「あっ、そう言う流れなのね……えっと、自己紹介した方が良いのかな? 俺は井ノ原(いのはら)和也(かずや)と言って、充希みつき君と一緒の高校で同級生をやってます。

 趣味は小説とか漫画を読む事かな、よろしくね」


 そんな和也に章栄しょうえいも自己紹介を返して、移動しながらの会話は続く。それにしても、元4年6組のメンバーは個性派揃いなんだなぁと、和也は妙な感心をしつつ。

 駅前からアーケード通りをほんの少し進んで行けば、目的の八百屋『寅八』に到着する。そこでブンさんの父親である店主への挨拶と、つまらない物ですがと粗品の贈呈など。


 代表者の充希みつきも、その辺の礼儀についは色々と考えている模様。まぁ、この粗品は一連の騒ぎを聞きかじった、充希の母親が用意した物ではあるけど。

 取り敢えず、空き倉庫の貸し出しの件は店主にも伝わっていたようで何より。


 それどころか、このアーケード通りの活性化をになってくれる地元の学生連合なんて、結構な美談が広まっているみたい。涙を流さんばかりに店主から感謝されて、学生ズは何とも居心地の悪い思い。

 現状は、ちょっと議題に取り上げただけで、これと言った解決法の1つも提示されていない有り様。何しろ問題が大き過ぎて、取っ掛かりすら見付けられていないのだ。


 何にしろ、これで下手に逃げれなくなったと、内心では揃ってそんな事を考えつつも。取り敢えずは若いパワーで頑張るだけですと、全く顔色を崩さずに返事をする充希であった。

 この傲岸不遜ぶりは、いつもながら感心させられる。隣でそんな失礼なことを考える和也だが、直哉も似たような思いなのは目を見たら分かった。

 『ニー党連合』の新拠点だが、今後ただより高い家賃を取られそう。




 それからすぐ近くの空き倉庫に案内して貰って、店主から改めて自由に使って貰って構わないとの通達に。改めて礼を述べる一行だけど、中の片付けはやっぱり大変そう。

 その共通認識は間違っておらず、まず掃除をするにも余計なモノの片付けをしなくては無理と言う。その片付けも、必要な物と捨てて良いモノの区分がつかずに難航しそう。


 取り敢えず倉庫の前には少しだけ空き地があるので、そこを綺麗にして倉庫の中身を出して行く事に。そうこうしていると、ようやくブンさんが視察に来てくれた。

 そこからは、手伝って貰いつつの品物の区分けも上手く運んで作業はスムーズに。特に今日が初参加の、章栄しょうえいことジョーのパワフルな手伝いは絶賛レベル。


 重そうな冷蔵庫だか冷凍庫も、ともすれば1人で運んでしまうそのパワーは素直に凄い。空のケースもまとめて5個くらいタワーにして運ぶし、後から合流して来た知佳ちかも呆れる剛腕振りである。

 とにかく1人女性が合流して、これで人数もブンさんを含めて6名となった。ワイワイと雑談を交えての大掃除だが、直哉とジョーはひたすら寡黙に身体を動かしている。


 それが性分なのだろうけど、それじゃあまるで苦行みたいとの和也のクレームに。それじゃある程度、スマホで動画も撮っておいてくれと、充希も別角度からの注文を加える。

 つまりはこのお掃除イベントも、ユーチューブ素材か何かに使えるかもとのリーダーの判断っぽい。知佳もそれにならって、段々と整頓されて行く倉庫内を撮影し始める。


 元は店舗だったらしい倉庫内は、出て来る物も商品棚や陳列用のケースなどが多い。それらを綺麗に掃除して、なるべく端から重ねて置いての場所の確保。

 そうして約1時間半、借りた倉庫内は段々と自由に動けるスペースが増えて行った。これなら何とか、数人で会議をするくらいの場所は取れそう。

 そう口にする充希と知佳は、とても満足そうに頷き合う。



「ふむっ、後はテーブルとホワイトボード的な何かが欲しいかな……倉庫内のガラクタ内に、使えそうなのは入ってないかな、ブンさん?

 ホワイトボードは、出来ればキャスター付きの大きいのが欲しいな」

「椅子も欲しいよね、出来ればお揃いで背もたれが付いてる奴。パイプ椅子でもこの際いいや、最大で今の所は何人集まるんだっけ、ガンちゃん?

 スペース的には確保出来そうで良かったよ、本当に」

「パイプ椅子は6脚しか無いなぁ、あとは丸椅子が2個に……この際、酒瓶入れのケースを椅子代わりに使うってアリかな?

 ちなみに、ホワイトボードなんて影も形も無いよ」


 ちなみにテーブルも、代用出来る物はあるけどちゃんとした奴は倉庫内には眠っていなかった。椅子もあり合わせの物で、しかも形は不揃いで残念な限り。

 そんなブンさんの返事に、明らかに肩を落とす学生ズである。厚かましいとは思いつつ、せめて今日の内に態勢は整えたいと考えていたみたい。


 それには椅子と机は必須だし、出来れば出された意見を書き連ねる黒板代わりのボードも欲しい。それらが揃って、初めて議会も白熱すると言うモノだ。

 自前で買おうにも恐らくお高いし、出来れば不用品をかき集めてその辺は揃えてしまいたい。ブンさんは、椅子と机位ならこっちで人数分は揃えられるとは提案してくれる。


 ただし書き込みボードの当ては無いようで、さて困った問題に突き当たってしまった。知佳ちか三宅みやけ先生に相談してみようかと提案して、その発言に何故かジョーが舞い上がってしまっている。

 どうやら卒業してから顔を合わせていないようで、彼も先生に相当の思い入れがある様子。


 それをほのぼのとした表情で眺めるブンさんは、実はそこまでこの学生チームに期待はしていなかった。まぁ、ふてぶてしく失敗を恐れず、議題の場を造り出すこの集団の勢いは大したモノだけど。

 この場で活発に議題が巻き起これば、それだけで上出来であると。つまりそれは、足しげく学生たちがこの場につどってくれる事を意味している。


 若い学生が集まってる姿を見れば、気になった別の人も足を向けてくれるかも知れない。シャッター通り問題に対する一発逆転の妙案など、そう簡単に出て来るモノではない。

 さびれた通りの活性化など、そんな簡単な問題では決して無いのだ。


 充希たちは、取り敢えずは机が欲しいと空のケースと大きな板切れで、即席の机を作成していた。その奥では、直哉と知佳が壁際の掃除を頑張っている。

 窓からの明かりが通るようになって、この倉庫も見違えて見栄えが良くなった。その分、壁や床の汚れが目立つのは致し方が無いとは思う。


 それを苦労して何とかしようとしている2人は、意外と細やかな性格なのだろう。最終的には、何か別のモノを置いて汚れを隠そうって事に決まった模様。

 そんな訳で、家から使っていない飾り付け用品やら花瓶やらを次回の集合に持って来る事が決定した。今日の議題はその程度で、後は章栄しょうえいことジョーの『ニー党連合』への入会が改めて周知された。


 よろしくとのドスの聞いた声に、一緒に頑張ろうねとの知佳の温かい言葉。また党がでっかくなったねぇと、屈託くったくのない台詞に場はホッコリと和んでいる。

 直哉もこの友達の参加には、頼もしい視線を送って歓迎の素振り。かくして『ニー党連合』は、新メンバーを迎えて新たな船出となる予定。

 ただまぁ、問題は相変わらず山積みではあるけど。





 ――それに立ち向かう気概きがいだけは、人一倍の学生ズなのであった。








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