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加賀章栄と言う人物①



 ブンさんに善意で提供して貰えた予備倉庫だけど、そこは思いの外汚かった。その上雑多な荷物がたくさん放り込まれていて、元は広いのだろうけど集合場所に適しているとはとっても言えない有り様。

 女性陣の評価は、そんな訳でとっても低かったのはある意味当然だけど。ただで貸して貰えるのだし、文句は言うなとリーダー充希みつきの言葉である。


 それもそうかと、改めてお礼を述べる素直な高校生たち。そんな訳で明けて金曜日の今日は、放課後に手の空いた者が再集結しての掃除に決定した。

 そして可能なら、次の月曜日の集会はここで開く予定である。ちなみに日曜日は、顧問の三宅みやけ先生の運転で朋子ともこの田舎へ野菜の苗を植えに行く事が決まっている。


 なかなか忙しいスケジュール、これでは部活動と変わりはないねと和也の愚痴もごもっとも。とても学校の部活動とは両立は出来ないし、塾や習い事との両立も怪しいかも。

 現に、今日が塾の基哉もとなりは残念ながら不参加との連絡が入っていた。習い事のある朋子も、同じく出席は無理との残念そうな通達。


 そんなグルーブラインでのやり取りの末、ブツブツ文句を言う和也を従えての金曜日。放課後の街並みを、駅前に拡がるアーケード通りを目指して進む充希である。

 金曜日の放課後は、部活をしていない生徒でこの辺も賑わいを見せている。それに反して、今から重労働が待っている和也は不満たらたら。


 とは言え、目的地について片付けを行なうにも、精々が2時間程度やれれは良い方だろうか。そんなに作業は進まないだろうけど、まぁ週末を含めてゆっくりやって行くつもり。

 駄目ならば、月曜の会合を掃除の日にてる予定の充希である。かくして『ニー党連合』の活動は、ようやく活動の場所を得る訳だ。



「顧問の三宅先生にも報告して、ちゃんと許可を得なきゃな……大人を通すと話はややこしくなるけど、何とか理解して貰わなきゃ。

 地元活性化の活動の手助けとか、何となくの理由も一応は立てておくか」

「相変わらず口と言うか頭がよく働くね、充希君……悪知恵に恵まれてんのかな、俺じゃとってもそんなたくらみはポンポン思いつかないよ。

 えっと、直哉なおや君とは駅前集合だっけ?」


 悪知恵に恵まれてると批難されても、充希は全く動じた素振りも見せず。逆に不敵な笑顔を浮かべて、今日も貴様をこき使ってやるぞと悪者口調で演出などしてみたり。

 それが本心に聞こえて、どうにも落ち着かない気分の和也であったけど。ようやく辿り着いた駅前の情景が目に飛び込んだ途端に、それ以上の衝撃を受ける破目に。


 『ニー党連合』のニートの直哉は、既に駅前で2人の事を待ってくれていた。その手にはほうきやら、家から持って来た掃除道具をたずさえていてよく目立つ。

 問題は、それ以上に悪目立ちする風貌の、直哉の隣に仁王立ちする巨体の人物だった。明らかに人相が良いとは言えず、手には何とモップとコロコロを持っている……最近の不良はファンシーだなと、和也は混乱して妙な脳内思考。


 とにかく傍目はためから見れば、気弱な直哉を狙ってのカツアゲ中の不良ってシチュエーション。まぁ、るモノが掃除道具なのがちょっとアレだけど。

 直哉は何となく気まずそうで、その巨漢の不良の隣でうつむいていて表情はハッキリとは窺えず。堂々と仁王立ちしている強面こわもての不良の方は、短い髪に日焼けした肌で、ちょっと目にはスポーツマンにも見える。


 ただし、目の下の傷やらを含めて人相は明らかに悪モノのそれだ。昔に相当なヤンチャをしていたのだろうと、その風貌を見れば嫌でも伝わって来てしまう。

 それなのに、隣の充希は進むペースをいささかも減じずに戸惑う和也である。このままでは、あの不良とメンチを切っての一戦がこの長閑のどかな駅前で勃発しそう。


 充希が喧嘩が強いのか、そこが分からず和也は人を呼ぶべきか加勢するべきか尚も混乱中。ただまぁ、直哉を見捨てる思考だけは無いのは褒めて良いかも知れない。

 明らかにその人物を視認している充希は、興奮した模様でそいつに向かって突進して行く素振り。友達が喧嘩っ速いとはつゆ知らなかった和也は、覚悟を決めてそれに続く。


 勝ち目は薄そうだが、絡まれている直哉を助けなければと言う使命の元に。ところが先行した充希は、不良の前で急停止してのいきなりの右ストレート。

 突然の流れからの喧嘩沙汰(ざた)に、大いに戸惑う周囲の面々だったけど。大柄な不良は喧嘩慣れしているのか、その攻撃をいとも簡単に片手に持つモップで受け止めた。


 それから反対の手に持つコロコロで、充希の頭髪を狙いに来ると言う非情な手段に。それを華麗なステップで避ける充希は、おのれ姑息なと嬉しそうに叫んでいる。

 この辺で変だなと気付く和也は、不良も笑っているのにようやく気付いた。


「ちょっと待て、髪の毛を狙うのはズルいぞ、章栄しょうえい……いつからそんな、陰険で嫌味な攻撃に手を染めるようになった!?

 分かった、ちょっと話し合おう!」

「たまたま手に持ってただけだ、これは意図した攻撃ではない……武術家たるもの、髪の毛を狙うのは常套手段だぞ、ミッキー。

 だから格闘家は、全員が髪を短くしているんだ」

「2人とも元気だね……」


 呆れた直哉の呟きはともかく、この強面の武術家が知り合いだと知って、和也は明らかにホッとした表情。充希はこの偶然の出会いに、明らかにテンションが高くなっていた。

 そして章栄しょうえいことジョーとの再会は、実は偶然では無かったことが判明した。どうやら元4年6組の旧友の伝手つてで、皆が集まって何かしているのを知ったらしい。


 その様子見に訪れたら、直哉が掃除用具を持って駅前でたたずんでいるのを発見したとの事。そこから直哉に事情を聞いて、それなら俺も参加すると掃除道具を幾つか分けて貰って待っていたそうだ。

 つまりは、章栄はこの後の雑用を進んで引き受けてくれる心積もりらしい。変わった不良……もとい、格闘家(?)もいるもんだなと、事情をよく知らない和也はひたすら感心する。


 それより、これが充希がよく口にしている元4年6組のきずなと言う奴なのだろうか。こんな肉体派の人物も所属しているなんて、何ともバラエティ豊かではありそう。

 そんな事を思っていると、充希がこれから掃除だけど一緒に来るかと、章栄しょうえいに屈託なく語り掛けていた。そして呆気なく、新たな労働力をゲットする『ニー党連合』のお掃除部隊だったり。



 普段は寡黙なこの元同級生は、馬力で言えば同い年の中でも随一を誇る。本人が語るように、小学生時代から元気を持て余して武力に傾倒して行った感じらしい。

 そして次第に筋肉質になって、その見た目は益々強面(こわもて)に寄って行ったと言う悲しい経緯が。ただし、こんな場面では、とっても重宝する戦力には違いない。


 この加賀かが章栄しょうえいなる元同級生は、小学校4年生の出会いの頃から既に空手道場に通っていた筈。そして学年一体格が良く、弱きを助けて強きをくじく正義体質ではあった。

 充希みつきとも馬が合って、たまに一緒に道場見学とかもさせて貰ったけれど。道場主の爺様が怖過ぎて、充希は空手を習おうとは思わなかったと言う経緯が。


 今も習ってるのとの充希の問いに、ジョーは当然だと頷きを返す。つまり放課後の予定は、充希や和也みたいにスカスカでは無いって事ではある。

 ただし学校の部活には所属しておらず、今日は暇みたいで手伝いもやぶさかではないとの返事。今後の予定はともかく、倉庫の片付け要員としては頼もしい限り。

 和也もようやく、そこまで話が進んでホッと安堵のため息。





 ――何にしろ、1人辺りの労働が減るのは有り難い限り。








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