ブンさんと言う人物⑤
「う~ん、アーケード通りの復興のために何かを企画しようにも、先立つものが必要だろうからねぇ。案なら頑張れば、私たちで幾つか出せるかなって思うけど。
これだけ人数いれば、3つ位はいけるよね、ガンちゃん!」
「いきなり俺に頼るなよ、朋子……でもまぁ、田舎の放棄農地の復活と基本的には同じかもな。問題解決にみんなで楽しく取り組んで行けば、おのずと道は拓けるってね。
この際だから、この問題も俺たちが請け負う事にしようじゃないか」
「ふむっ、それは良い案かも知れないな……多方面に食指を伸ばすのは、普通は愚策だと諫めるのが参謀の仕事ではあるんだが。
あれこれ企画を絡めて、それにつれて今後も人が増えるんなら悪くないだろう」
にこやかな笑顔でそんな事を口にする充希に、基哉も何故か参謀の立場でゴーサインを出す。そんな年下の学生2人に、ブンさんは懐疑的な視線。
それは当然だ、年端も行かない高校生のたわごとに乗っかる謂れは、向こうには全く無い。とは言え、若い人の斬新な意見は参考に聞いてみたい気も。
先ほどもチラッと、宿屋にするとかお化け屋敷にするなどのアイデアをネットから拾って来たのも彼らである。まぁ、そんな成功例はブンさんも耳にはした事はあったりする。
ただし、金銭面とか地元の商店街のオッケーが出なかったとか、変革の波は押し寄せずの結果に。それはそうだ、大きく舵を切って沈没したら目も当てられない。
それこそ借金だけ残って、2度と立ち上がれない怖さは経営に携わる者たちは当然持っている。1歩を踏み出す踏ん切りのつかなさは、当事者にすれば理解出来る。
だからと言って、現状に甘んじていれば“変化”なんてやって来ない。この学生の集団が、ひょっとしてその先触れなのかと考えるのは期待のし過ぎだろうか?
そんな思いのブンさんを尻目に、学生たちの議論は続いていた。この問題も、簡単に解決に導ける類いのモノではなく難問には違いない。
朋子などは早々に、リーダーの充希に丸投げしてしまったこのアーケード通りのシャッター問題。基哉はもう少し詳しく、お化け屋敷の成功例をその場の皆に語り聞かせていた。
これは昔テレビで放映されたらしく、寂れてしまったシャッター通りの活用法として、斬新なアイデアの紹介的な感じだった。
用途としては、何店舗かを繋いでの大規模なお化け屋敷を造ったらしく。その企画が当たったかどうかは書かれてないけど、お化け屋敷が流行っていた時代の出来事だったのだとか。
確かに流行りモノを造って顧客を呼ぶのも、1つの手ではありそう。コロナ前の時期に、物凄いお化け屋敷ブームがあったのはブンさんも記憶してした。
それを聞いた女子2人は、今でもお化け屋敷はヒットするんじゃないかと、そのアイデアに高評価を与えている。それとは真逆に、今の流行って何だろうねと、それを口にした和也は別の案を直哉と必死に考える素振り。
テレビやネットに溢れる情報は、実はそこまで熱心にチェックしていない高校生たち。流行りモノは確かに良く耳にするけど、商売と結び付けて考えた事などない。
直哉も、食べ物なら幾つか思い浮かぶけどと恐る恐る口にする。
「一昔前は、猫も杓子もタピオカって言ってたけどね。後はバナナジュースとか、1年くらいで食べ物や飲み物の流行ってコロコロ変わるよね。
スイーツだって、マカロンとかマリトッツォとか、実物を見た事無いのいっぱいあるもんね。食べ物に関しては、さすがに流行り廃りのサイクルは早過ぎるかな?」
「この町は、大都会って訳じゃないからねぇ……世間とは時の流れ方が違うよね。でもまぁ、流行りモノが近くで売ってたら、そのお店に足を伸ばしてみたい気はするよね?
まぁ、流行りが過ぎたら見向きもされなく恐れは大いにあるけど」
「なるほど、今後の集客の第1歩になる意見かも知れないな……とは言え、何かを始めるにしてもある程度まとまったお金は必要なんだろうけど。
その資金だが、一体どこから捻出すればいいんだ?」
そこから始まる、資金源の徴収案がとにかく姦しく議論がなされて行く。そこだけ見ると、何故かこの高校生集団はニートの生態調査から、閑散としたアーケード通りの復興計画に舵切りしている感じ。
最終的には、やっぱりユーチューブ動画を1発バズらせて、それで稼ごうって話に落ち着いた。それを傍目で見ていたブンさんが、ニートの彼を救う計画はどうなったと逆に質問する始末。
当の直哉だが、スマホで動画撮影はするも発言の類いはほぼなかった。奥手な性格なんだろうなとの見当は付くけど、この議題が彼の救済になるとは思えない。
アーケード通りで新装開店したお店を、社会経験のない不登校の子に任せると言われても怖過ぎる。ニートは時間は持て余しているけど、だからって何でも出来る訳ではないのだ。
そんな感じでお説教するブンさんは、さすが年長者だけあって堂に入っている。正規のルートからのドロップアウトは、何より世間の風当たりが一番つらいのだ。
その渦中の友達を救おうと、立ち上がった彼らは素晴らしいとは思う。とは言え、その内容に関してはおままごとレベルで実践性と継続性には乏しく感じてしまう。
例えば先程から議題にあがっている、ユーチューブ動画で生計を立てるとか。そんな案は、場当たり的で運任せに過ぎると企画段階で弾かれるレベル。
どうせなら万人のニートに通用して、もっと全員が助かる知恵を出すべきでは?
「例えば我が町のアーケード通りの問題だけど、寂れた商店街なんてそれこそどの町にも存在するじゃないか。低予算で可能な成功例を、それこそ動画で拡散なんて今じゃ簡単に出来る時代だもんな。
同じように、彼を救うって君たちの気概を全国に拡散する事こそが、本当の成功なんじゃ無いかな? そして、それを真似する者が出てくれば言う事なしだと思うけどね。
いやまぁ、確かに難しい事を言ってる自覚はあるんだが」
「そうですね、確かにブンさんのいう通りかも……私たちは多分、社会的に難しイとされる色んな問題に取り組むべき集団なんだと思う。実は私たち『ニー党連合』って名乗っていて、将来は政界にも進出する予定なんです。
ニートは今や100万人規模だし、彼らに家族が最低3人いるとして計算すると、我が党には3~400万人の票が入る計算になりますからね!」
「その計算式は素晴らしいな、その内の数割でも俺たちに賛同してくれれば、政党なんて余裕で取れるな。ただし、働かなくていいなんてマニフェストは作るべきでは無いだろうな。
勤労の義務は、日本国憲法にも謳われている訳だから」
ブンさんのお説教に、思いっ切りビッグマウスで対抗する朋子と基哉である。どこまで本気かは分からないけど、少なくともブンさんは若者の熱気に気圧された模様。
今や資本主義は崩れかけているとは言え、人間が健全に生活するにはやはり労働は大切だと。今週末もしっかり農業しに行くぞと、直哉に念押しする充希であった。
そのやり取りに、単なる子供のお遊びと受け流せない何かを感じるブンさん。多少惚けながら、夢があっていいねなどと妙な感想を口走ってしまった。
いや、確かに社会の腐った部分をお説教臭く口走ったのは自分ではある。それを社会ごと変えてやるぜとの気概は、さすがに自分の中のどこを探してもありはしない。
これが若さかと何となく騒然としている間も、その若者たちは『シャッター通り改革案』を熱く語り続けていた。子供のおままごとと侮っていたが、その熱意は本物らしい。
もはや当初の目的もかすむ程に、あーでもないこーでもないと白熱した議論を交わす学生たちである。とは言え、簡単に解決策が出る訳もなく、いつの間にか議論は尻すぼみに。
残念ながら、良いアイデアは簡単にその辺には転がっていない模様。
――それでも、悩みの共有に少しだけ力を貰ったブンさんであった。




