月曜日の動画視聴会③
直哉の部屋にあるモニターと本体一体化のパソコンでは、現在土日に撮影した動画が流されていた。まだまだ素材の段階で、これから編集して行くらしい。
例えば効果音とか文字入れとか、その辺を編集ソフトで足していくのだと直哉の説明に。和也もそれは手伝うよと、割と乗り気な2人である。
他にも動画のネタになる写真とかあれば、吸い取るから今の内に差し出してとノリノリな和也。知佳がそれに応じて、土日に撮影したのを使っていいよとスマホを渡している。
それに反応して、朋子も自分のスマホを手渡すのだけど。プライベートな爺婆の写真は使わないでねと、和也に一応念を押していたりして。
さすがに動画の為とは言え、プライベートの切り売りはしたくない様子。それは守るよと、和也もその辺のコンプライアンスは分かっている模様。
学生たちは顔出しオッケーだが、その辺はユーチューバーの登竜門として割り切っている面々である。いきなりバズる事は無いだろうし、変に名が売れる事態も無い筈。
「コンプラ遵守は確かに大事だな、朋子の田舎の爺婆の生活はしっかり守る内容でないと。最上の方法を話し合いながら、まずは最初の動画を作り上げて行こうか。
その方針が決まれば、直哉だけでも編集が可能だろうしな」
「そうだね、それじゃあ改めて『ニー党連合』の動画の指針を決めないとね。さっきは炎上したり、アンチが増えるような内容は避けようって、ボヤっとした感じの内容しか話題に出なかったけど。
具体的には、みんなが週末に頑張ってますって感動モノに仕上げればいいのかな?」
「少なくとも俺は、単に踊ってるだけとか画像を変に加工したりとか、そう言うのは無しの方向で行きたいな。
この集会自体が真面目な会なんだ、意味のある発信をして行くべきだろう」
「充希の言ってるのは、ティックトック的な流行の動画だろう? まぁ、本編の動画の宣伝にそっちを使うのもアリだろうけど、確かに本編は真面目な感動路線で行くべきかな?
こう、色んな高校の有志で地域復興の活動をやってますみたいな」
なるほどと、基哉の言葉に感銘を受ける面々は、これは復興活動なのだと納得の表情。それじゃあ、不登校児の社会復帰的なニュアンスは、アクセントに使う程度にすべきかなと続けて話し合う。
編集長気取りの和也が、細部について詰め合わせる作業を行って。最終的な、『ニー党連合』の動画の方向性はだいたい定まって来た。
ユーチューブ活動と言うかユーチューバーについても、基哉は少々調べて来ていた。こう言うのは知名度の無い者が始めても、なかなか登録者数は増えないそう。
そこそこ名の売れた芸人など、ある程度知名度があってもその数字が伸びない事はザラにあるのだ。何の売りも無い自分達は、コツコツ地道に動画を上げて行くのみ。
そんな感じでどうだろうと、和也はリーダーの充希にお伺い。ところが充希は、自信満々で数か月でバズらせるぞと一同の前で大きな目標を打ち上げる。
つまりは直哉を有名人に仕立て上げるる野望を、未だに捨ててはいない様子。監督&編集者の裏方でいいから、動画撮影で名を馳せろとの無茶振りを口にする始末。
とにかく、SNSで稼いで見せろとの仰りようは無茶振りでしかない気も。それを素直に口にする直哉は、何だか度胸がついてきた気も。
或いは仲間意識がそうさせているのかもだが、良い傾向だなと基哉は密かに思う。人の言いなりにしか動けない者は、他人任せの人生を歩むしかなくなる。
逃げるは恥だが、癖になると取り返しがつかなくなる恐れが。
「なんでだっ、さっきの自称革命家はなんだかんだ言って動画で稼げているんだろう? って言うか、日本人は出る杭はとことん打つ風習があるけど、学歴社会の最終目的は稼ぐ事にあるんじゃないのか?
その点では、その不登校児も自分の“売り”が無くなるまでユーチューブで稼ぐのはアリだと思うぞ? 成人したら、どの道その他人と違う利点は無くなるんだし。
その後に一般教養を身につけるのも、俺は全然アリだと思うがな」
「まぁ、普通の一般人のラインからは完全に逸れるわよね、それって。でもそこから通信制高校とかに入学するのも、確かにアリかも知れないわよねぇ。
それは直哉君にも、同じく言える事だけど……」
「そうだな、人と同じ人生が全部正解かと言われたら、別にそんな事も無いだろうからなぁ。枠に収めようとするのが教育機関で、そこからはみ出す人は一定数いるのは確かだよな。
問題は、そこから満足の行く生活を送れるかどうかじゃないか?
儲ける事が人生の目的だと断言する充希に対し、基哉はオブラートに包んだ言葉を選んでそれを修正。その言葉に、確かにそうだなって室内の視線が直哉へと注がれる。
それでも和也辺りは、充希の言葉に感銘を受けている様子。お金を稼げば、確かにニートの定義からは外れるもんねと深く頷いている。
それから、毎度のアニメからの引用を持ち出す和也であった。今回のタイトルは、『映像研には手を出すな!』と言う、3人の女子高生がアニメ動画を製作すると言うコアな内容の物語なのだが。
その中で、地域復興の目的も兼ねたアニメ動画を、コミケで売ろうと頑張って製作していた所。学校側から、金銭の利益を目的とした販売活動は駄目だと否定されるシーンが出て来るのだ。
結局物語の中では、それを押し通して強硬策に出るのだが。学生の本分は勉強だろうと、頭ごなしに教師から拒絶されるのに、和也は凄い違和感を覚えたそう。
つまりは、お金儲けって悪い事なのかなって変な気分になったそうな。
それを聞いていた朋子も、現実で似たようなニュースを見たかもと挙手して来た。最近の法律改正で、選挙権を得るのが高校在学中の18歳になったのは学生たちも周知の事実。
それに対して、同級生に選挙に対する関心を持って貰おうと、そんな感じのポスターか何かをある生徒が作って校内に貼った所。学校の先生が、そんなモノを学校の掲示板に張るなどけしからんと禁止されたそうなのだ。
その禁止令は、そのニュースが広まった後に撤廃されはしたモノの。何だか政治とか宗教とか金儲けに関する取り扱いの、世間の禁忌感が浮き彫りになった出来事だった気も。
禁止した学校側の主張としては、1つの政党に肩入れするのは右翼とか左翼の思想を表現する訳で。それは不味いと思ったそうだが、勘違いも甚だしい。
何と言うか、学校は生徒の自主性や選択する力を封じる場所なのかなって思ってしまう。大人になる準備を封じられて、社会に押し出された生徒たちは戸惑いしかないだろう。
それって、泳ぐ練習も碌にさせずに、その上浮き輪も持たせずに世間の大海へと放り出すようなモノ。溺れる者が多数出ても、教育関係者は誰も気にしないのだろうか。
学校の先生がどこでもそんな感じなら、確かに世間的に未熟な社会人が生産されるのも致し方ない気が。勉強の知識だけ無理やり詰め込んでも、社会の荒波に対抗する術は全く教えて貰えないのは如何なモノか。
「まぁねぇ、そうじゃない学校も探せばあるとは思うけど、そんな感じの学校は多いよね。ウチの高校も、生徒のバイトは基本禁止だった気がするな。
家庭の事情でどうしても必要なら、担任の許可がいる感じだったかな?」
「その辺りの事情が、俺には全く理解出来ないんだが……人生って、最終的に自立するのが目標だろうに。つまりは自分で稼いだお金で、自分や家族を養うのが正義じゃ無いのか?
専業主婦だって、あれは立派な職業だろう……学校の指導は、その最終目的に随分と反している気がするのは俺だけかな?」
「確かに社会に出たら、学校で教わった授業内容はほとんど役に立たないって言われるもんな。あれなら習い事で、そろばんとかピアノを身につけた方が幾らかマシだって思う人もいるんじゃないかな。
学校の普通科って、そう言う意味ではあそこまで時間を取る必要あるのかなって思うよな。充希の言うように、立派な社会人になる為の科目を増やしても良い気がするよ」
――学校の文句になると、この場の生徒達は幾らでも口から出て来る模様。