週末の大混乱⑥
現在は田舎で農作業をこなし終えた『ニー党連合』の一行だが、今は男性陣と女性陣で別行動中。男共は散策のために外出して、女性陣は家へのお土産の山菜のお惣菜づくりを行なうって話である。
日曜日の今日も参加した三宅先生も、女性陣に加わってスミ婆からお料理を教わる模様。せっかくの休日なのだ、楽しんで貰えれば学生たちも本望だろう。
あちこちにお手数を掛けている『ニー党連合』だけど、周囲の大人たちは割と温かい目で見てくれているようだ。充希の両親も同じく、今回のお出掛けにしても応援してるぞと声を掛けてくれている。
充希の母親に関しては、何か部活に入りなさいよとせっついていたので安心した模様。こんな良く分からない集いでも、集まっているのは元4年6組のメンバーである。
それを聞いたら、逆になるほどねと納得されてしまう不思議。出来る事があるなら協力するわよと、周囲の大人たちの応援は何故か万全な感じすらある。
今回の苗代も、そんな訳で親から出して貰えそうな予感。
そんな日曜の作業だが、本当はお昼からの集まりにしようと充希は仲間に提言していた。何しろ向こうで、何度も食事をお呼ばれするのも忍びない。
ところが爺婆からは、それは宜しくないとダメ出しを喰らってしまった。外作業は涼しい時間の内にするのが、田舎でも常識だと忠告された次第である。
そんな訳で、やっぱりお昼を挟む事になった日曜日の田舎の集まりであった。気温の涼しい午前中の畑作業も無事に終わり、腹を空かせた学生ズは至って呑気。
結果的に、連日母屋へと戻ってのスミ婆の手料理を頂く流れに。
今日も縁側近くの和室に、大きなテーブルを用意しての昼食会であった。学生たちは遠慮なく、テーブルを囲んで空いたお腹に燃料を掻き込んで行く。
日曜日の本日は、朋子の母親も参加を決め込んでいた。さすがに自分の実家と言う立場もあって、1度様子を見た方が良いとの判断なのだろう。
そんな朋子の母親は、ここが実家と言う事もあってまぁ良く喋る。主にこの学生連合に対しての感謝の言葉だが、田舎の生活の楽しさも伝えたい模様。
将来的には、朋子の母親も田舎に引っ越して隠居生活をしたいとの話である。確かに喧騒の多い都会とは、全く別次元の田舎のこの環境は素晴らしい。
ご飯も美味しいし、おかずも家で採れた野菜なら尚更である。後は旦那さんを説得して、野外の労働力に仕立て上げれば完璧って寸法だ。
それもやはり、体力のあるうちに色々と覚えて貰うのが理想ではある。何しろ農作業は、根気も必要だが覚えるべき作業も意外と多いのだ。
そんな計画を、愛想よく相槌を打ちながら聞く学生ズ。
「さて、動画撮影の素材集めも順調だし、地図作りもかなり進んでいるんだったかな? 畑作業もひと段落ついたし、夕方の家の周辺の草刈り作業までは自由時間だったっけ。
そんな訳で、近くを探索ついでに少し散歩してみようか」
「そうだな、見てみたいのは用水路の辺りとか近くの神社とか……神社の山のてっぺんまで登って、集落を眺めてみたりとかも面白いかもな。
男衆はそれで行くとして、女性陣はどうする?」
「昨日の内にスミ婆が、食べられる野草を採ってあく抜きしてくれてたんだって。わらびとかイタドリとか、それを調理して家族にお土産にしてくれるって。
女性陣は、そのお手伝いと言うか調理実習する予定だよっ」
そうらしい、山菜とは都会暮らしには逆にお洒落と言うか、確かに喜ばれる食材には違いない。ポツンな田舎レストランなどでは、お客さんに喜ばれるメイン食材なのだそう。
そっちも面白そうだが、結局は散歩に出掛ける事にした男性陣。女性陣にその調理動画の撮影を頼んで、充希たちは予定通り外の散策へと出掛ける。
気候は太陽がてっぺんへと上って、少し暑いが出歩くのに支障はない。一行は充希を先頭に、いかにも田舎な小路を山を横に見ながら歩いて行く。
アスファルト舗装された小路は、車の離合も大変そうでそれも次第に砂利道へと変わって行った。とか思っていたら、目的地である地元の神社に到着したようだ。
直哉もそれに気付いて、撮影しても良いのかなと戸惑い模様。基哉は少し思案してから、挨拶を済ませてから撮影させて貰おうかと常識派な台詞を口にする。
ここまでの道中も、用水路の生物などを観察したり撮影したりと割と賑わっていた面々。とは言え、ここが散歩のメインの場所になりそうだ。
一行は礼を失さずにお参りして、それから田舎の神社をひとしきり愛でてあちこち撮影して歩く。妙に落ち着くこの空気感を、それぞれ味わいながら境内を観察して回る。
本当に、田舎の小ぢんまりとした神社の境内は何とも言えない雰囲気がある。各々がその独特な空気を堪能しながら、あれこれと眺めて歩く。
神社の建物は、お賽銭箱の奥は木柵に覆われた舞台が設えてあった。どうやら神楽舞台のようで、この地元も住人数が多かった頃は盛んだったらしい。
そんな話を、さっきの昼食の間に小耳に挟んだ一同である。神社を見に行くと言ったら、爺婆が昔話を聞かせてくれたのである。
そんな経験も、爺婆と同居していない学生ズには新鮮ではあった。半世紀も昔の話を、直に聞けると言うのは実はそれなりに得難い体験ではなかろうか。
それから何かに気付いた基哉が、一行に声をかけて来た。この神社は小山の頂上にあって、町の景色を見渡すには丁度良い高さだったみたい。
「うおっ、割と町の景色が遠くまで見渡せるな……それにしても、改めて耕作放棄地が多いってのが一目で分かるな。それどころか、ソーラーパネルの設置場所も悪目立ちしてるじゃないか。
こんなんで、日本の未来は大丈夫なのか? 大人たちは食糧自給率がどうのとか、米不足がどうのとかって騒いでるけど」
「改めて見ると、農地に置かれてるソーラーパネルの存在は醜悪にしか見えないな。日本の農業問題は、最近になって米不足や価格高騰が重なって、ようやく注目を浴び始めた感じだよな。
実は日本の農業問題は、もっと前からかなり深刻な事態になってるのに誰も真面目に取り合わなかったってのもあるのかもな。それがJA問題にまで及んで、ようやく他人事じゃ済まなくなったと消費者が気付いた感じなのかも」
「なるほど、次の集会でその辺も発表してくれると嬉しいな、モッチー。直哉、しっかり撮影しといてくれ……これが日本の農業の現状だって、口で訴えるより視覚に訴えた方が何倍も効果があるだろうからな。
それにしても、本当に田植えが終わってる田んぼは半分にも満たないんじゃないか?」
そう言って呆れる充希だが、この現状は動かしようのない事実でもある。基哉も知ってる範囲で、農業問題で特に酷いのは後継者不足だろうなと口にする。
農業従事者の平均年齢は、確か60歳以上だった筈と口にして、充希と直哉はマジでと驚く素振り。それは耕作放棄地も増えるよねと、難しい表情を浮かべる直哉であった。
お米の生産者が嘆いているのは、作っても赤字と言う問題も大きいらしい。JAの買い取り価格は昔からそんなに変わらず、肥料や電気代が高騰しても価格に反映させて貰えないのだ。
そんな感じで、生産を断念する農家もここ数年は急増しているらしい。国の自給率の維持どころか、主食のお米も輸入に頼らざるを得ない日が遠からずやって来る恐れも。
それもこれも、頑張って働く農家の努力ではどう仕様もない所に原因があるのだ。
――田舎町の景色を見渡しながら、そんな難しい話をする男性陣であった。