週末の大混乱⑤
週末の土曜日の労働は、やっぱり素人集団だけあって色々と不手際が目立ってしまった。お陰で予定通りとは全く行かず、日が暮れるまでの進捗具合は草刈りを何とかやり終えた程度。
従って充希は、その次の日の日曜日の労働も仲間と斎藤の爺婆に提案した。その結果、一部の者は不参加となったけど、ヨシ爺の許可は何とか得られる流れに。
そうして日曜の午前中、荒れ放題だった放棄農地に輝く最初の一撃が入った。鍬を振るったのは充希で、それを撮影する直哉はどことなく神妙な顔付きである。
一緒の敷地にはヨシ爺とスミ婆もいて、荒れ果てた畑が開墾されて行くのを感慨深げに見学している。実際、伸び放題の雑草を刈っただけで周囲は見違えるよう。
昨日の午後の半日で、まずまずの放棄地エリアを丸裸にする事が出来たのは良かった。そして2日目の今日だが、儀式的な鍬入れを撮影後は小型耕運機での土起こし作業である。
これもなかなかに大変で、充希を始めとする男衆は慣れない機械に四苦八苦。何より土が硬いというか、変に雑草の根が張っている場所が意外と多くて大変!
これらを放置すると、雑草だけにまたどんどん新芽が伸びて処理が大変なのだとの事。つまりは耕運機で土を起こして、雑草の根っ子や石などは丁寧に取り払わないと。
それらは三宅先生や、朋子や知佳の女性陣も率先して手伝ってくれた。その人数に応じて、作業は割と捗ってくれて何よりって感じ。
それでも、ある程度の面積を均す作業は大変で、素人集団は腰を叩きながら畑予定地を歩き回っている。田舎の午前の景色は、相も変わらず長閑で空気だけはとっても良い。
そんな作業を、やけに人懐っこい小鳥が近付いて来て眺めている。それを撮影する直哉は、自然動物が向こうから近付いて来てくれたと驚き模様。
「まぁ、土を耕したり草を刈ったりすりゃ、行き場を追われた虫が逃げて行くからな。それを狙って、鳥なんかは近くまで寄って来るわな。
燕なんかも、人の住んでる家にしか巣を作らんけぇな。連中は、人間よりも他の捕獲者の方を怖がっとるんじゃろうなぁ」
「へえっ、それは面白いマメ知識だな……人間は自然破壊の権化で、自然動物からは軒並み恐れられてると思ってたけど違うんだな。
「本当だねぇ、他にも意外と懐いて来る動物とかいるの、ヨシ爺っ?」
それはやっぱりいないらしい、罠にかかったタヌキやイタチも、余程子供の頃から飼わないと懐く事はないそうな。ただし猪とか大型動物でも、子供の頃から飼うと飼い主に懐く事もあるのだとか。
そんな雑談を挟みながら、土起こしの作業も結構な時間が掛かってしまった。ただまぁ、それも素人集団だけに仕方の無い事と割り切る学生ズ。そこから石灰や肥料を撒いたり、畝を作ったりとヨシ爺の指示に従う事数時間。
気がつけば、荒れ放題だった耕作放棄地に畝が5本も出来ていた!
「おおっ、何だか感動してしまうな……これで後は、ここに作物の苗を植えればいいだけか。土が馴染むのを待って、それらは来週の作業になるのかな?
何にしろ、今日は本当にお疲れ様だったな!」
「本当にそうだね、みんなお疲れ様っ! 特に男子は、重労働を良く頑張ってくれたねっ」
「地下茎を伸ばす雑草が多くて、土を均すのだけで大変だったな。土の栄養状態も、ヨシ爺に言わせるとあまり良くないみたいだし。
これから肥料を混ぜての土作りをしなきゃだな、大変だ」
とは言え、雑草の姿の無くなった畑はそれだけで無限の可能性を秘めているよう。ヨシ爺の指示出しで、畝が出来た状態になった畑を眺めて学生たちは感慨深げ。
土作りも、ふかふかの良い土にするまで数年かかる事もあるそうだ。それまでは、多少の荒れ地でも育つ作物を中心に育ててみると良いとの事。
ただしそれだけでは詰まらないので、実験的に色んな作物も植えて見ても良いかも。そう言われた学生ズは、苗買いの作業が楽しみで仕方が無い。
何を育てるか考えながら、汗まみれの顔を拭って約2時間の作業に満足な表情を浮かべる充希や基哉。ちなみに刈り取った雑草は、乾かして後で焼いてしまうそうだ。
いささかワイルドだが、田舎では当たり前の行動みたい。雑草や落ち葉をゴミにして出すと、それこそ膨大な量になってしまうのだ。
ゴミ袋が有料の昨今、そんな手間賃まで含めると農家にとって大変な負担に。もちろん火の面倒はしっかり、山火事などに発展しないよう見守るのが基本ではある。
撮影役の直哉は、取り敢えず完成した畑の景色をバッチリ映してその後の計画を充希に訊ねる。それによると、土を寝かせる時間が必要なので今日はこれ以上何も出来ないとの事。
石灰の種類によっては、即効性の奴もあるらしいのだけど。土も休ませたり、馴染ませたりの時間が必要なのだとのヨシ爺の言葉に従って時間を置く事に。
そんな訳で、今日は午前中で畑作業は全てお終い。続きは来週、みんなで来た時にホームセンターで野菜の苗を買って、それを畑に植える事に。
そんな訳で、午後はポッカリ時間が空いてしまった一同である。
「って事で、来週こっちに来る前に、色んな野菜の苗をホームセンターで買ってこよう。お金は取り敢えずみんなで出し合って、何とか来週で畑の形にまで持って行きたいな。
平日の苗のお世話は、これはもう爺婆に任せるしかないな。俺たちの畑作業の時間は減るだろうけど、週末の撮影は他のお手伝い風景や田舎の風景や畑の経緯をメインにすればいいだろう。
そんな感じで、田舎のコンテンツを軌道に乗せるのを目標にしよう」
「なるほど、良い案だなガンちゃん。野菜が収穫出来たら、バーベキューとかで盛り上がる絵が撮れるしな。放棄農地の発展を撮るのも面白いし、案は尽きないな。
問題があるとしたら、毎週の集まりとここまで来る交通手段かな?」
「確かにそうだね、毎回三宅先生に頼る訳には行かないし……日曜日を作業で潰すのも、続けて行くに従って辛くなって行くかも知れないね。
それから、今後メンバーも増える可能性もある訳だし」
そう口にする朋子は、自分は肉親だから意地でも毎週通うよとの意思を示している。充希もどうせ暇な休日なら、習い事の一環として捉えれば苦でも無いだろうと一行に提言する。
基哉も同じく、確かに労働は尊いって実感出来るなと汗を拭きながら感慨深げ。充希から飲み物を受け取って、喉が渇いていたのか一気に煽っている。
今日は日差しもやや強く、外で活動するには暑いくらいかも知れない。女性陣に関しては、昨日と同じく日差し対策もバッチリ抜かりは無い。
2日目の作業となった今日も、学生ズは移動に三宅先生の手を煩わせてしまっていた。それを申し訳なく思いつつ、他に有効な手段を持たない面々である。
それから和也も、今日は用事があるからと欠席している。そう言うパターン、例えば体調不良や急な用事など、週を追うごとに欠席者が増えて来る可能性はとっても高い。
そこは充希の言う通り、何も全員が毎回出席する必要もない訳だ。ただし今の所の移動手段が、三宅先生に頼るしか無いってのが辛過ぎる。
朋子の母親は、そんな事になってると知って運転手役には立候補してくれたらしい。ただ家にはファミリーカーしか無く、やっぱり全員が乗れない問題が浮上。
充希の立ち上げた“感謝”を田舎で味わう企画だが、先行きは依然と不透明なまま。それより、ぽっかり空いた午後の時間をどう過ごすべきか。
――労働後のすきっ腹を抱えながら、そんな事を話し合う学生ズであった。