週末の大混乱④
豪華なセッティングの昼食の場に、驚く充希を始めとした男性陣。ところが朋子の話だと、親戚一同が爺婆の所に集まる盆や正月だと、普通にお昼からこんな感じでの食事になるらしい。
確かにこれなら、二桁の来客があっても余裕で対応出来そう。そんな感じで用意された昼食だが、なかなかどころか凄く豪華に見えた。
どうやら孫が友達を連れて来ると言うので、爺婆も張り切ってお持て成しの準備をしていたらしい。普段食べる煮物やポテサラもあるが、お刺身や揚げ物なんかも食卓を賑わせている。
それを見た学生たちは、昼食と言うより豪華な夕食って感想しかない。取り敢えず席に着きながら、皆が本当に食べていいのって顔をしている。
「こんなに用意して頂いて、本当に恐縮です……労働でしっかり返さないとね、みんな! 男の子たちも席に着いたし、それじゃお昼を頂きましょう」
「お爺ちゃんとお婆ちゃん、私が友達を連れて来るって言ったら張り切っちゃって。でも残すのは勿体無いから、皆遠慮せずに食べてね。
えっと、それじゃあ充希君……音頭を取って貰っていい?」
「了解した……このお持て成しに、早速大きな感謝を感じてるのは皆も一緒だと思う。お昼をご馳走になった分は、確実に労働で返すぞ!
それじゃあみんなで、頂きます」
それに呼応して、同級生から頂きますの合唱が帰って来た。何だか小学校の頃に戻った気分なのは、担任だった三宅先生が同伴しているせいかも。
そこからは遠慮の無い昼食会、ホスト役の爺婆も孫やその同級生に囲まれて楽しそう。何しろ朋子の里帰りも、精々が年に4~6回程度の頻度でしか無い。
しかも去年は受験生だったので、その頻度はもっと下がっていたのだ。それが突然、放棄農地の開墾のために友達と農業の手伝いをするとの通知を受け。
毎週その作業に通って良いかとのお伺いには、さすがにビックリしたヨシ爺である。それも爺様が腰を悪くして、きつい作業全般が出来なくなってしまったとの報告を両親から受けたからみたい。
何と言うべきか、素晴らしい爺婆孝行である……まぁ手を貸すのは素人集団なので、その結果にはあまり期待はしていないけど。
農作業なら幾らでも指導は出来るし、こうして家が賑やかになるだけで嬉しい変化ではある。
スミ婆が、客人のお持て成しを張り切るのも仕方が無い。何しろ若い人との触れ合いは、人生に張りが出来て楽しいのだ。
何より、荒れて行く田畑を毎日目にするのは、苦行以外の何物でもない。それが少しでも改善されるのなら、これ以上ない孫からの提案である。
現在、その孫と友達(それから保護者1名)は、それは賑やかに昼食を口に運んでいる。ただし、元担任の先生がいるせいか、節度は保って騒がしいって程では無い。
テーブルに用意された料理の数々は、瞬く間に減っていて見ていて気持ちが良い程。特に人気なのが、自家製の漬物や近所で採れた山菜なのは意外だった。
料理を手伝った先生が、山菜の種類を丁寧に生徒達に説明している。既に季節が過ぎているので、そんなに色々と種類がある訳では無いけれど。
スーパーなどでは決して売ってない食材は、何と言うか個性のある味わいには違いない。初めて食べた者も複数存在し、その味には割と高い評価が飛び交っている。
その内に、ご飯お替わりを望む者も出現して体重を気にする女性陣だったり。つまりは、朋子や知佳もご飯2杯目組に堂々と名を連ねた訳だ。
ちなみに、三宅先生も恥ずかしがりながらその列に加わる素振り。
「んむっ、お昼ご飯をお替わりしたのは初めてかも知れない……午後に動けるか不安だが、何故かテンションは凄く上がってるな」
「おいおい、まだ仕事前だってのに食い過ぎるなよ、ガンちゃん……でも総菜もこれだけ多いと、食べててもテンション上がる気持ちは分かるかな」
「最初に耕す土地は、だいたいの目安が付いたんでしょ? 午後は女性陣も手伝うから、きっと予定よりは捗ると思うよっ!
ヨシ爺ちゃん、ちゃんと指導をお願いねっ」
任せておけと、可愛い孫の言葉にご機嫌な返答のお爺である。とは言え、本当に開拓計画が順調に進むのかは、誰も分かり様がないと言うこの現状。
そんな賑やかな昼食も恙無く終わって、食後の休息の時間となった。充希は基哉と一緒に、お茶を飲みながら計画の練り直しを話し合う。
それに三宅先生も加わって、あれこれと知恵を出してくれる。ちなみにこのお茶も、斎藤家で栽培して摘んで焙煎したモノらしい。
その味わいは、市販の物と香りからして全く違っている。
3名で相談した結果、この邸宅の周辺の地図が必要なんじゃないかと言う話になった。それでグーグルマップをスマホで表示して、基哉が画用紙に書き出す作業を行う事に。
それがある程度形になったら、ヨシ爺に斎藤家の敷地がどこまでなのかを教わる。それに赤線で境界線を書き込みながら、開拓計画を進めて行く流れに。
こうやって机上の予定だけなら、それはとっても楽しい作業。
ただし実際に体を動かして進めるとなると、恐らくとっても大変に違いない。都会育ちの現代っ子が、その労働に耐えられるかがとっても不安。
その辺は、三宅先生まで計画に巻き込んだ以上は、全員物凄く頑張って作業を行う筈。作物を育てるのにも興味はあるし、そんな容易に弱音など吐けない。
諸々の事情を鑑みて、少なくとも1シーズンは作業を継続しないと。その辺の覚悟が定まってるのは、果たしてグループの中に何人存在するだろう。
少なくとも、リーダー役の充希はヤル気に満ち溢れている感じを受ける。今も基哉の書いた地図を眺めて、その広大な放棄農地にニンマリと笑みを浮かべている。
その脳内では、既に蘇った農園風景が拡がっているのかも?
「ふむふむ、さっきお爺が最初に手掛けろと言ってた放棄地はここだな……見てみろモッチー、その周辺もほぼ全部が斎藤家の敷地だぞっ。
宝の山だな、この先何だって出来る気がするな!」
「いや、畑で出来るのは農作物だけだからな、ガンちゃん……悪い顔になってるぞ、ホストが引くから早々に引っ込めてくれ。
女性陣は、さっき既に何を植えるかを話し合ってたみたいだな。話によると、大根やシソ、オクラやナスやピーマンが素人でも失敗し難いそうだ」
「出来れば今日中に草を刈って、地面が出て来たら耕して石灰を撒くのがいいんだって。そんで土を中性にしてから、肥料を撒いて畝を作るみたいだよ。
まぁ、やり方は農家によって色々あるらしいんだけどね?」
色々とあるらしいけど、1年以上放棄していた田畑なので、土の状態は良くないと思われる。その辺を考慮に入れつつ、肥料も気にして入れてみるそうだ。
素人の充希たちにしてみれば、お爺の指導に従う以外の選択肢は無い。そんな話をしながら、食後の休憩をみんなでワイワイと過ごして行く。
それからいよいよ、野外に出ての農作業の開始と相成った。天気は上々で、まさに野外活動にはうってつけな感じ。その日差し対策にと、朋子は家から大き目のパラソルを持参して準備もバッチリ。
アドバイザー役のヨシ爺には、そこにいて監視して貰う心積もりのようである。幸い野外に持ち出せる椅子も、納屋に転がっていたのでそれを持ち出す事に。
農機具を運び出す者、爺婆のベースキャンプを作る者と、若者の集団は機敏に動き始める。主に指示するのはヨシ爺だが、女性陣も積極的に動いている。
そして程無く、男性陣が草刈りを始められる態勢に。
――その一番手は、やっぱり充希の模様である。




