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週末の大混乱②



 15分後には、三宅先生の運転する白バンは山間部へと突入して行った。建物より木々の景色の方が多くなり、モロに田舎の風景が周囲に拡がり始める。

 標高も少しずつ高くなって行き、そんな山の中の田舎の県道を一行を乗せた車は進んで行く。長閑のどかな風景に、車内の面々もお気楽にコメントを述べている。


 そして更に10分後、朋子ともこのナビは段々と細かくなって行った。とは言え、そこまで分岐と言うか道は無いので、三宅先生も混乱はしていない様子。

 最終的に、田舎の大きな邸宅前に無事に到着を果たす白バン。駐車場の指定も曖昧で、まぁどこに停めても誰の邪魔にもならない敷地の広さだ。


「さあみんな、お爺ちゃん家に着いたよっ……運転お疲れさまでした、三宅先生っ。取り敢えず、庭の奥の車庫前に停めていいかお爺ちゃんに訊いてきますね?」

「うわ~っ、本当に田舎だぁ……家の前は畑や田んぼで、家の裏側は山があって竹林があってって感じだね。凄いなぁ、敷地のスケールが違うよっ!

 何と較べて違うかは、ちょっと説明出来ないけどっ」

「そうだな、言いたい事は何となくだが分かるぞ、知佳ちか。それはともかく、だいたい予定通りの時間での到着となったし、お昼まで1時間くらいは作業が出来るな。

 一応お昼はおごって貰えるそうだが、女性陣はその支度の手伝いを頼んだぞ。男性陣は、取り敢えず最初に取り掛かる畑を選んで、そこの草刈りを始めてしまおうか。

 そんな感じで良いか、朋子?」


 訊ねられた朋子は、多少舞い上がった様子で何度か頷きを返す。それから細かい事は、お爺ちゃんを通した方がスムーズに進むかもと進言してくれた。

 それは全くその通りで、土地の所有者を抜きにして計画を進めるのは不義理に当たる。三宅先生も、まずは挨拶がしたいと朋子の後について行く素振り。


 そんな感じで、あちこちで混乱と言うかマイペースな集団の至らなさが露呈ろていした状態。それでも和也と直哉なおやは、自分のスマホで早速の動画撮影など始めている。

 そこにようやく、おもむきのある田舎の屋敷の勝手口から老夫婦が揃って顔を出して来た。それから、朋子の口添えを交えつつメンバーの紹介が行われて行く。



 幸いな事に、朋子の祖父母は孫に甘々な柔和な性格の人物だった。爺様の方は、最初の方こそどいつが可愛い孫のボーイフレンドだって厳しい表情を見せていたけど。

 三宅先生の紹介の段になると、途端に柔和な顔付きへとなって行き。心配されていた腰の状態も、歩けないほどには酷くも無い事が分かって一安心。

 とは言え、80過ぎの老人に無理はさせられないのも当然。


 その辺は事前に話し合って、とにかく重労働に関しては男性陣が頑張るって事で話は付いている。女性陣は、食事の支度とか家のお手伝いとか、祖父母の点数稼ぎ的な労働をして貰うのも事前に承諾済み。

 後は動画にえる感じで、外仕事も少々こなす感じだろうか。ちなみに動画の撮影は、男性陣で手の空いた者が手分けして行う事になっている。


 今の所は、積極的にそれをになってるのは和也と直哉だけみたい。ただし三宅先生も、結構値の張るビデオカメラを持参していて、その辺は抜かりも無い感じ。

 職業柄、その手の撮影も慣れたモノみたいで頼もしくはある。


「それじゃあ早速だけど、お昼まで少し労働させて貰っていいですか? 時期的にも、なるべく早く苗を植えた方が良い野菜もあるだろうし。

 専用の道具を使うなら、少しでも慣れて行きたいですしね」

「そうじゃな、それじゃあ男衆は付いといで……草刈り機を交代で使って、野菜を育てる畑だけ綺麗にならして行けばええじゃろ。

 残りのモンは、鎌で周りの邪魔な草を刈ったり、刈った草を一か所に集める作業をすりゃええ。おっ、軍手やらは全員用意しとるな、ヤル気はあるみたいでええこっちゃ」

「草刈り機かぁ、何か大変そう……誰が最初に使う?」


 スマホで撮影を続ける和也の呟きに、俺が最初だと当然とばかりに立候補をする充希みつき。既に麦わら帽子をかぶって軍手をして、率先してヤル気満々である。

 それから納屋へと移動して、仕舞われている草刈り機を全員で眺める。その使用方法を爺様から聞く男性陣は、みんなして大真面目な顔付き。


 何しろ、使い方を間違えると大怪我するぞと、最初に爺様から脅し文句が飛んで来たのだ。まぁそれも当然と言うか、回転する先端の円盤状の刃は凶器そのもの。

 最近は金属では無く、ナイロンカッターとかも売ってはいるそうではある。ただし切断力は弱いので、手強いやぶ相手にはとっても不向きらしい。


 そんな訳で、今回使うのも金属製の回転ソーである。構造は単純なこの草刈り機だが、実際に肩から釣りひもで担いでみると、なかなか重くて取り扱いは大変そう。

 安全のためには、専用のエプロンや眼鏡防具も必要らしく、今日の気候だと少々暑苦しく感じる。それでも怪我をしたくない充希は、素直に防具を装着する。


「使うモンは、背後に人の気配を感じても絶対に機械ごと振り向かんようにな。周りの連中も、作業中のモンには絶対に不用意に近付かんように。

 下手すりゃ、脚や腕が無くなるでな」

「それは怖い……このフェイスガードも、付けて作業した方が良いんですよね、爺様?」


 回転刃に石とかがぶつかると、破片があっちこっちに飛んで行くそう。目とかに入ったら危ないし、使用中は肌は露出しない方が良いとの事。

 そんな割と怖い機械だが、草刈りを手作業でこなすよりは遥かにマシと言うか。広大な敷地を持つ農家では、必ず一家に1台以上は所有しているアイテムなのだそう。


 お値段は、お手軽タイプだと1万円とちょっとで購入可能。ただし軽量化タイプの良いモノになると、その数倍のモノも存在する。果ては乗用草刈り機なんて奴も売ってるそうだが、使い場所は平場に限られるので意外と普及していない。

 そんな説明を、男性陣の後ろから女性陣もしっかり聞いていたようで。興味津々な様子で、どうやって使うのかをあちこちから覗き込んでいる。



 そんな訳で、説明を聞きながらまずはエンジンを掛けようと奮闘する充希。爺様に言われた通り、燃料を確認してスターターの紐を勢い良く引っ張ってやる。

 試行錯誤を数回繰り返したのちに、ようやくの事軽快なエンジン音が響いてくれた。その成功に、仲間からお~っと喜びと興奮の掛け声が漏れて来る。

 充希も内心では、してやったりとガッツポーズ。


 そんな感情はおくびにも出さず、その後も爺様の指示に従ってベルトを肩に掛けての作業動作確認。手元のレバーを調整すると刃が回転し始め、回転数を調整させてから作業に移る感じで合ってそう。

 爺様は杖をつきながら、納屋のすぐ隣の草むらを指差す。そこは雑草が生え放題で、元は恐らく敷地内の小さな畑だったのだろう。


 試しにそこを刈るように指示された充希は、四苦八苦しながらパワー調整を終えて。派手に回転し始めた刃を、恐る恐る雑草の塊へと近付けて行く。

 そこからの一連の作業は、何と言うか初心者感は丸出しだったモノの。本人的には達成感はあったようで、しばらくしてからエンジンを止めて基哉もとなりと交代した。


 基哉の方も緊張しつつ、エンジンを回す所から肩に担ぐ流れまでをしっかり反復。それからおっかなびっくり、雑草を刈る所まで演習をこなした。

 その感想だけど、なるほどこれを長時間は腰にくるし辛いかも。





 ――とは言え、計画の放棄農地の復興はまだ始まったばかり。








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