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木曜日の集会③



 先ほどまでいじめ問題や、学校を不登校でも大成した人物について熱く語っていた学生達だったけど。直哉の母親が、毎度のごとくお茶を差し入れしてくれてのティータイムへと突入して行った。

 それぞれに礼を言って、議論に熱くなった脳と喉を休めつつ。差し入れのケーキのお礼にと、一刻も早く野菜の収穫にぎつけようぜと変な盛り上がりをみせる一行である。


 朋子ともこも田舎の収穫物は、祖父母が元気だった頃はとっても楽しみだったと口にする。それを再び、皆で楽しめる様になればこれ以上の幸せは無い。

 それこそ“感謝”だなと、充希も自分の提案にいたく満足そうである。ただし、その収穫までに至る労働の大変さは、マルっと無視しているのが何とも。


 その苦労を今から予感してるのは、どうやらこの場では和也のみのよう。彼も小学校の頃には、田舎の草刈りやら子供会での神社掃除やら、課外活動はそれなりにこなした経験があるのだ。

 それを踏まえて、休みの労働の過酷さを口にする和也ではあったけど。盛り上がる他の面々は、友達と一緒なら平気さって変なノリをかもし出している。


「それにしても、本気で俺らだけで農地開拓って出来るモノなの? 岩尾っち……充希みつき君も農業経験なんて、ほとんどないんでしょ?

 俺ら素人集団なのに、あんまり大風呂敷を拡げない方が」

「心配するな、和也……確かに俺らだけじゃ、ただの素人集団に過ぎないだろう。ただしこちらには、朋子の爺さんと言うプロのアドバイザーが付いてるんだ。

 それを信じて、俺たちはただその通りに動けばいい」

「ふむっ、俺ら全員長い受験期間で、体力は落ちてるかも知れないけどな。そこは無理せず、ちょっとずつ交代でやって行けば何とかなるだろう。

 これだけ人数がいるんだ、時間を掛ければ平気じゃないかな」


 和也の心配を軽く一蹴する充希と、それをフォローする基哉もとなりと言う構図に。何をやる前から染みっれた事を言ってるのと、知佳ちかが発破を掛けている。

 朋子もウチの爺ちゃんを信じなさいと、腰は痛めてもまだ全然ボケてないよと爺様への信頼は揺らぎない様子。婆ちゃんのご飯も美味しいからと、向こうでの活動が本当に楽しみみたい。


 皆にそこまで言われたら、不安を引っ込めるしかない和也である。ただし直哉からは、もう少し粘って文句を言ってよと、秘やかな思念など飛んで来ていたり。

 いや、久々の野外活動は楽しみの部分も多いのだけど。基哉の言う通り、確かに1年に渡る受験勉強で体力の面での不安はいなめない。


 その辺の心配は実は割と大きいけど、田舎の爺婆の家へと訪れる情景ってのには憧れるモノもある。直哉の両親の田舎は、遠かったりすでに亡くなってたりでそんなイベントは人生で数える程なのだ。

 充希の言う“感謝”の念に関しては、イマイチ心に響かない直哉ではあるけど。自分達で作った野菜を皆で食するってのは、なんだか青春してるみたいで楽しいかも。

 そんな事を考える直哉に、充希が更なる衝撃発現を繰り出した。


「大丈夫だ、何なら毎朝早起きして一緒にランニングでもするか? 俺は受験の終わった春先から、軽く毎朝走ってるぞ……近くの運動公園で、学校に行く前の時間に。

 家で飼ってる犬の散歩は、俺の役目だからな」

「確かに、夏に向けて体力強化は必要かもな……最近は毎年猛暑だし、体力をつけておかないと無事に乗り切れない可能性もあるぞ。

 若いからって、それに胡坐あぐらをかいてたら体調崩して大変だぞ」

「ガンちゃん家、犬を飼ってたんだ……いいなぁ、今度朋ちゃんと触りに行って良い?」


 別に良いけどただの雑種だぞと、充希は知佳の言葉に呆れた口調の返し。朋子はウチの祖父母の田舎にも、動物はいっぱいいるよとスマホを取り出して友達に見せびらかしている。

 ちなみに、堅苦しい基哉もとなりの小言は全員にスルーされて悲しい限り。そんな空気の中、それじゃあ次はモッチーの発言の番かなとバトンを渡す議長の充希であった。

 それに応じて、基哉は今回持ち寄った議題を皆に紹介する。




 この会の方針として、週末の農地開拓と一緒に動画の撮影も進めると言う事で。基哉のネタは、今流行(はやり)りのユーチューブ動画の売りを何にするかって事らしい。

 この計画を推し進めるには、資格の類いは一切(いっさい)要らないし誰でも参加は可能である。その分、何かしらの他の動画との区分け的な目玉が欲しい所ではある。


 それを不登校とかニートにするのも、まぁ分かり易いとは思うのだが。先駆者がいて色々と問題になっているので、二番(せん)じはどうかなって話らしい。

 とは言え、女子高生を前面に出すのも違う気がする。他にも、仲良し集団が何かわちゃわちゃやってる動画も、割とバズってる時代なのだそう。


 その辺の動画を次々と紹介して行く基哉に、スマホを取り出した一行はその動画の確認に忙しい。それから、これ知ってるとか有名だよねなどの意見がちらほら。

 議長の充希みつきは、その辺にはうといらしくて隣の和也の画面を眺めてしかめっ面を崩さない。こんなのが流行ってるのかと、一般的な好みのラインが良く分かっていないよう。


「ああっ、確かに小学生の不登校児がちょっと前に話題になってたな……ユーチューブとかクラウドファンディングやって、問題発言で世間に叩かれたんだっけか?

 良くは知らないけど、勉強しなくても自分で稼げるんならいいんじゃないか? 良い年代の大人だって炎上商法やってるんだし、稼ぐのは日本では正義って認識だろう?」

「それって確か、少年革命家って名前で活動している小学生不登校ユーチューバーだっけ。言われてみれば、発言に関しては賛否両論があったよねぇ。

 何だっけ……確か真面目に学校行ってる生徒を、ロボットみたいって発言して炎上したんじゃなかったかな?」

「こっちの友達同士で騒ぐだけの動画、何か楽しそうでいいかもねっ……なるほど、確かに楽しい雰囲気を観てる人にお裾分すそわけするってのはいいかも?

 これなら、私達も無理せず自然体で撮れるんじゃないかなっ?」


 そんな感じで提示された動画を評価して行く面々は、気儘に発言して騒がしい限り。それでも今後の指針に関しては、ボチボチ個々の頭の中で形になっていってる模様。

 そう言う意味では、基哉の目論見もくろみはバッチリはまって良いスパイスになったかも。ところが充希は、例の少年革命家が気になって仕方が無い様子。


 和也もこの動画と、それからSNSでのやり取りはよく覚えていたようだ。充希に説明しながら、不登校児のユーチューバーは必ずしも成功したとは言えないねと言及する。

 例えば、クラウドファンディングで金を集めて日本一周する企画も、公約を果たしているとは言い難い内容だったそうで。日本中の不登校児の希望になるって話はどうなったと、他人から金を集めてただ旅行を楽しんでるんじゃねえとの、世論の突っ込みが殺到したそう。


 他人から金を貰うには、確かに責任も付きまとうよなと、小学生にお金を集めさせてのこの方式に基哉も否定的な様子。そもそもその辺の教養を身につけさせるのが、親の存在や学校教育の本分では無いかと口にする。

 先ほど話に出た“エジソン”や“オードリー・タン”も、確かに学校には行ってなかった。その分、親やネットからしっかり知識を得て、元となる教養が身に付いたのだ。


 そもそも不登校を売りにしても、義務教育の期間が終わればその売り自体が無くなってしまう。一時(いっとき)は希少性を売りに出来るけど、時間をればただの低学歴のユーチューバ―となってしまう。

 その辺のメリットやデメリットを、果たして真面目に考えているのやら。





 ――ただまぁ、出る釘を打ちえる日本人の気質もどうなのだろう?








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