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木曜日の集会①



 恒例となった『ニー党連合』の集会だが、今回は木曜日の開催となった。これは週に2日の場合は、月木にしようと充希みつきが決めたせいでもある。

 幸いにも、前回集まった仲間は全員出席となった。逆に、金曜日は都合が悪いかもと口にする者が多数出現。何しろ学生にとっても花の金曜日、遊びの予定も入ろうと言うモノ。


「それじゃあ、この会合は毎週の月曜日と木曜日で固定にするか……まぁ、必ず全員が出席すべしって強制もないし、その辺は曖昧あいまいで良い気はするんだが。

 週末の耕作放棄地の開拓もあるし、今後は週1でもいい位かもな」

「そうだな、まぁ当分は月木で集会をするでいいんじゃないか、ガンちゃん。やる事が増えて来たら、その度に調整すれば良いだろう」

「そうね、私もそれでいいと思うわ」


 朋子ともこの発言に知佳ちかも同じく同意して、これで来週も会合は月木で行うと決定がなされた。この集まりも、週末に本格的に稼働予定だし形が出来て来たかも。

 まだまだ『ニー党連合』の存在目的や、指針に関しては不透明には違いない。ましてや実績など、直哉なおやの現状を見て分かるように皆無に等しい。


 とは言え、この会合の仲間に入れて貰っている直哉は、所属する場所が出来て少し嬉しそう。毎回こうやって部屋を占領されるのはアレだが、母親が安心してくれるのが何より大きい。

 傍目はためから見れば、確かに友達が心配して駆けつけてくれてると見えなくもない。実際は、各自が怪しいネタを持ち寄って、それを熱く議論しているだけなのだが。


 それでも、直哉もニートや不登校問題に関する知識は、以前よりずっと増えたのは確か。自分の置かれた状況を、しっかり把握するのは問題解決に対しても良い兆候だと思う。

 例えば、ニートの定義は15~34歳までとされているとか。その人数は全国で70万人とか、下手をするともっと多いとか。


 そう言えば、直哉もちょっと前にニュースで『50‐80問題』と言うのを耳にした事があった。それは確か、50代のニートの子供を80代の年金受給者の親が養っていると言う話だった筈。

 退職後は夫婦でゆったり過ごす計画の筈が、金銭的にも精神的にも自立出来ない子供の負担が老いた両親にのしかかってしまう訳だ。その危うさやいびつさは、説明されなくても分かってしまう程。


 しかも現代の年金支給額は、高齢者の急増に伴って目減りする一方である。前回のシノさんの家への訪問から、格差社会の酷さも少しだけ仲間内で議論されていた。

 つまりしっかり働いている者も、低賃金から将来の貯えもろくに出来ていないのが現代社会の実情であると。このまま行けば、日本社会が破綻するのは目に見えているって結論になっていたような。

 つまりは働こうが働くまいが、将来的には結論は同じって事?



 そんな結論を突き付けられて、混乱する直哉だがこのままニートの仲間入りをしたいとなどは思っていない。ただし今の状態で学校に復学しても、授業速度について行けず友達もおらずで、辛い思いをするだけなのが分かっている。

 そんな苦境を身体が思いっ切り拒否していて、やむを得ず部屋にこもっているだけなのだ。現に基哉もとなりが毎回持って来る、プリントやテキストなどの課題に関しては必ずきっちりこなしている。


 そして採点からの、テキスト範囲の予習を言い渡されるのが毎回のルーティン。この優秀な友達は、来訪の度に先生役もきっちりこなしてくれているのだ。

 ついでに最近は、楽しそうなユーチューブの無料授業のURLまで教えてくれて。直哉にとっては、至れり尽くせりな理想の先生役だったり。


 ついでと言ってはアレだが、読書好きの和也と言う新しい友達とも本の貸し借りを行うようになっていた。って言うか、向こうが勝手に本棚をあさって、好みの本を借りて行くよとの申し出である。

 その代わりにと、自分のお勧めの小説やコミックを置いて行ってくれるのだ。こんなやり取りが何度か続いており、最近は充希みつきもそれに加わるようになった感じ。


 お陰で読書の幅も、最近は我知らず拡がって世界も広がった気分。家に閉じこもっている筈なのに、そんな気持ちになるとは何だか新鮮である。

 とは言え、世間からは隔絶されて外を出歩くのが苦痛になっているのも事実。今の所は、定期的に友達か訪れてくれてるので、孤独感にはさいなまれていなのは良い点かも。

 そんな感じで、今回も読書感想の軽いトークから集会は始まっていた。


「今回置いて行った小説、もう読み終わったかい、直哉君? 俺的には、この作家さんのシリーズは割と好みなんだけどな。

 ドラマやコミックにもなってるし、設定が奥深いよね」

「うん、確かに面白かったよ……続きがあれば読みたいかな。謎解きとか人物関係も絡まって、良く出来てると思うし。

 ドラマは見た事無いけど、ちょっと気になるね」

「何だ、評判良いなら次は俺に貸してくれ」


 充希も混じって盛り上がってるのは、和也がこの部屋に置いて行った『ビブリア古書堂の事件手帖』と言うタイトルの推理小説。随分前に流行したが、シリーズ物なので未だに続きが出ている。

 直哉の気に入ったと言う返答に、和也はそう言われると思ってと鞄から小説の束を取り出した。続きも全部持って来たようで、さあ読めと言わんばかりに勉強机の上にドサッと置いて読者をつのっている。


 ちなみに直哉の読んだ1巻は、充希が借りて持って帰る様子。和也はネタバレにならない程度に、小説のあらすじを充希に説明している。

 会合前から室内が賑やかな雰囲気なのは、まぁいつもの事だ。


 朋子と知佳もお喋りしているし、基哉もとなりも持って来た今回分のプリントを直哉へと渡している。そんな最初の喧騒けんそうを制して、充希が会合を始めるぞとの厳かな開催告知を皆に告げる。

 その言葉に、ピタッと静かになるのはさすがである。




 そして今日は誰から行こうかと、集会の発言の順番決めの催促に。素早く知佳ちかが、それじゃあ私からとトップバッターを買って出た。

 今日も元気な少女は、早く発言したくてたまらないって表情。その内容に皆が驚く姿が、今から楽しみで仕方が無いって感じをかもし出している。


「えっとね、この前の集会の次の日に、週末の移動問題をどうしようかってともちゃんと話し合ってたの。そしたら偶然、それを解決する方法が見付かって。

 詳しく話すと驚きが無いから、週末まで秘密でいいよね?」

「こら知佳ちかっ、いいわけ無いだろう……こっちにも心の準備とか、大人相手だと気を使うとか色々あるんだ。

 そこら辺は、前もってちゃんと言ってくれなきゃ困るだろうが」

「その辺は私たち女性陣でするから、男性陣は準備をして集合場所に来てくれるだけでいいよ。週間天気予報でも週末は晴れるみたいだし、祖父母にもしっかりと話はついてるから。

 後は現地で頑張って、なるべく早く野菜の苗の植え付けが出来るようにしなきゃね。多分とっても大変だろうけど、男性陣は頑張ってね!」


 そう言う朋子も、まるで悪戯いたずらっ子の雰囲気でとっても楽しそう。それを見て警戒する男性陣だが、一体何に備えればよいのかまるで分らないと言う。

 そんな感じで散々場を荒した知佳は、一連の成果を報告して自分のターンを終了させた。まぁ、追加で朋子から駅前10時集合ねと言い渡されたけど。


 ちなみに、お昼は祖父母が用意してくれるそうで、持って来なくて良いとの事。これは労働に対する正当な報酬なので、遠慮はしなくて良いそうだ。

 その辺の話を素早く煮詰めてくれる朋子は、相変わらずとっても優秀には違いない。さすが学級委員長をこなしていただけはある、段取りの詰め方は手馴れている感じを受ける。

 これで週末のプランは、無事に進行が出来そうだ。





 ――これが『ニー党連合』の、華々しい船出となれば良いのだが。








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