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三宅先生と言う人物①



 月曜日の集会が無事に終わった次の日の放課後、朋子ともこ知佳ちかにラインを貰っての待ち合わせ中。どうやら初参加した会合の内容に、知佳はいたく感銘を受けた様子で何か活動しようと提案して来た。

 つまりは女子2人だけで、宿題に貰った課題だけでも何とかクリアしようと。そんな感じでのラインのお誘いに、朋子もいなも無く応じての駅前集合の途中である。


 その課題とは、つまりは週末の祖父母の田舎までの移動方法に他ならない。リーダーの充希みつきからは、スタートしたばかりの『ニー党連合』の活動に、外部からの過剰な負担を求めるのは禁止すると言い渡されており。

 つまりは親を当てにして、金を出して貰うのはご法度との意味である。車を出して貰う位なら良いが、レンタカーを用意して貰ったりと行き過ぎのサービスを求めるのはよろしくない。


 そう言われると、途端に頼る先がとぼしくなってしまうのは学生の身分では仕方がない。話し合いで解決出来るとは思えないが、知佳は考えるより行動が信条の娘である。

 つまりは、そう言う思いが先走りがちなのはこの際仕方がない。朋子はこの友達とは付き合いが長いので、巻き込まれるのも慣れている。


 そんな訳で、一応はこの解決案を前もって考えていた朋子だったのだけれど。この日の集合まで、具体的な案はやっぱり出て来ない始末。

 アグレッシブな性格の知佳だが、彼女にしてもこの問題の解決は難しいかも。知佳は小中学校でスポーツ部に所属していただけあって、体力も根気も自慢出来るレベルではある。


 とは言うモノの、今回の週末の移動問題は知恵を絞らないと解決は無理な案件。知佳の長所は役に立たないかもだが、いてくれるだけで心強いのが友達である。

 そして無事に合流を果たした両者は、揃って商店街方面へと歩き始めた。何となくで決めた道のりだが、行く先も特に決めておらず自然と足が向いた感じ。


「えっと、まずはともちゃんの家のファミリーカーが1台でしょ? ウチの父さんに聞いたけど、週末は用事があるそうで無理って言われちゃった。

 お母さんは免許持ってないし、ウチの車も小さいのしか無いからなぁ」

「ファミリーカーで良いから、もう1台あれば何とか移動は可能なんだけどね。もちろん、大きな車があれば全員で移動出来て楽ではあるんだけど。

 農機具とか苗とか買うかもだから、荷物も増えるだろうからねぇ」


 そんな話をお互いに語り合いながら、あれやこれやと案を出し合っての熱い議論。ウチから車だけでも出して貰おうかとか、出世払いでお小遣いを前借りしようとか。

 動画の再生数によっては、収入が入る仕組みは知佳も理解していたようで。それを会合の活動費にてれば良いと、そんな考えらしいのだけど。

 確かにその方法が、一番すんなりと事が運びそうな気も。



「今の所は、参加者の人数は全部で6人なんでしょ? 普通の乗用車でも、2台あればオッケーじゃん。向こうでガッツリ農作業するんなら、ガンちゃんが提案した男衆は自転車で行くのはさすがにきつすぎるよ!」

「そうだよね、バンタイプの車なら1台で済む問題なんだけど……あれっ、この辺りは小学校への通学路だね、知佳ちゃん。

 わあっ、道理で何か懐かしなって思ってたよ」

「本当だ、いつの間にか足が向いてたねっ……三宅みやけ先生は元気かなぁ?」


 そんな会話をしながら、子供の頃に毎日通っていた道を進む2人の女子学生。お互いに今着ている制服は違うが、心は無邪気だった頃に舞い戻っている。

 そんな訳で、話題はいつの間にか小学校時代のアレコレへと変わっていて。お互い懐かしい気分にひたりながら、気付けば小学校の裏入り口に到着していた。


 小学校は、当たり前だが6年間通う事になっている。その学年担当も年々変わるので、普通に考えれば6人の担任が頭に思い浮かぶ筈である。

 ところが、余程に思い入れが強いのか、2人が思い浮かぶのは4年生の担当だった三宅先生のみのよう。その思い出話は、多岐に渡ってまさに途切れることが無い。


 かしましく喋りたてながら、学校の敷地に近付いた朋子と知佳は、三宅先生の車はあるかなと駐車場を眺める素振り。当時をしっかり覚えている知佳は、ひょっとして先生に会えるかもとハイテンションである。

 確かクリーム色の軽自動車だったと、2人で探してみるけどそんな車はどこにも無い。朋子は駐車場に停まっている白いバンを目にして、これなら全員乗れるねとため息交じり。


 先生の車に関しては、結局は発見出来ずの有り様で残念な限り。あれから5年経ってるし、ひょっとしたら車を換えている可能性もある。

 ただし、転勤されたって話は聞いてないので、まだこの小学校に努めている筈。そんな感じで、2人はしばらく未練がましく裏道にたたずんでいた。


「転勤したって話は聞かないもんね、会いたいなぁ三宅先生……でも先生も担任持って忙しいだろうし、あんまり一方的に相談とかしても迷惑だろうなぁ」

「そうだね、ガンちゃんもダメだって止めてたし……でも、せっかくここまで来たんだから、一目でも会ってお話ししたいよねぇ。

 まぁ、『ニー党連合』の話を打ち明けるかは、ちょっと悩む所だけど」


 そんな事を話し合う2人は、先生専用の駐車場をフェンス越しに眺めながら完全に足を止めていた。そして懐かしさと逢いたさの狭間で、立ち去るのを躊躇ためらっていたりして。

 そんな朋子と知佳に、或いは運命の女神も同情したのかも知れない。不意に建物の影から、段ボールを幾つか抱えた女性が現れた。


 それから多少ヨタヨタしながら、駐車場に停めてある車へと近付いて行く。その女性は、朋子の注目していた白バンのドアを開けると、段ボールを後部座席へと降ろし始めた。

 その一連を眺めていた知佳が、いきなり三宅先生! と大声を出した。それからもの凄い勢いで、両手を上げてブンブンと振り回し始める。

 それはもう、隣の朋子がビックリする位の勢いで。


 その女性の正体に、遅まきながら気付いた朋子もすぐに同じ行為を始める。驚いているのは、急に名前を呼ばれた女性も同じく。

 それからすぐに、2人の制服の違う女生徒2人の存在に気付いてくれた。そして三宅先生と呼ばれた女性は、あらあらと言う感情のまま大股でフェンス前まで近付いて来た。


 そこからは、何と言うか感極まった女性特有の声のトーンでの応酬がしばらく続く。どうしてたのとか今はどこに通ってるのとか、先生と生徒の間で最近の話題について盛り上がりを見せている。

 知佳からは、三宅先生ちっとも変わらないですとか、朋子も昔の話をちょくちょく挟んで話題は途切れる事が無い。こんな所で長話もアレだけど、先生が言うには今のご時世だと、関係者以外は校舎内に招く事はご法度らしい。


 それを丁寧に謝る三宅先生は、昔と同じく優しさに満ちあふれている様子。それを感じられるだけで、朋子と知佳は小学校時代に戻って幸せな気持ちになれてしまう。

 そんな女生徒2人は、あの件を打ち明けるかどうしようかと目と目で確認を取り合う仕草。充希みつきからは禁じられているが、まさか三宅先生にここで出逢えるなんて運命以外の何物でもない。

 ましてや、先生が乗ってるのはうらやまし過ぎる白バンタイプの車である。





 ――これが運命でなくって何なのと、朋子は心中で思いわずらうのだった。








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