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岩尾充希と言う人物④



「つまり今回の農地開拓のケースだと、無理やりメンバーに加えて一緒に働く感じかな。なるほど、俺たちも体を動かすんだから、向こうも強く文句は言えないよな。

 今回の場合は、直哉なおやがそれに該当する訳なのかな?」

「今週末のイベントに、シノさんも誘ってもいいんだぞ、井ノ原。むしろ誰か、車持ちの運転手がいた方が有り難いからな。

 この集まりの顧問も、ついでに引き受けて欲しいくらいだ」

「うん、まぁ……向こうが何て言うか分からないけど、一応は誘ってみるよ。確かに多少でも強引にって考えは、現状の打破には必要かも知れないね」

「そうだろう、だがそれもきちんと受け皿を用意しての事だろうな。向こうが納得出来る働き口だとか、環境だとかが用意出来なきゃ無駄に終わりそうだし。

 ついでに今回の場合に関しては、稼ぎにはならない人助けだしな」


 それでも社会復帰の第一歩には、有効な手段じゃないかと基哉もとなりも太鼓判を押す構え。シノさんの参加を提案された和也も、それもアリかなと提案には前向きだ。

 ただまぁ、この案も受け皿となる働き口や環境を整えるのが大変には違いなく。ただの学生の身の上には、就職先の斡旋あっせんなど到底無理な相談である。


 それを踏まえて、出来る範囲で当分は頑張って行こうと改めて決意表明の面々。最初はとにかく耕作放棄地の開拓から、大変そうではあるけどやり甲斐はある。

 本気でそう思ってるのが、例え充希みつきだけだとしても列車は勢い良く発進してしまっている。それに乗ってる面々は、戦々恐々としながら付き従うのみ。


 その頃には、和也も覚悟を決めて週末の予定を脳内で組み立て始めていた。皆でお出掛け(?)もきっと楽しいに違いない、佐原の朋子ともこチャンも女友達を連れて来るって言ってたし。

 それに期待をしつつ、何度か田舎での労働にいそしむのも悪くは無いかも。ついでに動画撮影などするそうなので、それって充実した青春の一コマって言えなくもない。


 ちなみにこの案は、直哉の所属先の無い不安を解消するためのイベントでもあるとの充希の言葉に。確かに無理にでも外出に誘えば、仲間意識は芽生えるかもなと基哉のフォロー。

 何にしても、労働はとうといモノだと畑作業で認識するのは悪くない考えだ。この案は是非ぜひとも形にしたいと、畑作業などやった事の無い基哉は秘かに思う。


 そんな走り出したこの企画に、ある種の無敵感が存在するのも確か。元4年6組の頃の成功体験は、確実にその後の人生に影響を及ぼしている気がする。

 とにかく今後、一致団結して充希の立ち上げた計画を進めて行く所存。それで仮に上手く行かなくても、充希はすぐ別の案を思い付いてくれるだろう。

 そうやって、トライ&エラーを何度もりずに繰り返すのだ。




「何にしても、この企画は頑張って成功させたいな……最初のプランだし、それを軌道に乗せれば『ニー党連合』の勢いも自然と付くだろう。

 壮大な計画の第一歩だからな、是非とも盛り上げて行こう」

「そうね、私の爺ちゃんや婆ちゃんの為ってのもあるけど、ガンちゃんがせっかく思い付いてくれた計画だもんねっ。

 みんなで頑張って、動画を含めて成功させたいわよね」

「みんなの意気込みは分かったけど、クリアすべき難関は多いよなぁ。って言うか、まだ田舎へどうやって行くかも、方法は決まってないよね。

 ちなみに、3つ目の発見はどんな事、岩尾っち?」


 和也の催促に、充希は何だっけかなと束の間思い出す仕草。それからポンと手を叩いて、今日思い付いたばかりの発見を皆へと披露する。

 つまりは簡単な事だ、社会との繋がりが希薄なニート達は、専門の知識を得て社会に必要な人材となれば良い。いや、それは言う程には簡単な事では無いだろうけれど。


 とにかく3つ目は、大学などでは手に入らない“手に職をつける”と言う単純な事だ。オンライン授業なら尚良い、何しろ相手は家からほぼ出ないニート達だから。

 しかも全国各地に、数十万規模で散らばっていると来たもんだ。確かに『ニー党連合』は、何とも壮大な問題に取り組む事となったモノである。


 はたから見たら、勘違い集団と思われても仕方がないのは充希だって分かっている。それでもネットなどで発信を続けて行けば、賛同者も増えて来るかも知れない。

 壮大な計画だからって、別に綿密にプランニングしなきゃ駄目って事はない。適当にぎ出せば、偶然どこかで良い島や大陸を発見出来る事だってある。


 将来的には、そのオンライン授業は学びたい誰もが受講出来るようになれば良い。例えばプログラミング講習とか、そんな類いの専門分野を。

 ここまで来たら、確かに政府案件とかその類いのプロジェクトになってしまう感も。何しろそっち系の専門学校は、半年で数十万の受講料が必要らしいのだ。


 それを無料でとなると、あちこちの分野から非難が殺到するだろう。それでも専門の分野は他にもあるし、例えば農業だって上手くやれば儲かる筈。

 出荷先を限定するとか、ブランドを立ち上げるとか。その手の知恵を工夫すれば、まぁ小さな会社くらいは建てる事が可能な気もする。



「そんな訳で、直哉の為にも手に職がつく系のオンライン授業は、将来的に是非とも立ち上げたいな。まぁずっと先の話になるだろうが、“手に職を、年をとっても教育を”って感じのスローガンがいいかな。

 押しつけ教育の弊害は、改めて指摘しなくてもひどい有り様だからな。どこかのテレビのコーナーで、街行く大人に日本地図を書いて貰うって企画をやってたんだが。

 何と半分の人間が地図を正確に描けなくて、教育って何だって思ったぞ?」

「あぁ、それは何となく分かるかも……そもそも半日も教室にしばり付けられて、好きでも無い授業を受けてる時点で既に拷問だもんね。

 特に興味が無い授業なんて、頭を素通りしちゃうのは仕方ないよ」

「素通りするのはどうかと思うが、勉強は幾つになっても受けれるシステムは面白いかもな。特にニートの唯一の利点は、幾らでも暇な時間があるって事なんだから。

 そこを活用しなくちゃ、勿体無いって話ではあるよな」

「だよな、俺は才能はいつ開花しても良いと思ってる。例えば80歳でプログラム技術を習得したお婆ちゃんが、ちょっと前にテレビで話題になったじゃないか。

 人間は、ヤル気さえあれば年齢は関係ないんだよ」


 確かにそうかもと、壮大な計画を前に盛り上がる一行である。ただしこちらの案件は、まるで取っ掛かりが無いってのが悲しい所。

 そんな話を仲間内で話し合いながら、今回のプリントを直哉へと手渡してお茶をにごす基哉であった。この3つ目の充希の案に関しては、その手の専門職の習得を仲間内で配分して極めるのが先かも知れない。


 そう考えると、本当に壮大な計画には違いない……そしてかなりの長期戦になるが、それはまぁ仕方がないだろう。何せ全国の数十万人のニートを救うのだ、一朝一夕に済む問題では決して無い。

 仲間もこれから増えて行くだろうし、そうすれば出来る事もきっと増えて行くだろう。そうすると、やはり毎回の活動場所の確保を早急にすべきかも。

 直哉なおやの母親は友達の来訪を、とっても歓迎してくれているとしてもだ。


 長期で続ける活動となるなら、その辺はキッチリとしておかないと後で厄介事を招く恐れが。そして顧問の問題だか……充希は嫌がっていたが、やはり基哉もとなりが考えるに適任は三宅先生くらいしか思いつかない。

 とは言え、相手もバリバリ職を持っているし、しかも激務の教員職と来ている。ホイホイと気軽に、放課後の貴重な時間をこちらに費やしてくれとは頼めない。


 最後の充希が語り終えた事で、場はすっかり終焉の雰囲気に。それぞれが持ち上がった案件を吟味したり、次の集会曜日を確認したりと会話が弾んでいる。

 今週は3回も集まったから、来週は月木にしようかと充希みつきの提案に。皆がそれでいいよとの返答で、来週は呆気無く2回の開催に決まった。

 そして毎度の決まり事として、充希がそれぞれにネタの持ち寄りを指示する。





 ――金曜の集会は、こうして無事に終了したのだった。








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