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岩尾充希と言う人物③



「ガンちゃん、また何か妙案を思いついたのか……? この『ニー党連合』も発足してまだ1週間だけど、有意義な議論も出来てるし好調と言えなくも無いな。

 ただし、肝心な直哉なおやの身の振り方に関しては全く定まって無いよな。まぁ、その辺はこっちからコレをしろと押し付けるのもアレだし」

「そうだな……確かに直哉の件に関しては、こっちから色んな案を提示するだけになるだろう。無理に押し付けたって、良い事は何も無いからな。

 後は直哉自身に、身の振り方をぼちぼち選んで貰うさ。それより、さっきまでの議論はどこまで進んでたっけ……?」

「親の金で大学に行けてる日本の若者は、もっと親や自身の境遇に感謝すべきね。まぁ、実際は大学進学者の半数が、奨学金に頼ってるそうだけど。

 そもそもそんな金銭面での甘やかしが、ニートの元なんじゃないかって意見も出たわね。そこはアメリカを見習って、家から追い出すレベルで厳しくすべきでいいと思う」


 朋子ともこの過激な発言に、まぁそれも1つの手ではあるかなと賛同する充希みつき。ニート問題は、働かない当事者だけの問題では決して無いのは、この1週間で良く分かった。

 親の精神的&経済的な負担もとっても大変だし、逆に親の甘やかしがニート状況の継続の一因となってる場合もあるのだ。ただまぁ、だからってニートを家から追い出して片付く問題でも無い気もする。


 朋子もそう言われると、確かに核家族化の増加は好ましくないわねと前言撤回の構え。田舎の腰の悪い祖父母問題とか、色々と考える事も多いのだろう。

 どうやら爺婆っ娘らしい朋子は、真面目に離れて暮らす老夫婦を心配している様子。それはともかく、基哉もとなりは場を眺めて自分の提出した話題を締めに掛かる。


 過去にはそれこそ、極悪な派遣会社も存在していたらしい。企業と派遣会社、及び行政組織の“搾取”が無くならない限り、そのツケは間違いなく近い将来、大いなる社会問題となって現れるだろう。

 具体的には、将来的に生活保護の受給世帯が激増するとの予見も出ているらしい。ニートも“働けない”のでなく“働かない”のなら、相応の立場に追い込まれるのは間違いない。


 何しろ、行政の手助けはいつだって無慈悲なのだ。それは仕方がない、彼らの財源だって無限に湧き出る訳では決して無いのだ。

 財政は市民が真面目に働いて、納めた税金に他ならないのは学校の社会の授業でちゃんと習った。それに加担していない70万人超のニートは、そう言う意味ではやはり肩身が狭くなるのは仕方がない気も。


 そう口にする基哉に、確かにそうだなとぬるい視線が直哉へと集まって行く。学生の内はまだ良いが、社会に飛び込まないのは罪だぞとの無言のプレッシャーはそれなり。

 『ニー党連合』の皆は、もちろんそんなルートを許容しないだろう。その点に関しては、何とも頼もし過ぎる面々なのであった。




 これで和也と朋子、それから基哉もとなりの持ち寄った話の提供は一通り終わった。直哉は当事者なので置いといて、次の話題の提案者は充希と言う事になる。

 時間ももうすぐ1時間、長居と言う訳でも無いが白熱した議論で全員がヒートアップしている。そこに直哉の母親が、休憩にしましょうとお盆にお茶を乗せて入って来た。


 そんな訳で、全員で束の間のティータイムに突入。議論で熱くなった頭と舌を休ませつつ、今は本題とは関係ない話題で盛り上がっていたり。

 例えば、お互いの学校生活の報告とか、新たに始めた趣味だとか。最近観て、気になったテレビ番組とか話題になってるアーティストだとか。


 まぁ、主にしゃべってるのは朋子と和也だけど。これは別に2人が気が合ってる訳では無くて、朋子のターゲットは相変わらず充希の模様。

 反対に和也は、部屋の主の直哉や母親を相手にそつなく会話を進めている。その点は、気遣いが出来ていて社会適応力の高さが窺える。


 基哉は、忘れない内にとノートに今日の議題のまとめを書き込んでいるみたい。今日の議題もそれぞれ盛り上がったので、書く事も多くて大変だ。

 そんな休憩時間を30分ほど過ごして、母親も空になったお盆を持って退出して行った。そしていよいよ充希みつきの発言の番となり、周囲には何となくの期待が立ち込める。


 その雰囲気を察してか、幾分もったいぶっての前振り的な態度をとる充希。それからおもむろに、それじゃあこの『ニー党連合』が、これから取り組むべき業務を発表しようと大風呂敷を広げ始めた。

 年に似合わぬ鷹揚な態度だが、これは小学校時代から変わって無いのは幼馴染達なら知る事実。指を3本立てながら、充希はその業務とやらを口にする。


「この1週間で、俺がこのチームで取り組むべきだと気付いた発見は全部で3つだ。まず最初のキーワードは、“感謝”と“差し伸べる手”だったかな。

 さっきも皆が言ってたように、俺たちは親や環境に対する感謝が圧倒的に足りない。ニートも同じく、養われている感謝は大事だと思うぞ」

「そうよねぇ、改めて感謝するって言っても、父の日とか母の日くらいだもんね。後はウチの家族でするとしたら、父さんのボーナス日くらい?

 それでその感謝の感情を、どういう風に表現するの、ガンちゃん?」

「まずは朋子が提示した、田舎の放棄農地を借りて実践しようかなと思ってる。そこで野菜を育てて、まずは大地の恵みの感謝からだな。

 それを親にプレゼントして調理して貰って、命と両親への感謝を得る。後はもちろん、爺婆への孝行も織り込んで行かなきゃだな。

 これがまずは1つ目の、ニート改善計画案にしようと思うがどうだろう?」


 なるほどと、その壮大な計画に感心する素振りの基哉である。そうすると、やっぱりもう少し人手が必要かなと今後の計画を脳内で計算し始める。

 その隣では、和也がどこからそんな話になったのと呆然としている感じ。朋子はひたすら張り切って、それと並行して動画の撮影をすればいいのねと確認などしている。


 直哉に関しては、何でそうなったと脳が勝手に現実逃避をしそうな勢い。窓からの景色を眺めて、今日もいい天気だなぁと別の事を考え始めていたりして。

 そもそも、自分の学力不足が招いたこの一連の引きこもり騒動である。いやまぁ、他にもコミュ力とか順応性も少々足りなかったかも知れないけれど。


 それが何故、「お前に足りないのは“感謝”の気持ちだ!」と決めつけられて、週末の野菜造りに駆り出されようとしているのだろう。

 余りに突飛過ぎるその流れに、直哉の脳みそは溺れてしまいそうに。


 半面、基哉もとなりは新たに誰を仲間に誘おうかと、脳内思考に忙しい。この計画はなかなか込み入ってるので、どこかが狂ったらいっぺんにオジャンになる可能性もある。

 提案者の朋子は、呑気に明日にも両親と祖父母から了解を得るねと約束を口にしている。とは言え、こちらは労働力の提供以外にも水面下でやる事は色々と存在するのも確か。


 取り敢えずはその田舎までの移動手段と、単純にこのメンツで放棄農地の回復が可能かどうかも確かめないと。その辺はまぁ、ベテランの農夫である朋子の爺婆の協力があれば可能な気もする。

 ただし、移動手段に関してはやはり誰か大人に頼るしかない気も。



 それに関しては、また皆で知恵を出し合って解決方法を模索するしか無いだろう。そんな感じでこの1つ目の計画は、全員の了承の元にスタートする事に。

 和也や直哉に関しては、マジかと言う表情を浮かべていたけど。関係者をなし崩し的に巻き込むのが、充希のパワーと言うかいつものやり方である。


 その点は基哉も信頼しているし、進んで手助けをする所存。そして2つ目は何だっけかなと、ノートに書きこみながら友人に続きをうながす素振り。

 それを受けて、2つ目の“差し伸べる手”の説明を始める充希である。これは要するに、ぬるま湯からのニート救出は多少でも強引にしなきゃ駄目だと言う論法らしい。


 つまりは、現状からの脱却の方法は色々と存在するとは言え。生ぬるい説得だけでなく、手を取ったら思い切り引き寄せないと事態は改善されないだろうと。

 多少強引になっても、ニートと社会を繋いでやらないと社会復帰は難しくなる一方だ。そう話す充希の瞳は、爛々(らんらん)と輝いて狙った獲物は逃がさないぜって勢い。

 それがチーム方針なら、従うよって構えの基哉と朋子も勢いは凄い。





 ――それについて行けない、和也や直哉は一体何を思う?








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