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金曜日の定例会④



 とにかくこれで、今後取り掛かる動画の案件は決定したとの充希みつきの宣言。これで和也と朋子ともこの持ち寄った題材は、一応消化された事になる。

 それじゃあ次は俺の番かなと、基哉もとなりが声を発しての発表の仕草。彼も水曜日のシノさん案件を経て、色々と気になった点をネットで調べて来たらしい。


 特に気になったのが、どうやら“正規社員と非正規雇用”と“搾取”と言う2つのワードで。その辺りを重点的に、ネットで調べて来たとの事。

 確かにシノさんがニートになった原因で、現代において重大な社会問題でもある。そもそもニートが悪いと世間は言うが、受け皿の社会にひずみがありまくりな現状は素人が見ても分かる。


 結果、働いて体や精神を病む人々と、働かず家にこもる者のどっちが良いのか。大いに悩む選択だが、そんな人達が多いのも事実なのかも知れない。

 その辺を抜きにして、現代のニート生活は語れないかなと基哉は口にした。


「確かにそうかも……シノさんも一時期、うつ状態が酷かったって聞いてたからね。2度とそんな目に遭いたくないって気持ち、分かる気がするなぁ」

「そうだな、ただしシノさんはああ言ってたけど、正規雇用も最近は大変みたいだぞ。手取り給与が15万円前後なんてザラみたいだし、そうなると非正規と変わらないよな。

 責任やノルマが乗っかる分、正規の方が大変って見方もあるし。ただまぁ、シノさんの言ってたように正規と非正規の仕事内容は全く一緒って現場もあるみたいだけど。

 そうなると短期雇用の非正規社員は、各種保障やボーナスが無い分、同じ仕事してて馬鹿らしくなるのも道理だよ」


 世の中不景気なのねぇと、朋子もその情報には驚いた様子。例えばだが、苦労して大学を奨学金制度を活用して卒業出来たとしても。せっかく入った会社の給与が15万円前後だったら、生活費や奨学金の返済で首が回らなくなってしまう。

 実際に、そんな事例は多いそうで『奨学金破産』なんて言葉もあるそうだ。それではせっかく大学を卒業したメリットなど、ほぼ無くなってしまう。


 何しろ4年制の大学だと、学費の借り受け金額も数百万になってしまう。幾ら利子が低いからと言って、長年に渡っての返済は確実につらいし大変だ。

 高学歴=高収入と言う時代は、もはや終わりを迎えたのかも知れない。


 そんな奨学金を受ける人数だが、何と大学の昼間部では55%の者が受給しているとの事。その割合を聞いて、半分以上なのと驚き顔の面々である。

 そこまでして学歴を得るのが有効かは不明だが、社会人をマイナススタートの若者が2人に1人いる事実は割と衝撃的かも。それがプラスに転じるのは、借金の額にもよるが一体何年後になるのだろう?


 更には、せっかく正規社員の座を獲得しても、低所得の生活では結婚や趣味どころの話では無いようで。将来への備えとしての貯金すらままならない、そんな独り暮らしの生活者が増えているそうな。

 基哉が軽くネットで得た情報では、それだけ現在は貧富の差は激しくなっているとの事。少子化問題の一因は、ハッキリと示されているのに政府は無策のままと言う有り様である。


 これが『高校無償化』で、一体どの程度緩和されるかも全く不明。一般世間の本当の希望が、果たしてどこにあるのかここまで届かないのかと基哉もとなりなどは呆れる思い。

 公務員が人気だったのも、既に昔の話と張り果てて。今は教職員が、ブラック職として公然と認知される時代に。定員割れ待ったなしとなって、昔の人気職の面影も無い具合だ。


 まぁ、昔は公務員は安定職で給料も良いと言うイメージがあったのも確か。それが現在は、退職金から何からガンガン減額されているのが実情だ。

 あれこれ苦労の多い教職員が、敬遠されるのも当然かも。


「そう言えば、結構前だけど教員の駆け込み退職問題がニュースで話題になってたな。結構な数の先生が退職手当の減額を避けて、クラスを受け持ってたにも関わらず、年度末を待たずに辞めちゃったとか騒いでた奴。

 ニュースでは無責任って批難する人と、仕方無いって擁護する人、両方いた記憶があったな」

「ああ、確かにあったな……でも実際は、駆け込み退職をした教職員は、全体の1割程度だったらしいぞ。しかも法令の前倒しで混乱したのは埼玉県だけで、県への批判の方が圧倒的だったみたいだな。

 結局は、民間と公務員の退職金の格差が根底にあったんだけど。政府は身を切る改革と言いつつ、しわ寄せは最前線の現場に来るばっかりなんだよな。

 年寄りの政治家は、相変わらず旨い汁を吸ってばかりの図式さ」


 皮肉交じりの基哉の説明に、なるほどねと重い空気の一同である。教育現場もそうだけど、農業も政府の無能な策で無茶苦茶にされたと爺ちゃんが怒ってたよと。

 朋子のプリプリとした表情の介入で、あちこちでの破綻はやはり政治にあるのかなと充希のまとめの言葉。その隣に座る基哉は、肩を竦めて同意の素振り。



 ただし、そんな感じで纏めてしまうと自分達が介入する余地が無くなってしまう。農業の不満案件は、また後で聞くからと何とか朋子を納得させて。

 それから充希は、2本の矢を掲げて話し始めた基哉に話の続きをうながす。確か持ち寄ったネット情報では、正規も非正規職も低取得層は等しく生活が辛いとの事で。

 まぁ、高収入を選べるだけ、正規職が有利って程度だろうか。


 高収入の非正規職など、危ない系か違法な仕事しか無いのだからその点は本当だろう。そんな高収入ルートは、やはり狭き門には違いない。

 副収入で株やFXを手掛けようにも、専門の知識がないと博打でしかない。これではユーチューバーがなりたい人気職の上位に入るのも、頷けると言うモノだ。


「それは置いといて、引き続き正規社員と非正規雇用の比較だけど。今や非正規雇用の割合は4割にまで到達して、5人に2人は派遣やバイトって有り様みたいだな。

 その癖、最低賃金を上げる上げないでうだうだやってるのは、まさに弱い者(いじ)めでしかないよな。そんな事だから経済が停滞するってのは、子供でも分かる理論だし。

 だって物を買おうにも、そもそも金が無いんだから」

「そうだな、全国民に一律に金のばら撒きをやった事もあったけど、アレは完全に人気取りでしか無かったよな。持続性はまるで無い政策で、国民の機嫌を取っただけだし。

 いやしかし、働く人の約半数が非正規って……この国どうなってんの?」

「井ノ原の疑問はもっともだな、シノさんがニート化したのも頷けるってモノだ。企業は短期応募を理由に、雇っては解雇を繰り返すし。

 割を食ってる派遣員も、いずれは消耗して企業を見限るサイクルになっちゃうぞ」


 働く者は、使い捨ての社会の歯車では決して無いのだと。偉そうに語る充希みつきだが、それにはおおむね同意の表情を見せる基哉もとなりである。

 もっとも、そんな非正規の雇用の処遇の改善も、法律の整備で進んではいるそうだ。とは言え、シノさんが言っていた元の『派遣会社』の“搾取”は酷いモノには違いない。


 ちょっと調べただけで、これでよく『労働基準法』に抵触しないなって中間搾取振りである。どうやら抜け道だらけの法改正で、やりたい放題の派遣会社が多いらしい。

 最大で4割の中抜きとか、派遣員を食い物にしている会社ばかり。それは野党側の企業も同じく、賞与や退職金や交通費無しの使い捨ての労働力を紹介して貰えるのだ。

 お陰で企業は、たんまり儲けを溜め込めているとの事。


「そもそも、労働者派遣と言う業務は欧米で始まったみたいだな。向こうは日本とは形態が全然違って、専門スキルのある人材を臨時で雇い入れるって感じなんだ。

 報酬は正社員と同じか、専門職の為に高い場合もあるそうだよ。まぁ、向こうは逆に正社員が簡単に首を切られるから、欧米の方が優れているとは一概には言えないけどな」

「向こうは案外ドライと言うか、割り切りが凄いよな……確かアメリカ人って、18歳で有無を言わせず子供の援助は打ち切られるんだっけ?

 大学に入ったのに、その日の食事にすら困ってる苦学生がゴロゴロいるってニュースを見た事あるぞ。そう思うと、日本はまだマシなのかねぇ?」

「さっきの話だと、奨学金の返済で首が回らなくなる人との比較になっちゃわない? それに両親が過保護過ぎるのが、日本のニート人口増加の一因でもあるんじゃ無いの?」


 朋子の鋭い突っ込みに、そうかも知れないねと及び腰な和也である。ただまぁ、専門職と言うか手に職を持つ者が就職に有利なのは、国が違っても同じ事だろう。

 その辺の話を聞きながら、充希はまた何かひらめいた顔付きに。つまりは、ニートが気軽にネット内で、手に職を付けられるシステムがあれば良いなと。


 その辺は既にあるような気もするが、そこまで利便性の良いモノは無いのかも知れない。ついでに直哉なおやなど不登校の若者にも、気楽に覗けるオンライン授業があれば望ましい。

 それこそオンライン授業こそ、選び放題に揃っている気もするけれど。例えばシノさんくらいの年齢のニートでも、ゲームや娯楽より見て楽しめる内容のモノが揃っていれば望ましい気がするがどうだろう。


 充希は直哉の件で、詰め込み教育に本当に意味はあるのかと内心で疑問に思ってもいた。つまりは義務教育の中学校や、そこから更に3年費やしての高校の授業で、あれこれと無理に将来役に立つか不明の知識を詰め込まれているのが現状だ。

 それよりも、それぞれのペースで自分の好きな分野を、生涯かけて学んで行けるシステムがあっても良いのにと思う次第。充希など、そちらの方が本当の教育ではないかと思ってみたり。


 才能なんて、いつ開花しても良いんじゃないかと個人的には思っている充希である。そりゃあ早いに越した事は無いが、長い人生なら自分のペースを貫くのも悪くない筈。

 押しつけ教育で身に付く教養など、それこそたかが知れている。





 ――ただ、その案をどう形にするかは全くの未定だ。








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