表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/65

岩尾充希と言う人物②



 部屋の主の直哉なおやは、壁の方へ向いて体育座りの状態のままである。こちらと視線を合わせようとしないのは、やましい事をしている自覚があるせいかも。

 何と言うか、まるでこっちがいじめているようなシチュエーションに基哉もとなりは途方に暮れていた。相手がこんな態度だと、こちらは一体どうすれば良いのだろう?


 勉強机と椅子のセットを、勝手に占領していた充希みつきはそんな雰囲気は気に掛けていない様子。まぁ、彼も間違っても虐めをするタイプでも無いし、続きを任せる事に。

 そう勝手に心中で決め込んだ基哉は、何とか相手の心を解きほぐそうと柔らかい言葉使いを脳内で構築に忙しい。ところが充希は、そんな配慮など全くの埒外らちがいであった。


 居心地悪そうな部屋の主に向かって、いきなり確信を突く言葉を投げかけた。つまりは大方おおかたお前、中学で虐められて逃げ込んだ高校に馴染めなかった口だろうとズバリ。

 その言葉に、再びビクッと体を震わせる直哉だったり。


「…………!!」

「おっと、適当に言った推理がズバリ的中か?」


 まぁ、直哉は体も小さいし弱気な性格だしで、マトにされそうな要素は満載である。充希も通っていた地元の中学校は、周辺のベッドタウンのお陰で生徒数も多かった。

 確かに不良っポイ連中も幅を利かせていて、そんな話があってもおかしくは無い。その頃に相談してくれれば、幾らでも対処したのにとの充希の言葉。


 それに対して、ようやく直哉からの反応が……ってか顔を上げて、かつての級友をじっと眺める素振り。それから、その通りなんだよと泣きそうな顔で告白して来る始末。

 つまりは、中学時代に不良連中に虐められていて、そいつ等から逃れるためにエリート進学校を第一志望に定めたのだ。そこには見事受かったけど、その校風やら授業速度にまでは残念ながら馴染めずの結果に。


 気付けば1か月が経過して、友達も出来ずに授業にもついて行けなくなる始末。そうなると、当然のごとく学校へと通う足も鈍って来る。

 その結果の、現在の不登校が10日を越した状態であるらしい。充希の推測は、悲しい程の大当たりで基哉も思わず顔をおおいたくなる程。

 いやしかし、何と言うか不登校の経緯はハッキリしたのだ。


 その点は一歩前進、充希を連れて来た甲斐はあったと基哉は前向きに考える。ただまぁ、解決策を講じろと言われても困ってしまう。

 友達なら、別のクラスだが基哉もいるしその友達も紹介出来る。ただし、授業速度については……一度遅れてしまうと、実は追いつくのはとっても難しい。


 塾に入ったりと、個別の努力は進学校の生徒なら誰でもやっている事だ。先生にしたって、たった1人の生徒の為に授業速度を落とすような真似は絶対にしない筈。

 事実、そのせいで辞めて行く生徒も結構いるのだ。


「そんな事情は関係ない、こっちの予定もあるからな……予定と言うか夢だ、少なくとも5年後の同窓会には、4年6組の全員が胸を張って出席してくれないとな。

 でないと、担任の三宅先生に合わせる顔が無いじゃないか。そんな訳で、この直哉の危機は絶対に全力で回避するぞ、基哉」

「えっ……危機ってナニ、充希君?」

「もちろんお前の不登校、現在進行中のニート騒ぎについてだ。母親も心配してたぞ、このまま引き籠りになっちゃうんじゃ無いかって。

 そんな訳で直哉、お前の問題は俺たちで解決する」

「えっ、僕……ニートなのっ?」


 その言葉に、思わず部屋の中の3名は絶句と言うか言葉を失った。いやしかし、確かにたった10日学校を休んだだけで、ニート認定は乱暴かも知れない。

 基哉は考える、ニートと不登校と引き籠り、違いって何だろう?





 その日は母親にお茶とケーキを御馳走になり、明日も直哉なおや()()()相談に窺うと約束をして終了の運びに。直哉の母親は大層感激していたが、友達が困ってたら手を差し伸べるのが4年6組の掟だと充希は口上を述べて頼もし気。

 充希みつき基哉もとなりも、幸いまだ部活にも入っておらず放課後はフリーの身である。要するに、この難問にとことん時間を掛けて付き合える訳だ。


 3人でケーキを食べながら、何故か世間話などを交えつつ。えて直哉の現状には触れず、まるでれ物を扱うような雰囲気はアレだったけど。

 とにかく2人の友達の参入には、直哉の母親も安心感を得たようだ。直哉自身にしても、暗闇の中で光明を得たような顔付きになってくれていた。

 問題解決の糸口は、未だ全く見えていないにしても。


 それにしても、直哉の僕ニートなの? 発言には参ってしまった。本人が一番自覚が無いのだ、周囲に思いっ切り迷惑や心配を掛けまくっている事を。

 基哉もとなりはその辺も踏まえて、家に戻ってから約束通りにニートについての情報をネットで調べてみた。片手間にスマホで調べただけでも、驚きの事実が色々と判明した。


 そしてその現在進行形での数の多さに、かなりビックリしてしまった。何しろ、小中学校の生徒だけでも34万人の不登校者が存在するらしいのだ。

 高校生でも6万8千人以上、これらを合わせると40万人以上となってしまう。過去最多と言う見出しもあるので、つまりは年々増加の傾向にあるのだろう。


 少子化問題がと叫ばれているのに、逆に不登校児の数は反比例して上昇中みたい。そもそも『不登校』と言う言葉も1992年まで存在せず、それまでは『学校嫌い』みたいな感じで片付けられていたらしい。

 そして『不登校』と『引き籠り』と『ニート』では、微妙にニュアンスも違って来るみたいである。しかも『無業者』とか『非労働者』みたいな、学生でないニートの用語も混じって来ると更にややこしくなって来る。


 本当に訳が分からなくなりそうだが、基哉もとなりは何とかそれらを取りまとめに掛かった。なるべく最新のデータと、比較となる情報をプレゼン用にネットから集めてみる。

 それらを、レポート用紙に書き連ねるような真似は基哉はしない。脳内に情報をストックしておく容量を備えているし、もし忘れてもスマホで調べ直せば良いのだ。


 後はその情報をもとに、充希がどう立ち回ってくれるかが鍵になって来る。いや、ニートが簡単に片付く問題なら、70万人以上とか下手すれば大都市の人口ほどにその人数は増えてないだろう。

 ただまぁ、たった1人のニート予備員を、救出する位は何とかなると思いたい。充希に対しては、過度な期待こそしていないが、何かやってくれそうな思いはある。


 そのエネルギーと行動力は、過去に何度も体験して来て信頼している基哉である。もちろん自分も手伝うし、4年6組のあの軌跡を疑うつもりは微塵みじんもない。

 それにしても、充希が二十歳の同窓会をそんなに楽しみにしていたなんて。とは言え、地元の東雲一しののめいち高校は公立だし、そんな立派な卒業生が出たって話も聞かない。


 大学への進学率も並程度だし、偏差値の高い有名大学へと進学を決めた人数もして知るべし。地元の広大(国立)も同様で、そこを目指すならもっとランクの高い高校に進みなさいって地元では評判である。

 そこから大逆転して、世間をあっと言わせる人物に成り上がる雰囲気を充希は持っている。基哉などは、精々が有名な大学に合格する程度の未来しか思い浮かばない。


 そんな自身が達成可能な未来など、充希は簡単に飛び越えてしまう可能性を秘めている。それこそ学生の内に起業するとか、学生結婚をするとか。

 まさか犯罪者になるとは思わないが、そんなビックリ箱のような雰囲気をこの元同級生は持っているのだ。その内包する推進力が、今回の件でどうなるかは全くの謎のまま。


 それにしても、不登校児の数の多さには驚いた……基哉の住む広島市で、現在の人口は118万人である。ニートの定義も曖昧で、下手したら1つの大都市の全員がニートと同人数って事態におちいっているのが現状なのかも。

 つまりは、ニートの定義は『就業も就学も、職業訓練のいずれもしていない15~39歳の非労働力人口』を指す言葉らしい。日本の労働力調査では、15~34歳が区切りだったそうで、小中学生や35歳以上を含めたら軽くその数は増えるかも?


 基哉のネット調べでは、2023年度で76万人で15~39歳のデータとなっていた。つまりは小中学生の不登校者の人数は入っておらず、いよいよ広島市の人口に匹敵してしまう。

 一時期あれだけその問題を取り上げていたメディアも、今では全く報道をしなくなっている。聞こえて来る現在の社会問題は、過疎化だとか人口減少での労働者不足が圧倒的に多い。


 世界情勢の悪化や円高で、物価高が続いて生活が苦しいよねとかニュースでは毎日のように騒いでいるけど。ニート問題に関しては、さほど騒がれなくなったのは何故だろう?

 その辺も、少し掘り下げたいなと思う基哉であった。




 一方の充希も、高校に入学早々に巻き起こった騒動に色々と頭を働かせていた。家に戻って部屋着に着替えて一息つきつつ、何からしようかなと考える。

 そう言えば、友達の誰かがニートが出て来る漫画について話していたような。それを視聴したり、後は他の幼馴染にも相談してみるのも良いかも。


 何しろ効率は、考える頭と手足の多さで全然変わって来るのだ。例え、この直哉の現状の問題が門外漢の者でも、考えたり手助けしたりは出来る筈。

 そう言う意味では、充希の有効範囲は広くて助かる。ラインで放課後に暇な友達を募集すれば、まぁ追加で何人か手助けに来てくれるかも知れない。


 そんなお気楽な思考で、取り敢えずはライン通知に踏み切る充希であった。さすがに個人的な案件なので、お悩みの内容については伏せてある。

 それでもまぁ、暇な連中は駆けつけてくれる気はする。





 ――そんな感じで、局面は誰も知らない所で動き始めるのだった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ