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佐原朋子と言う人物②



 それから会議は、基哉もとなりの手によってようやく本筋へと軌道修正を果たした。つまりは、まずは和也の軽い漫画やアニメの話題提出から、トークを展開して議題に発展させようって話に。

 そんな事して何の意味があるのって、朋子ともこは思ったが敢えてその疑問を口には出さず。一応自分は新参者なので、彼らの会議のパターンを見極めるのも大事ではある。


「それじゃあ、改めて本道に戻ろうか……朋子の乱入で、随分と話がそれてしまったからな。そんな訳で、ニートの出て来た作品って他に何かあったかな、井ノ原?

 漫画家や小説家の道は諦めるけど、何かしらの形で配信する際にニート成分を絡めたいな。こう、現在の不登校に対する問題提起的なニュアンスで?」

「あぁ、確かに何かを作るにしても核となる成分は欲しいよね……何かあったかなぁ? あっ、そう言えばオリジナルアニメで『東のエデン』ってのが随分昔にあったんだけどさ。

 劇場版も出来てたし、その作品はそこそこ有名かも?」

「キャラクター原案が“羽海野チカ”先生ね、私も観たわ。『はちみつとクローバー』や『3月のライオン』も映像化されたし、ファンなら全部チェックしなきゃね」


 凛とした姿勢で意気込む朋子だが、確かに熱量は隣の充希みつきにも伝わって来た。その作品を知らなかった充希は、『エデンの東』なら“ジェームズ・ディーン”だろうと古い映画タイトルを持ち出す。

 どっちのタイトルも、多少は宗教的な意味合いをタイトルに含んでるかなと。そもそも西に行かなきゃ、『夢の国』には辿り着けないだろうと基哉の余計な茶々入れ。


 どういう意味だと尋ねる充希に、『西遊記』の事でしょと直哉なおやが代わりに返答する。確かにそんなドラマが昔あったわねぇと、直哉の母親も話に加わって来た。

 もはや場はカオスな状況で、誰がナニを話しているのやら。『西遊記』は中国の西にインド(天竺(てんじく))があって、そこに三蔵法師が有り難いお経を貰いに行く話である。


 お供に妖怪を従えて、そこだけがやたらと強調されていたりもするのだが。ストーリーも奇想天外で、旅の邪魔をして来る妖怪も個性的で物語を盛り上げていた。

 夏目雅子さんが凛々しかっのよねぇと、直哉の母親も大いに盛り上がっている。お釈迦しゃか様って本当にいたのなと、基哉の言葉で更に話は変な方向へ。


 人間は悟りをひらくと神様になれるのかなと、充希は別方向の疑問を呈している。お釈迦しゃか様は実在したらしいねと、基哉はお気楽に知識を披露する。

 朋子も日本の歴史には詳しいようで、その話に割って入って来た。


「あらっ、日本にもいるじゃないの……元は人間で、亡くなってから神様扱いされて神社仏閣にまつられた故人が。有名なのは、『菅原道真』公とか『平将門』公辺りかしらね。

 『ノラガミ』を読みなさいよ、有名な神様がバンバン出て来るわよ?」

「あっ、『ノラガミ』の主人公もニート……いや、意外とちゃんと働いてたかな。確かお布施ふせ5円で、トイレの詰まりから家事や修繕までこなしてたもんね。

 恰好がジャージ姿で家無しだから、つい誤解しがちなんだよねぇ」

「えっ、その主人公もひょっとして神様なのか……?」


 基哉のその問いに、コミックを持ってる朋子と和也はそうだけどと当然の様に答える。良かったら全巻貸すよと、和也に至っては先週知り合った基哉もとなりにもフレンドリー。

 それよりも『東のエデン』の話だったでしょうと、強引に話を元に戻す朋子。さすがに委員長だっただけあって、場を仕切るのがこの場の誰よりも上手い。


 それもニートが主人公なのかと、とりあえず話を振ってみる充希。そのアニメの存在を知らなかったようで、タイトルから物語の中身をまるで推測出来ていないのが窺える。

 和也がそれをみ取って、これは『攻殻機動隊S.A.C』を手掛けた“神山健治”監督が原作・脚本・監督を務めたんだよと得意顔。良く分からない充希は、なるほどと取り敢えず訳知り顔で同意する。

 どうやらその監督、映像界では割と有名な人らしい。


「う~ん、何て言えばいいかな……そのアニメの主軸が、何と言うかニート問題とかを取り扱ってるんだよ。もっと言うと、停滞する日本経済やニートや非正規労働者、ワーキングプアなどの社会問題に焦点を当てている感じかな?

 それを解決するためにって、選ばれた12人のセレソン(代表者)は、電子マネーで100億円を謎の組織に渡される訳さ。主人公はその1人に選ばれて、何故か暗躍するテロリストやライバルの妨害に立ち向かう感じ?」

「良く分からんが、何だか壮絶なテーマを抱えたアニメだな。それで結局、主人公はニート問題を解決出来たのか?」

「う~ん、そこを突かれると厳しいわね……何と言うか、アニメの中ではニートは画一化されてたのね。つまり彼らは、ネット環境に詳しいオタク的な立ち位置で描かれてたの。

 その当時はガラケー携帯だったんだけど、それでネットに繋げて情報戦を戦ったりとかね。つまりニートの使い道は、そんなネットでの情報戦に尽きるって感じ?」


 そんな朋子の説明に、それじゃあ解決の糸口にはならないなと充希の返答。金がそれだけあったなら、もっと別の方法もあっただろうと基哉も辛辣な評価である。

 アニメの中では、そのお金は飽くまで世界の救済の為って建前で渡されているらしい。ところが選ばれし者達は、自己欲に走る者も存在したりして。


 そんな敵対勢力の邪魔立てやら、後はヒロインとのやり取りで話は盛り上がり。最終的に主人公は、ニートの王様になって終わるみたいねと朋子のネタばらし。

 それを引き継いで、和也はあの結末は納得いかないなぁと意見を述べる。


 和也によると、神山監督作品はそんな難解なストーリーの作品が多いそうだ。この『東のエデン』も同様で、様々な謎と化した部分が視聴者を混乱させていたみたい。

 とは言え、和也は王様になったエンディングは安直だと批難する。何と言うか、話を無理やりに着地させた感が半端無かったそう。



「要するに、そのニート集団をまとめる者がいないと先が無いって、敗北宣言に俺には解釈出来たよね! つまりさ、王様って結局は独裁者じゃん?

 先導者がかじ取りを1つでも間違えると、全員が奈落行きみたいで何か嫌だったな」

「まぁ確かに、そう言う解釈も出来るかな……規模は小さいけど、北海道の夕張市なんかは市長のやらかしで財政破綻しちゃったしな。その結果、税金は上がる一方なのに行政サービスは低下して、住民はどんどん減って行ったそうだ。

 民主主義が至上だとは言わないけど、ワンマン経営の危険性は把握しておくべきだな」


 変な賛同を挟み込んで来た基哉だったが、和也の言う事は理解して貰えた模様。アニメを見ていない充希でさえ、その終わり方はちょっと雑だなと意見を述べる。

 ただ、いざお金を大量に渡されて、何十万人もいるニートを救う方法を考えろと言われてもパッとは思い付かない。アニメ内では力を持つモノの義務だなんて言われてたけど、良い知恵を出すのはまた別である。


 ノブレスオブリージュねと、朋子もそれに追随して難しい言葉を引用する。それを引き取った基哉が、『財産、権力、社会的地位を持つ者は、社会的義務が伴う』って意味だなと皆に説明した。

 その言葉は、欧州の貴族や上流階級に浸透している道徳観の事を示すらしい。それに反応して、日本の権力者は総じて腐ってるけどねと朋子の辛辣な相槌あいづちが。


 それはまぁそうだねと、和也も妙に納得して場は妙な雰囲気に。それを正すのが“ニー党”よねと、朋子が充希に視線をやりながら元気に発言する。

 だからニー党って何だと、今度は基哉も一緒に反応して朋子に問いただす。だから全てのニートを救済する組織でしょと、朋子は頓狂とんきょうな返答振り。


 それは先ほどのアニメの設定のように、資金が100億円あっても無理なんじゃないかと基哉は呆れたように呟く。ところが充希は違ったようで、考えるのはタダでも出来るぞと、その場の皆から意見をつのる構え。



 そんな訳で、大量の資金があったらどうするかなと、その場の皆で試しに知恵を出し合ってみる事に。いやしかし、少人数なら救えても社会全体をとなるとかなり難しそう。

 そもそも、それを考えるのは行政や偉い立場の役人の務めでは?


 そう口にする和也に、それを言ったらおしまいだろうと思考の放棄を許さない充希である。とは言え、現実はそんなお金どこにも無いじゃんと、和也の愚痴は止まらない。

 と言うか、総じて政治家や行政は決まって行動が遅いし頼りにならない。その上、固定観念にとらわれて新しい最善の策など出しはしない。

 そう痛烈に口にする和也は、どうも国家権力は嫌いみたい。


「なのに、どうして僕を政治家にしようとか言い出すの、みんな……」

「だから、政治家案は止めたと言っただろうが……まぁ、直哉なおやがまともな政治家になって、現代の腐った世を正すってのなら止めはしないが。

 そう言えば、2次案に神様ってのが出たがどうする、直哉?」

「えっ、それって死んでからの身の振り方じゃ無いの? ってか普通に嫌だよ、そもそも神様にまつられるような事を生前に出来そうにもないし」


 それもそうだなと、相変わらず言う事がコロコロ変わる充希である。それを取り立てて批難しない基哉や朋子は、元から彼の性格を熟知して戸惑いも無い様子。

 取り敢えずは中途半端な策でも、充希は強引に進めて何とかしてしまう。そんなパワーと言うか行動力を、この同級生は持っている事を2人ともよく知っているのだ。


 周りの人間はそれに巻き込まれて、文句を言いつつもその流れに従う。そして気付けば、いつの間にか問題が解決していたのに気付いて呆れ返ると言う。

 そんな不思議な力を頼って、基哉は今回も真っ先に充希に声を掛けたのだった。ただ、少々の誤算と言うか、まさか朋子までが参加を決め込んだのは完全に計算外。

 いや、これも充希のパワーの1つとも言えるのかも?





 ――この参加がどちらに転がるか、誰も知るよしも無いと言う。







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