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ヒーローは、オネェさん。  作者: 朝姫 夢
第七章 告白と真実
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5.告白

 オーナーが私のためにと作ってくれていたエンパイアラインのワンピースは、胸のすぐ下にある切り替えの部分から上がライトブルーになっていて、すっきりと見せるためかスクエアネックが採用されていた。それに対して切り替えから下のスカート部分は、アイボリーのような優しいホワイトの柔らかい素材が使われていて。真っ直ぐに下に落ちているけれど、裾部分に向かって優しく広がるように布が多めに使用されているからか、長い袖と相まってとても上品に見える。


「合ってる、かな?」


 しかもスカート部分に合わせて、少しだけヒールのある同系色の靴までオーナーがプレゼントしてくれて。今後のためにも()き慣れていたほうがいいからと、今回完全にオーナーにトータルプロデュースをしてもらっているのだけれど。困ったことにワンピースの切り替え部分にあった、上半身に使われているのと同じ素材で作られている長い二本のリボンを、前で結べばいいのか後ろで結べばいいのかが分からなくて。自分では後ろで綺麗に結べる自信がなかったので、前で結んでみたのはいいけれど……。


(間違ってるって言われたら、どうしよう……!)


 『スノードロップ』のオーナーが作ったワンピースならば、今後確実に流行るはず。ただそれは裏を返せば、今はまだ誰も着たことがないデザインということで。つまり、正解はオーナー以外誰にも分からないのだ。


(一応、ちゃんとアクセサリーもつけてきたけど……。リボンの結び方のほうが気になっちゃって、オシャレどころじゃないよ……!)


 まるでお守りのように、不安な気持ちになるたびに胸元のハートのシルバーアクセサリーに触れて。待ち合わせ場所に向かう道すがら、何度も何度も立ち止まっては自分の姿を見下ろしていた私は、周りから見ればきっと変な人だっただろう。

 しかも、家を出てから気付いたことだけれど。アクセサリーも含めて、実は今日の私が身に着けているのは、全てオーナーからプレゼントされたものたちだった。


(遅すぎるよ! 気付くのが!)


 まるで意識しているみたいじゃないかと思う反面、実際意識してしまっているのだから仕方がない。

 とはいえ今回は疑似デートではなく、あくまで回復祝いということだから。本当は家まで迎えに来てくれようとしていたのを、そこまではしてもらえませんと私が辞退したのだって、デートっぽくなってしまわないようにだった。


(綺麗な貴族の恋人さんは、もしかしたら気にしない人かもしれないけど)


 私が、嫌だったのだ。万が一にでも誤解させるようなことはしたくない、と。

 ただどうしても意識してしまうのは、もう自分でもどうしようもないので。リボンの結び方が合っているのかが気になって仕方がないからだと、自分にそう言い聞かせて意識をすり替えようと一人無駄な努力をしていた私は。


「あぁ、前で結んだのか。うん、それもいいな」


 実はどちらで結んでもよかったのだと、待ち合わせ場所に到着して早々オーナー直々に言われてしまい。


「じゃあ、行くか」


 しかもなぜか、復帰初日と同じように私の腰に手を回したオーナーに連れられた先で、貸し切り馬車に乗せられて。


「そのアクセサリーも着けてきてくれたのか」


 仕事の時とは違い、隣り合わせに座ったオーナーから、至近距離で美人の微笑みを向けられるという、よく分からない状況に(おちい)っていて。


(え? え? あれ……? これ、どういうこと……?)


 混乱する私をよそに、私の耳にそっと触れながら「この服装なら、耳飾りはなくてもいいな」なんて冷静に分析しているオーナーに、不意にドキリとさせられながら。じっと見つめてくるその視線に恥ずかしさを覚えて、なかなか言葉を発することすらできなかった。

 とはいえ、こんな機会はきっと二度と訪れないだろうし。そもそも今日は、回復祝いだとオーナーも言っていたし。きっと私の復帰を喜んでくれているからこそ、こうして色々用意してくれていたのだろう。

 貸し切り馬車から下りた先のお店も、外観からしてどう見ても高級店で。それを見て逆に冷静になった私は、これを最初で最後のいい思い出として覚えておこうと、この瞬間心に決めたことを思いだしたのだった。だからこそ、食事が運ばれてくる頃にはいつも通りに会話できるくらいには回復していて。


「個室だし、マナーなんて特に気にしなくていいからな」

「そうかもしれないですけど……。覚えておいて損はないので、オーナーが知っている分だけでいいので教えてもらえませんか?」


 なんて、今後のことを考える余裕すら出てきていた。


 だから、油断していたんだ。いやむしろ、その可能性を一度も考えたことがなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。

 だって、そうでしょう。


「え、っと……。オーナー、今、なんて?」

「あぁ、今後の仕事のことだとか給料のことだとか、そういうのは心配しなくていい。ライラの返事がどっちだろうと、今まで通り働いてもらうことに変わりはないから」

「いえ、あの……そうではなくて、ですね」


 突然すぎる言葉に、頭がついていかない私は。そもそも今自分が聞いた言葉が間違っていたのではないかと、本気で疑っていたのに。


「悪いが、冗談でこんなことが言えるほど俺は軽い男じゃない」

「あ、の……」

「ライラ、好きだ。今すぐに返事が欲しいとは言わない。ただ少しでも俺にチャンスがあるのなら、隣に立つための努力はするから、考えておいて欲しい」

「っ……」


 光の加減でグリーンにもイエローにも見える、不思議な色合いをしたその瞳が、真っ直ぐに私だけを見ていて。その告白の言葉に、思わず嬉しくなって頷いてしまいそうになったけれど。


「だ、ダメですっ……!」


 最後の最後。あと一歩というところで、危うく踏みとどまった私は。


「オーナーには、あんなに綺麗な貴族の恋人がいるじゃないですか! それなのに、浮気はダメです!」


 頭の中に思い浮かんだ、あの妖艶な女性に申し訳なくて。同時に、オーナーにはそんな不義理は働いてほしくなくて、そう訴えたのだけれど。


「…………は?」


 目の前の綺麗な男性が、見たこともないような気の抜けた顔と声でそう反応したのは、どうしてだったのだろうか。



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