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ヒーローは、オネェさん。  作者: 朝姫 夢
第六章 模倣犯

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5.救出

 それが幻聴でも何でもなかったのだと分かったのは、その直後のことで。突然、部屋の扉がものすごい音を立てて倒れて、その向こう側に普段の出勤時と同じ、男性の姿のオーナーが立っていた。

 驚きに思わず目を見開いてしまった私が見た光景から察するに、おそらくオーナーが扉を蹴破(けやぶ)ったのだろう。確かに男性が出て行く時に鍵がかけられた音はしていなかったけれど、蹴破ったのは扉のハンドルが熱すぎて握れなかったからか、もしくは燃えているせいで普通に開けることができなかったからなのか。理由は分からないが、おそらくとっさの判断を下した結果なのだとは思う。


「やっぱりここだったか……!」


 ただ、それよりも。


「……どう、して」


 こんなところに、オーナーがいるのか。こんな、炎の真っただ中に。


「逃げるぞ! 立てるか!?」


 しかも、そのブロンドヘアーだけでなく服のあちらこちらからも、水が(したた)っていて。頭からつま先まで、完全に濡れ切っていた。

 それを疑問に思いつつも、聞かれた質問に思わず普段のように答えてしまって。


「あ、それが、その……」


 ベッドに布でつながれている足に手を添えることで、立てないことを示す。同時に手首まで縛られているのだということが見えてしまうと、どうでもいいことを考えながら。


「はぁ!? どういう状況だよそれ! ちょっと待ってろ、今その布切ってやるから」


 そもそも目の前にいるオーナーは本物なのだろうかと、一瞬考えてしまって。けれど、都合のいい夢を見ているにしては炎は熱いし現実的すぎると、その疑問をすぐに否定する。

 本当は、どうしてこんなところにいるのかとか、お店の開店時間はとっくに過ぎているはずなのにとか、色々と聞きたいことはあるけれど。そんな状況でもなければ、ちゃんと声が出るかも怪しいので、今はただ黙ったまま。どこからか取り出された、おそらくオーナーの仕事道具であろうハサミによって、私をベッドに縫い付ける布たちが切られていく様を見ていた。


「よし。とりあえず時間がないから、このまま出るぞ」

「……え?」


 そう言うが早いか、オーナーは立ち上がって部屋の中にあった唯一の窓を開け放つと、今度は戻ってきて私を抱き上げる。


「へ……?」

「手と足の布は、ここから出てから切る。こっから飛び降りるから、しっかり(つか)まってろよ」


 状況が何一つ分からないまま、ただ「飛び降りる」という言葉に無意識に反応した私が、思わずオーナーの服を掴むと。炎に照らされた不思議な色合いの瞳が一瞬だけ向けられて、まるで私を安心させるように微笑みの形が作られたような気がした。

 ただ次の瞬間にはもう、不思議な浮遊感を覚えて。けれどそれは本当に短い時間だけで、すぐに軽い揺れと衝撃を感じた直後、炎の熱さも感じなくなる。


「っ!! だ、誰かー! 二階から人が飛び降りてきたぞー!」

「さっきの兄ちゃんだ! やっぱりあの部屋に誰かいたんだよ!」

「これで三人だろ!? 他に人がいないなら、急いで建物を壊せ! 周りに延焼(えんしょう)するぞ!」


 あちらこちらから聞こえてきた声に、ぼんやりと助かったのかもしれないと考えていると、途端に自由になった手と足。どうやらオーナーが残りの布を全てハサミで切ってくれていたようだった。


「あ、の……」

「聞きたいことは色々あるが、ケガの確認が先だ」

「でもっ……まだ中に、宿屋のっ……」

「夫婦なら、まだ火が回ってない一階で見つかって、先に助け出されてる。逆にライラがいた部屋より奥は、もう炎で進めない状態だった」


 つまり、私が知っている限りでは全員助け出されているということで。


「よかった……」

「こんな時に、人の心配してる場合か? ほら、立てるか? それともどっか痛むとこはあるか?」


 心配そうにのぞき込んでくる、グリーンともイエローとも言い切れない、その優しい瞳に。私はようやく、心の底から安心した。

 ただ、おそらくそのせいで緊張の糸が切れてしまったのだろう。自力で立とうと、足に力を入れたところまでは覚えているのだけれど。


「おい!? ライラ!?」


 焦ったようなオーナーの声が聞こえてきたのは、体から力が抜けてしまった直後だったのか、それとも目の前が真っ暗になってしまったあとだったのか。それはもう、私にも分からなかった。



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