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ヒーローは、オネェさん。  作者: 朝姫 夢
第五章 決意と願い
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3.大きな収穫 ~sideスノウ~

 恋人と楽しそうに笑い合いながらデートしているライラの姿を見てしまってからというもの、どうにも会話すらぎこちなくなってしまって。ついこの間までどう接していて、どんな会話をしていたのかすら思い出せないくらいに、俺はあまりのショックに一人打ちひしがれていた。

 そんなある日、ライラに従業員の一人から大事な話があるから時間を取ってほしいと言われて。それなら早いほうがいいだろうと、その日の営業終了後にオーナー室のソファーで向き合って座った人物が口にしたのは。


「その、実は……以前から、ある商家の長男とお付き合いをしていまして……」


 その両親を説得するために、ウチの従業員であることを話してもいいのかという確認のみ。しかもご丁寧に、しっかりと頭を下げて。

 正直、そこまで気にすることでも緊張することでもないだろうというのが、俺の本心だったわけだけれど。本人にとっては一世一代(いっせいいちだい)の大切な話し合いの場での内容に関わるわけだから、万が一の場合のことを考えて許可を取っておきたかったというところなんだろう。


(それだけで幸せになれる可能性が高くなるなら、むしろ積極的にその肩書は利用していくべきだろ)


 そう思いながらも、あえてそこについてはひと言も触れず「構わないわよ」と返せば、驚いたような顔をしていいのかと聞いてくる。双方の同意を得ている状態で、かつ幸せになれる状況が目の前にあるのならば、別段止める必要もないというのに。

 それに彼女は、つい先日高度技術者の仲間入りをしたばかりのはずだ。恋人と結婚するためにそこまで必死になって頑張れるような人物ならば、応援したくなるのが普通だろう。だからライラも、わざわざ俺に時間の都合がつかないかと伝えてきたのだろうし。


(って、今ライラは関係ないだろうが)


 自分の思考に心の中だけでそう返すものの、思い出してしまうとつい意識がそちらに向いてしまいそうになって。慌てて自分の意識をそらすために話題を変えた。


「ちなみに、お相手のことを聞いてもいいかしら? お得意様の関係者の可能性もあるから、念のため」

「あ、はい」


 ただ、これがまさか違う意味で俺に衝撃を与えることになるとは思ってもみなくて。

 そもそも、誰が思おうか。まさか従業員が結婚まで考えている相手が、ついこの間ライラと二人楽しそうに街でデートしていた男の特徴と全く同じだなどと。

 しかも。


「ねぇ、それ……この間の定休日に、街でライラとデートしてた男じゃないの?」


 二人ともだまされているのではないかと、本気で心配になった俺に。


「ち、違うんです……!」

「その日は、私がライラに彼を紹介してただけなんです……!」


 まさかライラまで一緒になって、二人がかりで必死の顔をして否定してくるなどと、誰が予想できたのか。

 だが。


「今まで一度も会ったことがなくてっ」

「だから、せっかくだから会ってもらいたくて、私がお願いしたんです! ちゃんとその場に私もいました!」

「オーナーが見たのは、エミィが席を外してた少しの間だけのことですから……!」

「彼はちゃんと誠実な人です! 大丈夫ですから! 信じてください!」


 同時に二人のその様子から、俺が一方的に勘違いをしていたことに気付かされて。心から安堵できたことは、大きな収穫だった。


「あらぁ。アタシったら、すっごい勘違いしてたみたい。ごめんなさいねぇ」


 そう伝えると、ようやく安心したような表情をしながら二人で頷き合っているが。俺の笑顔が本心からのものだとは、おそらく気付いていないだろう。


(ってことは、つまり)


 まだ俺にも可能性は残されているはず。少なくとも、あの日見た人物がライラの恋人でないことだけは確かなのだから。

 とはいえ、ライラに恋人がいるのかどうかはまだ判別できていないので、安易に気を抜くこともできないが。


「お詫びになるか分からないけれど、必要そうだったらアタシが口添えしてあげるから。いつでも言いなさい」

「は、はいっ! ありがとうございますっ!」


 どこかでさりげなく聞き出せないかと考えつつ、まずはその事実を知るきっかけを作ってくれた彼女への礼として、俺にできそうかつ役に立てそうな約束をしてみた。こんな約束、必要な時が来ないに越したことはないが、万が一の時のことを考えて念のため。

 おそらくそれが、俺にできる一番効果的な方法だろう。相手が商家の人間だというのなら、なおさら手札は多いほうがいいし、強力であればあるほどいい。


(それに、成功したほうがライラだって喜ぶだろ)


 従業員の幸せももちろん大切だが、どうやら彼女とライラは仲がいいらしいので、俺としては何かあった時のためにこちら側に引き込んでおきたいという、打算的な部分もないわけではない。

 とはいえ、ここからは当人たちの問題であり家の問題でもあるから。とりあえず声をかけられるまでは部外者でしかない俺は、あえてそこに触れるようなことはしないでおこうと決めた。



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