表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーローは、オネェさん。  作者: 朝姫 夢
第四章 苦い衝撃
21/49

1.夢のせい

 あんな夢を見たせいか、オーナーに会うたびについつい意識してしまって。最近では作業部屋に入っていくのを見送って扉が閉まるのをしっかりと確認してから、ようやく肩の力を抜くことができるという日々を送っていた。知らず知らずのうちに緊張してしまっていて、唐突に目が合ってしまった瞬間は本当に息が止まってしまう。


(うぅ……変に見られてないかなぁ)


 なるべく顔には出さないように気を付けているものの、どうしても今までと全く同じようにとはいかなくて。それもこれも、あんな夢を見てしまったせいだ。


(なんで私、あんな……あんなっ……!)


 まるで、オーナーに告白されたかのような――。


「~~~~っ!!」


 そこまで考えて思わず恥ずかしくなってしまい、急いでうずくまって小さくなる。

 そもそも夢というのは、自分の中で完結する出来事のはずなのに。今まで一度もオーナーからそんなことを言われたこともなければ、素振りすら感じたことはなかったはずなのに、どうして唐突に告白されるような夢を見てしまったのか。それとも、あれ(・・)が私の願望だったとでもいうのか。


「うぅ~~……」


 小さくうめきながら、そんな考えを必死に否定しようとするけれど。それならばどうしてあんな夢を見たのかという、結局その疑問に戻ってきてしまうわけで。


「…………違う、もん……」


 今度は否定の言葉を口にして、より強く自分に言い聞かせようとしたのに。その声は小さく、言葉は変なところで区切られ、明らかに強さとは正反対になってしまっていた。

 困ったことに、ここ数日の間はオーナーのことを思い出す時間が多くなっていて。特にオレンジの香りを嗅ぐと、無条件であの綺麗な顔が浮かぶようになってしまったのが、本当にどうしようもなくて困っている。

 正直、それまで意識したことはなかった。むしろ突然のことに驚いてばかりで、それでも偶然とはいえ選んでもらった以上はしっかりと仕事をして、少しでも役に立てればとは思っていたけれど。逆に言えば、それだけだったのに。


「なんで……。だって、これじゃあ……」


 まるで私が、オーナーのことを好きになってるみたいじゃない、と。声には出さずに、心の中だけで呟いた言葉は。


「っ~~~~!!」


 思っていた以上に、私の羞恥心にしっかりと火をつけていった。

 おそらく今は顔どころか、全身真っ赤になっているのではないだろうか。あまりにも熱くて、きっと顔から火が出そうというのはこういう状態のことを指すのだろうと、変なことまで考えてしまう。ただ悲しいかな、それを完全に否定できるほどの材料があるかと問われると、実はなかったりする。


(だってオーナー、すっごくいい人だし……!)


 オーナーという点で考えれば、天才で頼りがいがあってお店の業績も常に上がり続けている、まさに大注目の存在。それでいて従業員のことをしっかりと考えてくれている、素晴らしい経営者で。さらには仕事を円滑に進めるために、女性の格好をしたり声や口調を変えることまでするような努力家で、まさに非の打ち所がない人物だ。

 では人として、男性として見た場合にはどうなのかと考えると。正直、世間一般の女性からすれば見た目と収入の面だけで、十分すぎるくらい魅力的に見えることだろう。その上で、よく聞く女性の買い物に付き合ってくれない男性というわけではなさそうだし、むしろ一緒に楽しく選んでくれそうですらある。


(それに、疲れてたら気を遣ってくれるし。服装とかも、褒めてくれるし)


 きっと、普通にデートするだけでも楽しいだろう。人気のある流行(はや)りのお店も知っていて、女性が興味を持ちそうな話題にも事欠かない上に、サプライズのプレゼントまでさらりと渡してくれて。

 そこまで考えて、ふと思ってしまった。


(あれ……? オーナーって、もしかして本当はものすごく女性にモテるタイプなのでは……?)


 ここにさらに、デート当日の女性の服装を見てデートコースを変えられるという、素晴らしい気遣い付き。逆にこれで嫌いになれる女性は、普通に考えていないだろう。つまり、否定する材料が本当に一つもないということ。

 そして、つい女性に囲まれているオーナーを想像してしまって。それを少し面白くないと思ってしまった私は。


(待って……。待って待って……!)


 もはや言葉を発することもできないまま、両手で口元を隠しながら。心の中で必死に、そんなことはないと自分に言い聞かせていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ