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31.乾杯

 事件後、須賀の事情聴取が半端なかった。

 建物が爆発したり、こちらも命の危険に陥っていたにもかかわらず無傷であることなどなど、疑われる要因はたくさんある。


 でも、一応こちらは被害者。

 清水の口添えもあり、なんとかやり過ごすことができた。


 マネキン工場の放火に始まり、すべては殺人兵器をつくり売りさばこうとしていた組織のボスがヘリコプターともども爆発。


 被疑者死亡のうえ、兵器を制作していたマネキン工場も、データを作製していた研究所もすべて焼失。

 残存している兵器はひとつもないという結論を出し、事件は幕を閉じた。


 松浦は不正の証拠を恋人である結奈の飼い猫の首輪に隠していた。

 だから、西垣は猫を探していたのだ。

 そのデータを警察へ提出した松浦は無実を証明でき、恋人である結奈とも無事再会できた。


 そして、松浦の捜索を依頼してきた西垣やよいは、あの事件の次の日死体で見つかった。

 ヴェッタシュトランド社のデータ流出、仲間への攻撃はすべて不正を隠すために西垣やよいがしたことという遺書を残していたらしく、自殺で処理されたが、おそらくらく口封じのため組織に殺されたのだろう。


 今となってはどうでもいい話だ。


 黒崎少年の両親から少し小言をもらったが、少年の涙ながらの訴えで事なきを得た。

 めでたしめでたし。


 ではない。


 依頼人である西垣やよいがこの世を去ってしまったから、今回の報酬はなし。

 挙句、須賀の視線がさらに強くなったことを考えると、散々な結果になってしまった。


 でも、あれから一週間、ようやく平穏が訪れた。

 俺は気ままに探偵をしている。


 机を挟んで向かい側には、小太りのマダムが座っている。

 先ほどからインコのピーちゃんについて、さんざん話を聞かされている。

 ようやく話がひと区切りついたところで、お暇願う。


「見つかりましたらすぐにご連絡しますので」


「きっと怖い思いをしているわ。早く見つけてちょうだい」


 インコもたまには自由になりたいだろうに。

 という言葉は飲み込む。


「安心してください。うちには鳥の言葉が分かる者がいますから、明日にでもよい知らせができると思いますよ」


 ニコニコにっこり。

 笑顔を張りつけて出口へとマダムを誘い、ドアを閉めた。


「ふぅ~」


 ため息を吐き出す俺に、泰雅が不満顔を向ける。


「明日には連れ戻しちゃうの? 毎日愚痴を聞かされるピーちゃんが可哀そうだよ。もう少し自由にさせてあげたいのになぁ~」


「じゃあ、ピーちゃんの代わりにお前が愚痴を聞いてやれ」


 たった30分話を聞いていただけだが、俺はうんざりだ。

 それは泰雅も同じなのか、嫌そうに顔を歪めた。


「ま、しょうがないか。なんだかんだ言いながらもあの飼い主さんのこと好きみたいだし、ね、ピーちゃん」


 そう語りかけると、どこからかインコが飛んできて泰雅の指に止まった。


「飼い主さんが寂しがってるよ。もう帰ってあげなよ」


 泰雅の言葉に反応するかのようにインコがチチチチと鳴き声を上げた。


「わかったってさ」


 本当にそう言ったのか、俺には分からない。

 でも、その言葉通りインコは抵抗することなく飼い主が持ってきたゲージに大人しく入った。


「じゃあ、僕ピーちゃんを届けてくる」


 そう言って玄関へ向かう泰雅だったが、くるっと振り返った。


「これで依頼は完了?」


「そうだな」


「じゃあ、帰りにシャンパンを買ってきてもいい?」


 依頼をひとつ片づけたらシャンパンを買う。

 何故かそういう習慣になってしまった。


 でも、今日は宝生からもらった特上のイチゴがある。

 シャンパンは必須だ。


「ああ」


 俺の返事に、泰雅は満面の笑みを浮かべた。


「やった。乾杯しよう」


 シャンパンにはイチゴを添えて。


「乾杯するか」


―― 完 ――

 


 

 

 

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