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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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闇を求める悪魔の巻

『リング上にはジャクリーン・ビューティとスポイラー・トーゴー!互いに慎重です!』


 反則攻撃がなくてもトーゴーの技術は本物だ。何も考えずに距離を詰めると危険だ。


(とはいえ私は器用じゃないし……)


 相手に合わせてうまく対応する、それはもっと厳しい。リスクは承知で自分から動くしかないか。



「てや――――――っ!!」


『ジャクリーンがいった!トーゴーはどうする!?』


 私が勢いよく突っ込んでいくと、トーゴーは寸前でかわした。しかも私の背中を押して、ロープへ向けて走らせた。


「うわっ!」


『足が止まらないジャクリーン、ロープへ突進し跳ね返る!そこにトーゴーが待っていた!右腕を構えている!』



「パワーはある。しかし技術はまだまだ……ぐっ!」


 それなら力で押すだけだ。魔法で少しだけ身体を重くして体当たりすると、トーゴーは吹っ飛んで倒れた。


『トーゴーの策は裏目!これで決まるのか!?』


 弱った獲物は一気に仕留めるべき。倒れたまま動かないトーゴーに追撃しようと近づいたら、その目が急に大きく開いた。



「わっ!?うわっ!」


『トーゴーはやられたふりをしていた!ジャクリーンの足を取って転ばせ、そのまま丸め込みだ!』


 完全決着を望む私たちとは違い、相手は3カウントで勝っても全く問題ない。さっさとマキとエーベルの戦いに入りたいのだから、試合を終わらせるチャンスがあればどんどん狙ってくる。



「ワン!ツー………」


 カウント2で返した。昨日シューター王子に勝ったのと同じ形で負けたら恥ずかしすぎる。

 

「危なっ………うっ!」


「おっと!まだ終わってないんだが?」


 今度は私の肩だけをマットに着けて、変則的な押さえ方をしてきた。両肩が地面に着いていれば下半身の状態や押さえ込む形は問われない。



「ワン!ツー!ス……」


 どうにか今回も逃げた。しかしトーゴーは私を見逃してくれない。今度は背中に乗られ、背後から口のあたりを締め上げられてしまう。


『これは華麗な動き!流れるようにジャクリーンを攻める!優勢だったはずのジャクリーン、一転してギブアップ負けの危機!』


「どうだこのフェイスロックは!窒息するぞ!」


「ううぐ〜〜〜〜〜〜っ………」


 並外れたパワーやスピード、特別なスキルや称号を持たなくてもこんなに強い。技術だけならこれまで出会った人たちの中でも一番だ。



「……ぐ………こ、こんなもの!」


「おおっ!さすがは大聖女の姉!その力と根性なら抜け出すのも時間の問題かもな……それなら!」


 締めつけが弱くなった。これがトーゴーの作戦だったとしても、脱出しなければ負ける。すぐに距離を取って立ち上がった。


『ジャクリーンがピンチを凌ぎました!しかしトーゴーが自ら技を外したように見えましたが……?』


「ふふふ……やり方を変えた。あれを見ろ!」


「何を………あっ!?」



 トーゴーの指の先には最前列の席で観戦していたルリさんがいた。その隣にはハウス・オブ・ホーリーの仲間、常にへらへら笑っている女が武器を持って座っている。


「ま……まさか!?」


「ルリ・タイガー……親父も兄貴どもも強い戦士なのにあいつはまるでダメだな!隣に危険なやつがいるのに全く気がつかずにお前に声援を送ってやがる!危ねーのはお前だろ、このバカって言ってやりたいね!」


 また人質作戦だ。せっかく熱い真剣勝負だったのに、やっぱりこうなってしまうのか。



「おっと!危ないのは客席だけじゃない!」


「………!!」


 リングの下でサキーとマユが倒れていた。エーベルとシヨウだけでなく酒瓶を持った女、いつの間にか回復していたユー、それに昨日はいなかった別の仲間まで加わって敵の数は倍だ。さすがのサキーたちでも厳しい。


「ふざけるな!審判は……」


「審判?そこで寝てる役立たずか」


 気がついたら審判が柱のそばで倒れていた。ハウス・オブ・ホーリーの誰かに襲われて気を失ったのは明らかだ。



「ハハハ!もうお前は何もできない!助けてくれる仲間もいない!あとは昨日カツの『アレ』を潰した技でも食らわせてやろうか。男だけじゃない。女も私の正義の手刀を受けたら子孫が残せなくなるぞ?」


「正義の手刀……悪いアンデッドたちを倒すための技だったはずなのに」


「あんなものまだ信じていたのか?嘘に決まってんだろ!私の手は善でも悪でも何でも切り裂くんだよ!あの村の魂が全員無実だろうが構わずやっていた……いや、むしろそのほうが面白かったのになァ!」


 どこまでも腐っているトーゴーが指を鳴らすとエーベルたちがリングに入ってくる。ルリさんの隣にいる女を除いた6人だ。場内からのブーイングや罵声などお構いなし、もっとやれという顔だ。



「うるさいんじゃ田舎者共が!お前ら家畜か!?」


「勝つのは私たちハウス・オブ・ホーリーって決まってんだよ!わかったか!よく、思い知れぇっ!」


 この暴走はもう止められない。徹底して悪、良心の咎めは一切なし。大聖女になることを目指しているのに、魔族以上にやりたい放題振る舞うのはさすがに異常だ。


「いいね!やはりブーイングはいい!もっと恨め!もっと怒れ!喚いて叫んで、嘆き悲しめ!お前たちのバッドエンドがこの私のハッピーエンドなんだよ!」


「………こんなことをやってエーベルが大聖女になったとしても、誰も納得しないよ」


 私はこの場にいる皆の思いを代弁したつもりだった。しかしトーゴーには人としての常識が通用しなかった。



「ああ?どうでもいいんだよ、そんなこと。この国から混乱が始まって、世界中が闇に染まる……それが私の野望なんだからな。ハウス・オブ・ホーリーもエーベルも、そのための道具だ!」


「………!」


「さあ、あとはお前に正義の手刀を叩き込んで決着!子どもが産めない身体にしてやるよ。別にいいよな、お前なんかの血が残らなくても困らないんだから……ん?」


 トーゴーは調子に乗っていた。マキは私の逆転を確信しているから、少しのことでは動かないつもりだった。ところが私から生殖能力を奪おうとしたせいで、私との子どもを強く願うマキの怒りを買った。


「……………」


「マ…マキナ・ビューティ!なぜ立ち上がっている!まだ試合中だ、立会人は座っていろ!」


「は?あんたこそ黙ってよ。お姉ちゃんに何をするつもりなのかな?殺されたいならはっきりそう言ってよ、ゴミ同然の子分たちもいっしょに消してあげるから」



 ハウス・オブ・ホーリーのメンバーたちは動揺し、怯えている。しかしその中でトーゴーだけは全く恐れていない。もしマキを怒らせたことすら想定内だとしたら………。


(ハハハ………世界が面白くなるまであと少しだ)

 へらへら笑う女……ストロングスタイルを裏切った男


 昨日はいなかった女……CMパンクと喧嘩した男

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