無法集団のチームワークの巻
『ジャクリーンがトーゴーをリングに呼んだ!これにより、試合は予定通り行われます!ハウス・オブ・ホーリーのユーがトーゴーに交代となっただけ!』
真の大聖女は自分だと言い張るエーベルはここで黙らせる。悪の中の悪、トーゴーの思い通りになるのも今日までだ。
『究極龍の卵に加え、大聖女マキナ・ビューティへの挑戦権もかかっている大事な試合!この結果によっては王国の未来が大きく動きます!』
究極龍の卵は兵士たちが大事に守っている。ところがハウス・オブ・ホーリーのメンバーたちは馬鹿にするような顔つきで指さしていた。
「おい見ろ!あの連中、どうしてあんなゴミを警備しているんだ?」
「さあ?頭がイカれたやつらの考えはわからないな」
その瞬間、卵が大きく揺れた。まさか今孵化するのかと場内は騒然とした。ところが、
「うわっ!!これは!?」 「うげっ!!」
兵士たちが割れた卵から離れた。腐った犬の死体と大量の害虫が中から飛び出してきた。
「私が鑑定人の真似をして究極龍の卵だと言ったらどいつもこいつも信じやがった!こんなアホばかりの国、真の大聖女エーベルが救うしかないだろ!」
「卵は事前に仕込み、誰かがすぐに見つけられる場所に置く。そして王国を奪い合いに巻き込むことで大闘技場で大会を開催させる……完璧だな、トーゴー!」
トーゴーの台本通り物事が進んでいる。ユーがやられて自らリングに立つのも想定内なのかもしれない。
「ジャッキー……すでにわかっているだろうが、こいつらの目的は大聖女の地位を手にしてこの王国の実権を握ることだ。手段を問わず、結果こそ全てと考えるような連中だ」
「3カウントで勝ったとしてもまた文句をつけてきます。誰の目にも明らかな戦闘不能状態、もしくは自ら負けを認めるところまでダメージを与えなければ、しつこく再戦を要求されるでしょう」
もう二度と愚かなことをしないと思わせるには、完全決着しかない。
「わかってる。あいつらを粉砕するよ」
準備が整い、ついに試合が始まる。先鋒として戦う一人を残し、あとの二人はリングの外に出ようというところで、シヨウが私たちを呼び止めた。
「おいおい待てコラ!お前らみたいな田舎者が本気で勝てると思ってんのか!?」
「あ?」 「………」
「大聖女もそうやろ、雑魚でしかもド田舎生まれのクソガキじゃ!さっさとエーベルに譲らんかい、ボケが!」
次の瞬間、シヨウが私にキックを放ってきた。エーベルとトーゴーもそれぞれ突進し、サキーとマユを外に落とした。
「あうっ!」 「うおっ」 「ぐっ!」
『まだ開始の鐘は鳴っていない!ハウス・オブ・ホーリーの先制攻撃だっ!』
私はリングの中央で倒れ、シヨウのストンピング攻撃の餌食になった。
「ぎゃっ!いたたっ!」
「へへへどうだ!さっさとギブアップしな!」
サキーたちは私を助けに入れる状況ではない。目の前の敵に対処するので一杯だ。
「い……いかん!試合開始だ!」
『ようやく鐘が鳴りました!ハウス・オブ・ホーリー、今日も卑劣さを隠しません!』
シヨウの猛烈な攻撃はひとまず防御力を高める魔法で凌ぐ。でも私の魔法が貧弱なのは相変わらずだから、すぐに効果はなくなる。
(それならこの短い時間で!)
チャンスを逃したらこのまま一方的にやられて負ける。一気に形勢逆転を狙った。
「こいつ!クズのくせにしぶとい……ぐげっ!!」
「ふんぬっ!!」
『ジャクリーンが反撃に出た!シヨウの右足を両腕で掴んで、回転させながら投げた――――――っ!!』
「うごぉ〜〜〜っ………」
受け身が取れずにシヨウは背中から落下した。今度は私が倒れたシヨウを攻める番だ。
「今のは異世界の技、『ドラゴンスクリュー』!?なぜ彼女が………ぐっ!」
「試合中によそ見するな!お前たちから仕掛けてきた乱戦だろうが!」
サキーがトーゴーに対し優勢になっていた。マユもエーベルと互角に戦い、確実に流れが来ている。
「やめろやめろ!ちょっと待って!」
情けない姿で攻撃の手を緩めるように頼んでくる。もちろん構わず続行だ。どうせ油断させるための演技だろうし、もう無理だと本気で思うならギブアップすればいい。
「くらえ!マキを脅かす野望は終わりだ!」
「ぶげっ!ぐううぅぅ………」
闘技大会でフランシーヌさんを倒した技に入った。シヨウにまたがって身体をエビ反りにしていく。体格差があるからシヨウがここから抜け出すのは困難で、降参しないと腰の骨が折れる。
『シヨウは苦しい!骨を折られる前に呼吸ができなくなって失神負けもありえます!』
エーベルとトーゴーはサキーとマユが足止めしている。邪魔する者は誰もいない。
「耐えても無駄だ!大人しく諦め………」
「ギ……ギブアップ………」
「あ、あれ?」
あっさり負けを認めてくれた。諦めろとは言ったけど、こんなに簡単にやめるとは思わなかった。
「よしっ!勝った!これで………」
私が犯した失敗は大きなものだけで二つある。シヨウの声が小さくて私にしか聞こえていないことに気がつかなかったのが一つ、もう一つは正式な勝ち名乗りを受けていないのに技を解いてしまったことだ。
「………あれ?」
「何をやっている!早くリングから離れろ!」
審判がリングの隅にいて、私たちを見ていなかった。なんとハウス・オブ・ホーリーの四人目が乱入しようとロープに手をかけていて、それを制止している最中だった。昨日の人質作戦の時にいた、酒瓶を持った女が審判と言い争っている。
シヨウはこの乱入者が見えていて、審判が離れるのがわかっていた。事前に打ち合わせていたのではと思えるほどのチームワークだ。
「クソが!危ないところだった!」
「うっ………」
シヨウが私を突き飛ばして脱出、自分の陣地に走っていった。そこにはマユを振り切ったトーゴーがいた。
『シヨウ、ここでトーゴーにタッチ!かつて異世界からリングでの戦いを伝えた転移者の子孫、スポイラー・トーゴーが入ります!』
「ジャクリーン・ビューティ……やはり面白い。本気でやりたくなってきたよ。介入だの反則だのは一切ない、リングを燃やすような熱い戦いを!」
「……もう騙されないよ」
しばらくの間、トーゴーは私の力を調べていた。その結論が『汚い手を使わなくても勝てる』なのか、『こいつは何回でも騙される』なのか。トーゴーが間違っていたことを教えてやるために戦おう。
ユー……ミスターR指定
シヨウ……宇和島の恥
酒瓶を持った女……ヒールマスター




