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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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闇討ちを返り討ちの巻

 マキが大聖女であることに異議を唱え、先代大聖女の記憶を持つ転生者エーベルこそ真の大聖女だと主張するハウス・オブ・ホーリー。穏やかで善人を装っていた彼女たちがついに本性を露わにした。


 明日の決勝戦で私たちが負けたら、マキとエーベルが大聖女の地位を争って戦うことになってしまった。ザ・グレーテストとの戦いを見ても、一対一の勝負に何人も乱入させて勝つつもりだろう。審判が見ていないところでルール破りの卑怯な手に出られると、圧倒的強者のマキでもどうなるかわからない。




「へへへ………今ごろぐっすり眠ってるはずだ。そのままずっと眠らせてやるよ」


 その卑劣ぶりはリング上だけではなかった。そろそろ日付も変わりそうという深夜に、私の部屋に侵入する怪しい人間がいた。その正体は明日の対戦相手の一人、ユーだった。


「悪夢を見せてやるぜ……いや、あのジャクリーンとかいう女、私には負けるがなかなかのナイスバディだったな。顔もいいし、私のテクニックで天国に連れて行ってやるとするか!マジだよ、これ」


 宿屋の主人にお金を渡して、この悪事を見逃してもらったそうだ。私が試合に出られなければ敵の不戦勝、エーベルは消耗せずにマキとの決戦に挑めるという、せこい作戦だ。



「よ〜し、リングじゃなくてベッドの上で激しく攻めちゃうぞ………」


 私がかけ布団を頭まで被っていたのは、トーゴーに裏切られたショックのせいだろうとユーは考えていた。すでに明日の勝利まで含めた全ての作戦が成功したつもりでいたのが彼女の失敗だった。



「……ああっ!?」


「やっぱり来たな、クズが」


 ベッドの中には私だけでなく、サキー、マユ、ラームがいた。奇襲に備えて私の部屋に集まっていたのがよかった。


「ジャッキーさん、下がってください!」


「ほら、ぼくたちの言う通りだったでしょう?」


 一人用のベッドに四人もいるのだからとにかく狭かった。しかもみんな私に抱きついてきて、その柔らかい感触やいい匂いが気になって眠れなかった。


 それでも敵の悪巧みを阻止できたのだから、みんなの読みが正しかった。一人で寝ていたら殺されたかもしれないと考えると恐ろしい。



「ちっ!ここは退散……」


「させるわけないだろ!ジャッキーを襲おうとした重罪、償ってもらうぞ!」


 サキーたちがユーを袋叩きにする。どうやらユーは一人で来たようで、叫んだところで無駄だった。実は宿屋の人たちには事前に話をしていて、もし怪しい人間が来たらあえて私の部屋まで通すようにお願いしていた。返り討ちにするためだ。



「お前さえ現れなければジャッキー様をもっと堪能できたのに!最高に気持ちいい時間を邪魔しやがって!」


「ほんとうに来る馬鹿がいるか!」


(………あれ?まあいいか)


 サキーたちの本心について深く考えるのはやめよう。みんなのおかげで助かった、それでいい。






「………昨日の戦いぶりからしてありえるとは思ったが……まさかこんな真似に出るとはな」


 大会二日目のメインイベントを前に、私たちはボコボコにしたユーを大観衆の前に出した。未遂に終わったとはいえ彼女が何をしようとしていたか、宿屋にいた目撃者たちも証言した。


「マキナ・ビューティが王家を敬わず、激しい気性の持ち主であることを理由に、もしかしたら真の大聖女は他にいるのかもしれないと少しでも考えた私が馬鹿だった。だからこんな連中が出てくる……試合は中止だな」



 王様が中止を宣言した。観客たちもそれでいいと納得しているなかで、エーベルたちは悪態をつき始めた。


「おい見たか!これがジェイピー王国の老いぼれどもと偽大聖女のやり方だよ。自分たちの間違いを認めたくないからって私たちの大切な仲間を襲って、試合をすることすら許さないとは!」


「………は?」


「お前らは卑怯者だから裏でコソコソ悪事を働くのが得意なんだろ!?正々堂々勝負せんかいコラ!ハウス・オブ・ホーリーが怖いんか、ああ?この腰抜け!糞に集まるハエ以下の連中がよ!」


 本気で言っているのかと皆が呆れた。全部自分たちのことだ。裏で卑怯な手を使って試合を潰そうとしたのはエーベルたちだ。


 誰にも相手にされないので、エーベルたちはますます怒った。ところがトーゴーはゆっくりとリングの外に出ると、実況担当者が持っていた拡声道具を奪い、大闘技場全体に聞こえるように話し始めた。



『仕方ない。今日のところは引き下がろう。しかし皆さん、どうか忘れないでほしい!大聖女は数百年前にも同じ不遇を味わったことを!』


「………」 「………むっ!」


『聖女であることを否定され、竜人の国へ追い出された。言葉巧みな偽者や愚かな王たちのせいで、大聖女だけでなく国民も不幸になった!』


 トーゴーが語る歴史はマキが教えてくれたものと同じで、そこに嘘はない。


『彼女が大聖女であると認められたのは、彼女の国が滅んだ後だった。皆さんに同じ間違いを犯してほしくないのでエーベルは立ち上がり、人々を救おうとしている!』


 さすが私を騙した超一流の悪役だ。大観衆を疑心暗鬼の底なし沼に引きずり込んだ。



「エーベルが先代大聖女の記憶を持った転生者で、真の大聖女の可能性がある……話を進めるために百歩譲ってそれは認めよう。だったらなぜこんな手を使う?手段はいくらでもあったはずだが」


『いや、こうするしかなかった。民の幸福と平和のためにエーベルが必死に訴えたとしても、相手にされないに決まっている。権力や金が欲しいだけの詐欺師と呼ばれて終わってしまう……だから大聖女にふさわしい実力を持っていることを示さなければならなかった』


 世界のためにあえて悪役を演じ、しばらくしてからあれは勇者だったと皆が気がつくこともある。場合によっては本人の死後に明らかになったりする。でも今回のエーベルたちはどうだろう。


『しかし卑劣極まりない闇討ちによりユーが倒され、その機会も奪われてしまった。ならば我々は他の地へ向かう。竜人の国が彼女を迎えて祝福を受けたように、現代でも正しい目を持つ人々のもとで真の大聖女の力が明らかになるようにしよう!』


 トーゴーの言葉を無視することもできた。だけど私の考えは違う。この場で完全決着が必要だ。誰が本物の大聖女なのかというのはもちろん、トーゴーとの因縁もここで終わらせると決意した。




「……試合ならできるよ。ユーの代わりにお前が入ればいいだろ、トーゴー。上がってきなよ」


『ジャクリーン………面白いことを言うな。このまま勝利を譲られていればよかったのに………』


 トーゴーが拡声道具を投げ捨てる。みんなは私の雰囲気や口調がいつもと違うことに驚いていた。

 

「マキの敵であるお前たちを叩き潰してやる!お前たちみたいなやつこそこの国にいらないんだ!」


「………わかった。それならやろう。拷問の限りを尽くし、今日この日をお前たち姉妹とその仲間どもの命日としよう!」


 マキのため、そしてジェイピー王国で生きる全ての人たちのためにも、負けられない戦いが始まった。

 今年のG1 CLIMAXは予想通りザック・セイバーJr.選手の優勝でした。おめでとうございます。


 ブラックホール、悪魔超人軍初勝利おめでとうございます。素晴らしいフォーディメンションキルでした。

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