表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
95/273

最悪の介入者の巻

『ひ、卑劣!なんと汚い攻撃!審判を巻き込んだことすら計算通りだったか!』


「………くふっ」


 エーベルが醜悪な笑みを浮かべる。気絶した審判をリング下に蹴り落とすと、倒れているツミオさんへの追撃を始めた。


「アハハハハ!どうしたどうした!?雑魚すぎるだろ!おい、何か言ってみろこのロートルが!」


「うぐっ………」


 ツミオさんは反撃できない。丸まったままダメージを受けるだけだ。エーベルの豹変に場内は凍りついていた。



「こいつ!ふざけやがって……」


 たまらずエンスケがリングに入る。タッチをせずに入ってくるのはルール違反だけど、審判が機能していないから反則にはならない。そもそも先にやりたい放題やっているのはエーベルのほうだ。


「がっ!!」


「ヒャハハハハハ!!」


 救出しようとしたら、エンスケも襲われた。動物か魔物の骨を武器にしたシヨウが狂ったように叫びながら頭部を殴打。エンスケはリングに倒れた。



「こいつら!エーベルだけじゃない、全員中身が変わったような……ぐぼっ!!」


「変わった?これが真の姿だよ。マジだよ、これ」


 リングの外でカツもやられている。いつの間にかユーは杖を持っていて、カツの喉や胸を突いて苦しめていた。



「ぐぐっ………代わりの審判も来ないのか!」


『反則負けを告げるべき審判が不在!エーベルたちは椅子を持ってきました!無法の攻撃は止まらない!』


 立会人には試合を裁定する権利がない。王様とマキはただの傍観者に過ぎず、何もできない。



「このクソ女ども……なめんなっ!!」


「ぐっ……こいつ!」 「死にぞこないが……うげ!」


『エンスケが意地の攻撃!エーベルの動きを止め、シヨウをリング下に落下させた!しかし力を使い果たしたか、エンスケも倒れた!』


 今リングにいるのはエンスケとエーベルで、二人とも倒れている。ツミオさんとシヨウは外で倒れたまま動けず、カツとユーはリングから離れた場所で戦い始めたからすぐには戻れない。


『この試合がどうなるのか全くわからなくなりました!誰が最初に立ち上がる……おっと、何者かが走ってきた!そしてリングに上がりロープの外に立った!』


 この乱入者がエーベルたちの仲間だったら終わりだ。はたして誰の味方なのか。



「エンスケ!何をやってるんだい!さっさと立ち上がりな!ホラ、力を分け与えてやるよ!」


『お…おお!彼女は『アッキーラ』、エンスケの妻です!鬼嫁として有名なアッキーラですが、夫の危機に駆けつけてくれました!』


 アッキーラさんは体術も魔法も一流で、エンスケよりも強いかもと言われているほどだ。エンスケは這いながらもアッキーラさんのもとに向かい、手を伸ばした。


「よ、よく来てくれた………お前のおかげで勝てるぞ!」


「……………」


 夫婦ががっちりと手を取り合い、エンスケが立ち上がる。まさかここからが真の悪夢の始まりだとは、わかるはずがない。


「がっ!?」


『え……ええっ!?アッキーラがエンスケを殴った!喝を入れるというレベルではない、本気のパンチ!』


 エンスケがふらつく。しかし倒れることを許されずロープで身体を支えられていると、アッキーラさんは鞭を出してエンスケの首に巻きつけた。


「おごっ………がぼぼぼ」


『首を絞めている――――――っ!夫婦喧嘩にしては過激すぎる!まさか不甲斐ない夫を捨てたのか!?』


 衝撃的な裏切りに大きなどよめきが起こる。ところがこれすら凌ぐ大事件が待っていた。



「……き……きさま……アッキーラじゃないな!あいつは鞭は使わない!変装か幻覚か………誰だ………」


「そう。私はお前の妻ではない。私は………」


 エンスケが意識を失うと同時に、アッキーラさんの姿が変化していく。エンスケを騙すために化けていたようだ。この卑怯者の正体は…………。




「……………え?」


「ト――――――ゴ――――――ッ!!」


 鞭を持つトーゴーさんが立っていた。私の脳は理解が追いつかず、身体全体が機能を停止した。



「遅かったじゃないの、トーゴーさん!ホラ、あんたのために獲物を用意しておいた!」


 痛めつけられたカツがユーによって無理やりリングに上げられ、復活したエーベルとシヨウが仰向けに倒れるカツの足を掴む。エーベルが右足、シヨウが左足を持って、足を広げながら身体ごと高く上げた。


『ま、まさかこのまま股を裂くつもりか!?足に致命的なダメージを与えようと………』


「的外れなこと言ってんじゃねーよ、バカ実況が。トーゴー!やっちまえ!」


 トーゴーさんが柱の上に立つ。ダブジェ島の試合で『ダイビング・セントーン』という華麗な技を決めたのと同じ動きだから、ここで披露するのかと思った。



「………?右手に鉄の手袋?何が………」


「よく見ておけ!これぞ私の必殺技、悪を切り裂く正義の手刀だっ!」


 右手を腕ごとぐるぐる振り回し、皆の注目を集めた。その表情はどこか悲しみを秘めていて、誰かの死を悼むようだった。そして『悪を切り裂く正義の手刀』とは、トーゴーさんがアンデッドたちを葬った時に使った技だ。



「やつはいったい何をする気………あっ!?」


 悲しみの顔は作り物だった。満面の笑みに変わることで、その本心がすぐに明らかになった。



「はっはっは!せいっ!!」


「かっ………」


 カツの『男性にとってとても大事なもの』が鉄の手刀に潰された。二人がかりで足を広げていたのは急所を破壊するためだった。



『ざ、残酷――――――っ!!カツは股間を押さえたまま動かなくなりました!ツミオもダメージは大きく、意識を取り戻したエンスケだけがどうにか立ち上がりそうですが……』


「お前ら………許さねえぞ!」


「……許すとか許さないとかどうでもいいんだよ。あれを見ろ!」


 エーベルが指さした先では、なんと本物のアッキーラさんが二人の女に捕まっていた。一人は大きな酒瓶を持ちながら、もう一人はへらへら笑ってアッキーラさんを拘束している。



「な!アッキーラ!」


「呼びかけても無駄なんだよ。意識がないからな……さて、どうする?嫁がどうなってもいいなら試合続行といこうじゃないか。しかし我々ハウス・オブ・ホーリーに勝てないと認めるなら、今すぐ棄権しろ」


 不意打ち、介入に続き人質作戦まで使う。審判がいないとここまで狂った戦いになってしまうのか。


「そうだな……犬のように這いつくばって私の股の下を通れ。大勢の観客の前で完全なる屈服を見せてくれ」


 これがあの優しくて頼りになるトーゴーさんだなんて、私は信じない。誰かが変装している、そうに決まっている!




「まだやりたいのなら、嫁も仲間たちもたっぷり拷問してやる。そのほうが面白いから、ぜひ最後まで諦めずに戦ってくれ、エンスケさん!」


「く………くう〜〜〜〜〜〜っ………」


 悔しさのあまりエンスケはマットを殴りつける。しかし大事な人たちの命を考えると、これ以上戦いを続けるわけにはいかなかった。


『あ、ああ――――――っ!屈辱の股くぐり!審判はいないが試合放棄となればこれで決着!ハウス・オブ・ホーリーが決勝進出です!』

 変装、襲撃、首絞め……2020年7月12日、内藤哲也対EVILの二冠戦の最中に、内藤の仲間であるBUSHIのマスクを被った謎の男が登場する。内藤を鼓舞し手を貸すように見えたが、攻撃しそのままワイヤーで首を締める。試合後にマスクを脱いだその男こそ、レスリング・マスターと呼ばれるディック東郷だった(筋肉がありすぎてBUSHIじゃないのはバレバレだったけど)。


 悪を切り裂く正義の手刀……セカンドロープから相手の急所に手刀を振りかざす、その名も『パイプカット』。


 股くぐり……『スペル・デルフィン 股くぐり事件』で検索してください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ