闇の目覚めの巻
「おめでとうございます、ジャッキー様!まずは予選を難なく通過!」
「作戦通りの鮮やかな勝利でした……あれ、どちらへ?」
リングの下で待っていたラームとルリさんを素通りして先を急ぐ。喜ぶより先にやるべきことがある。
「トーゴーさんにお礼を言わなきゃ。あの人が王子様相手に正義を貫いてくれたおかげで皆の安全も守られた」
暴徒になりそうだった観客たちもトーゴーさんの言葉で沈黙した。高速押さえ込みという私の軽率な案のせいで大会そのものが潰れてしまうかもしれない、その危機をトーゴーさんが救ってくれた。
「それなら私たちも同行するぞ、さあ!」
「いや、一人で行くよ。みんなが行ったらまたトーゴーさんを睨んだり喧嘩腰で話したりするのはわかってるからね。言いたくないけど、邪魔だよ」
「ジャクリーン様………」
サキーたちを置いて立会人席に向かうと、すでにマキが威圧的な様子でトーゴーさんに迫っている。これが何人も増えることを考えたら、連れてこなくてよかった。
「どうしてお姉ちゃんを助けたのかな?トーゴー、あなたは何を考えている?お姉ちゃんを狙っているくせに」
「大聖女様がなぜ私を疑うのかわかりません。皆が満足する素晴らしい大会になってほしい、今はそれだけを考えています」
マキが相手でも堂々としている。これが真の強さだ。感動した私はすぐに立会人席に入り、マキとトーゴーさんの間に無理やり割って入った。
「あっ、お姉ちゃん!来てくれたんだ……」
「トーゴーさん、ありがとうございました!トーゴーさんがいなかったら何もかもめちゃくちゃでした」
マキではなくトーゴーさんと話し、視線を向ける。トーゴーさんを優先したことでマキがどう思うかなんて今はどうでもよかった。
「リングのルールや勝敗は王族であっても従うべきもの。当たり前のことを指摘しただけです」
「その当たり前が難しいんですよ。黙って見てるだけだった王様やマキよりも、トーゴーさんのほうが皆の上に立つべき人です!」
マキだけでなく王様も「えっ」という顔で私を見た。失言だったかもしれないけど、これが私の本心だ。
「ははは!それはありえませんよ!私は王や大聖女なんて器ではありません。面白いご冗談ですね!」
「そうですか?私は本気で……」
「………そう。世界の頂点に立つべき真の王、真の大聖女は一人しかいない……すぐにわかりますよ」
「………はい?」 「!?」 「……………」
どういうことか聞こうとしたら、もう次の試合が始まりそうだった。これが終わってからじっくり教えてもらおう。
『本日のメインイベントはザ・グレーテスト対ハウス・オブ・ホーリーの一戦です!ザ・グレーテストは元闘魂軍のツミオをリーダーとして、実力者のエンスケとカツが参戦!』
『王子チームが脱落した今、優勝の最有力候補ですよ!三人ともやる気に満ち溢れています!』
『ハウス・オブ・ホーリーの三人は生きて帰れるのでしょうか?とても戦士には見えない弱そうなチームです!』
エーベルさんとシヨウさんは不安そうにしている。失礼な言い方になるけど、もう一人のユーさんもどこにでもいる女の人だ。
「一方的な試合になりそうですね」
「……危なくなったら審判が止めますよ」
3カウント制が採用されているとはいえ、戦闘不能にして倒してもいい。ザ・グレーテストの三人は手加減をしてくれるような優しい相手ではない。
「始めっ!!」
『ザ・グレーテストはカツ、ハウス・オブ・ホーリーはシヨウで試合開始!』
カツの突進の勢いはシューター王子を遥かに凌ぐ。目の前の敵を打ち倒してやろうという気迫に溢れていた。
「あわわ……うげっ!!」
「どうした!?真剣勝負でよそ見は厳禁だぜ!」
よそ見というよりはどうしたらいいかわからずにあたふたしていたシヨウさんに強烈な張り手が襲いかかる。カツの攻撃は容赦がない。
「ああ〜〜〜っ!た、助けて!」
「……弱すぎだろ………」
『いきなりの滅多打ちにシヨウは慌てて自軍の陣地に逃げ帰ります!呆れたカツも下がってエンスケにタッチ!』
リング上はエンスケとユーさんに代わった。しかし一方的で勝負になっていない光景はそのままだった。
「ぐえ!ぐえっ!エーベル、頼むっ!」
「逃げやがった………手応えがないな」
エンスケの剣術にも打撃にもまるで歯が立たず敗走。エーベルさんが入り、ザ・グレーテストはツミオさんが出てきた。
「くらえ、闇の魔法……」
「全く効かないぞ、コラ!ナメんなコラ!」
視界とスピードを奪うはずの魔法は効果なしも同然、それ以外の攻撃魔法も全て不発に終わっている。
「ツミオさんが魔法に耐性のある防具を装備しているわけじゃない!だからこれは……」
「エーベルの魔力がとても弱く、魔法の精度も悪い。そう結論するのが妥当だな」
ハウス・オブ・ホーリーが勝っているところなど何一つない。試合前から薄々わかってはいたけど、明日の決勝戦の対戦相手はほぼ決まった。
「……あれ?トーゴーさん、どこへ?」
「失礼します。少し用事ができました」
突然姿を消してしまった。いつ終わってもおかしくないとはいえ、まだ試合途中だ。
「……強い………」
「悪いな、エーベルとやら。しかしリングに上がった以上、こうなる覚悟がなかったとは言わせない」
ツミオさんが右腕をぐるぐると回す。必殺技の構えだ。大木すら軽々と切り倒すほどで、ハンマー以上の威力が出る。
「回復役の聖女はたくさんいる。終わったら治してもらえ!」
強烈な一撃で失神したり首の骨が折れたりしても、生きてさえいればどうにかなる。でもそうなる前にギブアップしたほうがいい。
「………っ!」
エーベルさんは負けを認めない。戦闘不能による敗北を選んだようだ。シヨウさんとユーさんも助けに入れない。このまま決着かと思いきや、信じられない出来事が起きた。
「ん!?」 「な、何か来るぞ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
一瞬のことだった。どこからか漆黒の球体が飛んできて、エーベルさんの身体に吸収された。ただし外見に大きな変化はない。
『い……今のは!?エーベルは無事だが……』
皆の動きが止まったところをエーベルさんは逃さず、ツミオさんに向かって頭から突進した。
「グオッ……ム!?」
「げはっ!!」
『事故だ!事故です!エーベルがツミオを柱に押し込もうとしたところ、審判が巻き込まれてしまいました!ツミオと柱に挟まれて……気を失っているようだ!』
偶然の事故に見えた。しかし………。
「お、おい!大丈夫か………ぐっ!?」
「……………」
倒れた審判を心配して覗き込んでいたツミオさんの後頭部を全力で殴りつけるエーベルさん……いや、エーベル。背後からの攻撃を決めた彼女は邪悪な笑みを浮かべていた。
やはりオーカーン様は敗退しました。Bブロックの勝敗も予想通り。
横浜DeNAベイスターズは気がつけば終戦、ステカセキングも善戦むなしく散り、カーメンはあっさり死にました。私の応援している者たちが次々と敗れ去っていきます。




