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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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シューター・アントニオ王子の巻

 究極龍の卵は誰のものかを決めるトーナメント、その当日となった。すでに前座の試合が始まっていて、控室で待機する私たちのもとに来客があった。


「……マシガナさん!」


「ジャクリーンさん……敵という立場になってしまいましたが、どうしても挨拶がしたかったので……」


 ザ・グレーテストの若き経営者、マシガナさんが申しわけなさそうに頭を下げる。その後ろにはギルドの代表として試合に出る三人もいた。


 トーナメントの組み合わせはくじ引きで決まり、私たちは王子チーム、ザ・グレーテストはハウス・オブ・ホーリーと予選を戦うことになった。今日のところは対戦しないから、こうして控室で話しても問題ない。



「お前のおかげで我がギルドは復活したも同然なのに、恩を仇で返す形になったな……すまない」


「いいえ、気にしないでください。私は何もしていません。皆さんが自分の力で危機を乗り越えたんです」



 結果的にこうなってしまっただけで、今後の関係が悪くなるということはない。しかしマユはこの騒動の原因となったカツへ冷ややかな目を向けた。


「その男が卵を奪い取ろうとしたせいでこうなっているくせに……乱暴で醜悪な性質は相変わらずか」


「違う!あれを見つけたのは俺が最初だ、嘘じゃない!そっちのギルドマスター、サンシーロや兵士たちだって証言してくれている!」


 恐ろしい魔物たちのせいでカツが卵のことを忘れていたところをエーベルさんたちが持ち帰った、それは事実だった。



「どうだか……しかしお前は闘魂軍入りを夢見ていたはず。大人しく王国に卵を差し出したほうがよかっただろうに」


「いや、今のジェイピー王国は真の闘魂を失っている。憧れは消え失せ、ザ・グレーテストでやっていくと決めた。だからこそあれがどうしても必要なんだ」

 

 エンスケがその隣で頷く。エンスケとカツはザ・グレーテストを離れそうな感じだっただけに、ギルドのために頑張るというのは意外だ。



「苦しい時に頑張ってくれた二代目への恩返しでもある。卵を売った大金でギルドが潤うのは言うまでもないが、もう一つ大きな狙いがある」


「……それは?」


「本土に進出することだ。そうすれば二代目がジャクリーン・ビューティと接触する機会が増える。二代目はすっかりギルドを救った英雄、ジャクリーンのファンだからな、喜んでくれるだろう」


 私と頻繁に会えるようになっても喜ぶはずがない。何を言っているのやらと首を傾げていると、


「………こらっ!それはないしょにしてって言ったじゃない!じゃ、じゃあジャクリーンさん!また後で!」


 マシガナさんは顔を赤くして私たちの控室を出ていった。選手の三人も追いかけるようにしていなくなった。



「困ったな、英雄だって。あははは………」


 私だけ上機嫌になったけど、この部屋にいるみんなは苦々しい顔で負のオーラを放っていた。


「あの男……余計なことしかしない!叩きのめす!」


「ああ。これ以上変なやつをジャッキーに近づけるわけにはいかない!究極龍なんかどうでもいい、ジャッキーを守るためにやつらを潰すぞ!」


 サキーとマユだけでなく、応援のラームとルリさんも怒りの輪に加わっていた。興奮のあまり試合に乱入しそうな勢いだった。



「しかしやつらの前に今日の試合、三人の王子に勝たないとな。負ける相手ではないが、油断は禁物だぞ」


「マッチョ王子はビューティ家を憎んでいると思いきや、妹様ともう一度やり直そうと張り切っているそうです。国や家の思惑など関係なく、自分の力だけで好きになってもらおうと……」


 王子がマキの心を掴む可能性は限りなくゼロに近い。でも諦めなければゼロにはならない。はっきりした目標と熱意を持っているのだから要注意だ。ちなみにマキは今日、王様やトーゴーさんといっしょに立会人の一人として会場にいる。


「義妹様やビューティ家への考えの違いで、国王様とマッチョ王子の関係が悪化しています。弟のセイギ王子が王位を継承するかもという噂も流れています」


「第二王子セイギ……戦闘技術、人格共にマッチョよりも王に向いているのではと言われていたが、次男であるゆえに『天下を取り損ねた男』と呼ばれている。しかしここでチャンスが巡ってきたのか」


 セイギ王子もやる気に満ちている。苦戦は避けられそうにないか。



「そして第三王子シューター……今回のトーナメントに参加するために修行の旅から戻ってきた」


「ジャッキー様やサキーさんと年齢は同じ、華があって人気者だと聞いていますが……」


 多くの若い女性たちが彼に夢中だ。シューター王子こそ次の国王にふさわしいという声も出始めているほどだ。



「相手の話はこのへんにして、そろそろ作戦を決めましょう。どう戦いますか?」


「それならいい案があるんだ。まずは………」


 観客席は超満員、こんな試合をしたら怒られるかもしれない。でもこれは真剣勝負だ。



「……いいですね!やってみましょう!」


「面白そうだな。さすがジャッキーだ」


 私の作戦は好評だった。あとは相手がこちらの思惑通り動いてくれたら完璧だ。






『次はいよいよ本日のダブル・メインイベントの第一試合!最高クラスのドラゴン、究極龍の卵が誰のものかを決めるトーナメントの予選が始まります!まずは王国軍対ドラマチック・ドリーム・ギルドの試合です!』


 マユ、私、サキーの順番に入場した。どこから私を狙った不意打ちが来ても対処できるようにと言われ、真ん中で守られる形になっていた。


『この試合の鍵はジャクリーン・ビューティ!闘技大会での準優勝は実力なのか、ただのまぐれなのか!』


 私の真価が問われる一戦、その視点で観戦している人たちもいた。勝敗はもちろん、私の動きが注目されている。


(………観客たちの期待を裏切ることになるね……)




『いや、今日の主役はこの人です!お聞きください、この大歓声!』


「キャ―――ッ!!」 「シューター様―――っ!!」


 シューター・アントニオ王子の人気が凄い。この大闘技場にここまで若い女性や子どもたちが集まるのは珍しい。三男でありながら次期国王候補に急浮上するのもわかる。


「ありがとう!どうもありがとう!」


 観客たちとハイタッチしながら入場するシューター王子。明るくて爽やかな美男子はまさに主人公だ。



(……………)


 そしてこの試合に勝つために、私たちが標的にしていたのもシューター王子だった。

 マッチョ王子……ドラゴン。コンニャク社長。


 セイギ王子……青義。黙れち◯ぽ野郎!


 シューター王子……新エース。本当になれるの?

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