究極龍争奪トーナメントの巻
トーゴーさんが何かを企んでいるとマキが言う。そんなまさかと私が返す前にマユが話し始めた。
「実は昨晩、大聖女様から密かに指示を受けていました。明日のダンジョン捜索には参加するな、どこかで抜けろと」
「………え?」
「カツがいたのでちょうどいい理由づけになりましたが、やつがいなくても私は洞窟に入る前に離脱していました。そして外でしばらく様子を見ている、それが私の今日の仕事でした」
マキがマユと組むのは珍しい。普段ならやらないことをするくらい、トーゴーさんを警戒しているのか。
「誰にも見つからないように気配を消しながら洞窟の入口を見張っていました。すると早々にトーゴーが現れ、洞窟に入っていきました。中で合流するつもりなのかと思ったら、先に一人で戻ってきましたね」
「共に戦うよりも外で待っているほうがいいと考えたのかもな。なるほど、サンシーロに用があったというのも怪しくなってきた」
みんながトーゴーさんを疑い始めた。私は少数派になったけど、周りに流される気はない。
「サンシーロさんに会いたいから最初はギルドに行って、それからあのダンジョンを紹介されたって言ってたのを忘れたの?加勢して私たちを助けようとしていた、でも追いつけなかったからやめた……それで説明できるよ。不自然でもなんでもない」
「どうかな?わたしは違うと思うね。お姉ちゃんたちが最深部で戦った変態の魔物、それにドラゴンの卵のことも、きっと最初からわかっていた」
そんなはずはない。わざわざ王国の兵士まで連れてきて調査に向かったのに、トーゴーさんがどうやって事前に知ったというのか。
「これまでのことも偶然じゃない。アンデッドの村やダブジェ島、この間わたしたちのデートを邪魔したことまで……全て目的があってお姉ちゃんに近づいている」
「その目的とは?」
「………まだわからない。わからないから不気味なんだよ。お姉ちゃんを危険な場所に連れていって危ない目に遭わせる気なのか、わたしからお姉ちゃんを奪って自分のものにしようとしているのか……」
「………」 「わたしから?」 「………おやおや」
マキが「わたしからお姉ちゃん」と言った瞬間にこの場にいる全員の目つきが変わった。そして静かに視殺戦が始まる。私はまだ誰のものでもないし、この争いのほうがトーゴーさんよりずっと危険だ。
「あと数日で答えは出るでしょう。王国が主催する大会となれば、お義父様たちはもちろん、国王様も来場するはずです。もし何かを仕掛けるとしたらこの舞台しかありません」
「………そうだな。やつも立会人として参加する。少しでも怪しい動きをしたら斬る」
ルリさんの言葉にみんなが頷き、この場は終わった。トーゴーさんは何も悪いことをしていないと明らかになるのが楽しみだ。
兵士たちの約束通り大会の日時はすぐに決まった。ベストの状態で戦えるように二日間の大会となり、究極龍争奪戦の前には前座の試合がいくつか組まれる。
「初日が予選、二日目が決勝か。この争いに関わっている4チームが三人ずつ選手を出し、リングで戦う……時間無制限の一本勝負だ」
ルールも発表された。各チームの代表者がじっくり話し合って決めたから、これで最終決定だ。
「審判はリング上に一人、審判だけが勝敗や反則の裁定ができる。ただし技に巻き込まれたりした時のために控えの審判も準備させる」
「剣の威力や魔法の効果が弱まるのはこの間の闘技大会と同じですか。一対一が三対三になっただけでほとんどいっしょ……ん?これは?」
ラームが見慣れない単語に気がつく。私もその意味がわからなかった。
「3カウント制……?」
「ああ。両肩をつけて審判が3秒数えたら勝ちというルールだ。究極龍の卵は貴重だが、そのせいで死人や廃人が出てはいけないとトーゴーが強く主張したので取り入れた」
どちらかが死ぬか戦闘不能になるまで戦うのではやりすぎだ。トーゴーさんらしい素晴らしい考えだ。
「さて、ルールの確認はもういいか。各チームのメンバーを見てみよう!まずは王国だが……」
「うわっ!あいつら本気だ!王子三人で潰しにきたぞ!長男マッチョ、次男セイギ、そして三男『シューター』!」
全員リングでの戦いを得意としている。強烈なパンチやキック、抜け出せない関節技など攻め手が多い。
「次はザ・グレーテストか。ツミオにエンスケにカツ……まあ全員実力はわかっている」
警戒する必要はないとギルドの仲間たちは口を揃える。でもその三人、全員私より強い。
「全くわからないこっちのほうが怖いぞ。ハウス・オブ・ホーリーのエーベル、シヨウ、『ユー』。王子たちよりは弱いだろうが……」
ダンジョンでは戦闘の機会がなかったから、エーベルさんとシヨウさんの腕前は謎のままだ。ただ、戦いに向いている性格には思えない。会ったことのないユーさんという人が頼みか。
「そして俺たちのギルドからは……サキー様、マユ、それにジャッキーだ」
「え!?私ですか!?サンシーロさんとかテンゲンさんのほうが……」
まさか選ばれるとは思っていなかった。ところがサンシーロさんは私の肩を叩く。
「何を言っている。まぐれとはいえ闘技大会準優勝のお前が出ないでどうするんだ?サキー様との相性だってお前のほうが上だろう」
「………ま、まあ………」
「しかし評価が上がったぶん、つけ狙われることもある。どんな時も一人になるなよ」
家を出る時にお父さんやお母さん、それに奴隷の人たちからも同じことを注意されている。皆がそう言うのなら用心しておこう。
「それなら問題ありません!ぼくが常にジャッキー様と共にいます!お風呂もトイレも!」
「は?」
「私たちもジャッキーのそばにいるぞ!同じベッドで眠るぞ!1メートル以上は絶対に離れない!」
来るかどうかもわからない敵より厄介な仲間たち。守ってくれるのはうれしいけど、気の休まる時間がなくなりそうだ。
『滅びの村の巻』の後書きで予想したG1 CLIMAXの答え合わせ、Aブロック編です。新日本プロレスに興味がない方は読まなくていい内容になっています。
予想……願望はEVIL、ゲイブ、オーカーン様だけど、現実は内藤、ザック、海野(海野の怪我が悪化したら鷹木)
結果……1位ザック、2位鷹木、3位オーカーン様でした。新日本プロレスの偉大なる支配者、オーカーン様が4連敗からの5連勝で決勝トーナメント進出です!ザックと鷹木には負けっぱなしのイメージがあるので、そろそろ勝って世代交代を成し遂げてほしいと思います!
個々の選手の予想と結果
①海野……完走さえすれば3位以内だと思ったが、腰痛もあってか最終戦を待たずに予選落ち。現状のパフォーマンスではまあ妥当な結果になった。
②内藤……1位通過してトーナメントで敗退と予想したが、コンディションがとにかく悪かった。オーカーン様に引導を渡される形になったが、大好きな広島カープの試合でも楽しんで身体を休めてほしい。
③鷹木……優勝の可能性もあるが、今年がラストチャンスではと65話の後書きで書いていた。内藤が脱落するなら鷹木は進出、あとはBで誰が勝ち上がってくるか。
④ザック……予選は通過すると思っていたが、断トツ1位とは。悲願の優勝は見たい、しかしオーカーン様に鷹木とザック越えをしてほしい……難しいところ。
⑤SANADA……鷹木やザックを敗退させてまで上に行かせるのはどうだろうと予想したらその通りになって、しかも負け越し。本人もユニットも厳しい立場に。
⑥オーカーン……事実上1位の3位で逆転突破。今シリーズ初のメインで感動の勝利となり、プロレス界の完全支配は時間の問題(東スポより)。しかし優勝にはやっぱりKOPWのベルトが邪魔。ゲイブが言うように、こんなベルトはなくしたほうがいいと言っても過言ではない気がする。
⑦カラム……全敗を覚悟したが、2勝もした。あとはオリジナル技がほしい。
⑧ジェイク……新日本に来ていきなり負け越しでは何のために来たんだと書いたが、負け越した。このままBULLET CLUBの中堅として埋もれてしまうのだろうか。
⑨ゲイブ……全試合盛り上がるが上位には入れない、この予想が完全的中した。ただし反則負けや無効試合はなかった。単なる正義や悪では語れない存在になっている。
⑩EVIL……同門対決は全勝、開幕5連勝と絶好調だったが終盤全敗で敗退。マイクやバックステージコメントではMVPだっただけに、勝ち進んでほしかった。




