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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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究極龍の卵の巻

「ま、待て!おい!やめろ!」


「ワタシたちの楽しみを邪魔したんだ。どうなるかわかってのことだろうな?」


 ダンディーノ、セクシー・マシーン、ファンタスティック・ドリーマーの三人に囲まれ、彼らを叱りに来たはずの魔物は逃げ場がない。


「あいつらじゃなくて自分が『性なる裁き』を味わいたかった、そう受け取らせてもらうぞ」


「なんと欲張りなお方だ!さあ、始めましょう!」



 何かが始まろうとした時、サキーとラームは私の前に立ち、耳まで塞いだ。そのまま歩き始め、出口へと向かった。


「すぐに離れよう。見るのも聞くのも嫌すぎる」


「さあ、早く早く」


 エーベルさんとシヨウさんも避難を終えていた。二人は謎の卵を持っていた。


「それは何だ?どこにあった?」


「あ、あの隅に……」


「あいつらの卵……そんなわけないですね。帰ってから鑑定してもらいましょう」


 卵は小さいのに重かった。荷物持ちの私とラームが持つと言ったら、これくらいなら平気ということだった。私よりも力がありそうだ。



「やめろ!やめてくれっ!誰か助けてっ!」


「素晴らしい!最高の姿が記録されています!アナタの息子たちにも後で見せてやりましょう!」


「ア!ア――――――ッ!!……………」


 地獄に背を向けた。今のところは洞窟の外に被害は出ていないから、立入禁止にしておけば問題ない。それがわかっただけでも収穫だった。






「変なモン見せられちまったよ」


「見ただけならまだいいだろこの野郎!俺なんかキスを………オエッ!」 


 帰り道は何事もなく、初心者向けのダンジョンだから数時間で往復できた。地上に出たらそのまま解散だと思っていたら、ここからもう一波乱あった。



「トーゴーさん!?どうしてここに?」


 私たちを待っていたかのように、トーゴーさんが入口に立っていた。今までとは違い、これは偶然ではないだろう。


「ギルドマスターのサンシーロさんに用があって、ギルドに向かったらこちらだと伺ったので……」


「あっ……本当に私たちを待っていたんですね」



 いまだに顔色の悪いサンシーロさんを気遣って、用事は日を改めるそうだ。確かに今の様子では細かい話をするのは無理だ。ダンディーノの攻撃で心に大きなダメージを受けている。


「このダンジョンにそんな厄介な魔物がいたなんて驚きました。また来ますよ……あれ?その卵は?」


 エーベルさんの持っていた卵に気がついたトーゴーさんは、その上に手を置いた。どうやら卵の中身を鑑定できるスキルを持っているようで、とても驚いた様子だ。すぐに鑑定は終わった。



「これは……びっくりしました。ドラゴンの卵ですよ。それも『究極龍』と呼ばれる、最上位の種族です」

 

「……究極龍!そんな卵がどうしてあんなところに?魔界の奥深く、『闘龍門』と呼ばれるドラゴンのゲートの外に出てくるなんて信じられん」


「あのフェロモン軍団が盗み出したのか?いや、確かにあいつらは強かったが、さすがに究極龍の卵を奪う力はない。とっくに殺されているはず」


 本物の究極龍の卵ならとんでもないことだ。もし値段をつけるとしたら闘技大会の優勝賞金の何十倍は確実だ。貴重すぎて値段はつけられないということもありえる。



 これまでは誰も気にしていなかった卵だけど、まさかの究極龍となれば目の色が変わる。エーベルさんたちが穏やかで気が弱そうに見えるからか、奪おうとする男たちがいた。


「おい、その卵は最初に俺が見つけていたんだ!だが戦闘の最中だったから岩の隅に置いておいた……そこをお前が拾っただけだ!それは俺のものだ!」


 ザ・グレーテストのカツが乱暴に卵を奪い取った。しかし次の瞬間には兵士たちがカツに槍を向けた。


「いや、それは王国で管理すべきものだ。究極龍が戦力となれば他の国は我々に従うしかなくなる。しかし扱い方を間違えたら大惨事だ。その判断も我々がすることだし、大人しく卵を渡しなさい」


「グ…グム〜〜〜」


 確かに私たちが管理できるような規模の魔物ではない。それに場合によっては孵化の前、もしくはその後でも安全のために『処分』する必要がある。その非情な選択も個人では難しい。このまま王国に引き取ってもらうべきか。



「ちょっと待った!今回の調査で一番人も金も出したのは俺のギルドだぞ!探索で得たアイテムの所有権は俺たち、そう決めていたはずだ!」


「……言われてみればそうだな。もしどうしても必要なものが手に入ったら、サンシーロに金を払って売ってもらう、そういう契約だった」


 ダンジョン攻略の報酬はすでに各ギルドに支払われていて、アイテムの扱いについても事前に異論は出ていない。でも今回の卵はその例外に該当するだろうし、誰の言い分が正解なのか難しい。


 究極龍の所有権は自分たちだと言い争いが続く。話が全く先に進まず、そろそろ誰かが手を出しそうなくらい皆が熱くなっていた。




「もはや話し合いなどでは決着しない……それならもう力で決着をつけるしかないのでは?」


「ト、トーゴー!しかし……」


 トーゴーさんが間に入った。止めてくれるのかと思ったら、まさかの解決方法を提案した。


「俺たちは獣や魔物じゃないんだ。さすがにそれは」


「リングの上でルールに従って戦う、それなら話し合いよりも後腐れなく決まるでしょう。観客の前で審判を用意して戦えば、大勢の人間が証人となります」


 最初はびっくりしたけど、これはいい考えだ。正々堂々戦えばどんな結果になっても納得できる。



「それなら我々が舞台を用意しよう。場所は大闘技場、数日以内に大会を開催する」


「よし!任せた」 「それでお願いしよう」


 闘魂軍の兵士たちが当事者だから、やると決まれば話は早く進む。一週間以内に決着しそうだ。


「このまま夜になるまで続くかと思いましたよ。ありがとうございます!」


「いえいえ、私がこの場で鑑定をしたせいでこうなってしまいました。大会でも立会人を務めさせてもらうつもりですよ」


 トーゴーさんが悪いだなんて思うわけがない。卵を雑に扱って割ってしまう前に見てもらえてよかった。どこまでも頼りになる人だ。






「ただいま〜………なかなか面倒なことになったよ」


 家に帰ると、仕事を拒否したマユ、それにマキが私たちを待っていた。いつもなら勢いよく私に抱きついてくるはずのマキが、椅子に座ったままだ。


「………お疲れさま。お姉ちゃん、やっぱりわたしの睨んだ通りだったよ」


「え?なになに?何のこと?」


「スポイラー・トーゴーだよ。あいつは怪しいと思っていたけど、今日はっきりした。あいつは何かを企んでいる!」

 究極龍、登龍門、ドラゴンのゲート……。

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