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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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お守りの秘密の巻

「おおっ!これはごちそうだね……」


「当たり前だ!ジャッキーが初めて自分で金を稼いだ記念すべき日なのだから!さあ、皆で食べて飲もう!」


 宴会が始まりそうな食卓だった。私たちの初仕事を祝してのことだとお父さんは言うけど、明らかに私たちの稼いだ額よりお金がかかっているような気がする。



「さあジャッキー、今日の主役はあなたよ!中心に座りなさい。ホラ、早くどいて」


「その隣はわたしが座っちゃお〜〜〜っ」


 お母さんとマキも私たちが無事に帰ってきたことでほっとしたのか、いつもよりべたべたくっついてきた。簡単な仕事ではあっても全く危険がないとは言えず、皆を心配させた。しばらくはこんな日が続きそうだ。



「ジャッキー、それにラームちゃん。怪我がなくてほんとうによかったわ。今日はどんなことをしたの?魔物や悪い人間との戦いはなかった?」


「ラームがサンシーロさんと遊んだくらいかな。魔物は……森の中に群れがいたよ。だけど………」


 弱すぎるから魔物たちの視界に入らなかった、こんな情けないエピソードは黙っていたほうがいいと思った。でもここは正直に話すことにした。



「………というわけで、戦わずに薬草が採れたんだ」


「ぼくが弱いからジャッキー様までこんな屈辱を……申し訳ないです」


 二人揃ってこれなんだからラームのせいじゃない。ラームは私をしっかり支えてくれた。それはみんなわかっている。


「謝らなくていいよ、ラームちゃん。でももしお姉ちゃんの隣に立つ資格がないと思ったら遠慮せずに、いつでも消えてくれていいよ」


「はっ、はい………」


 マキは私と一日中いっしょにいるラームに嫉妬している。マキとの時間がなくならないように気をつけよう。



「戦わずに目的を果たせたのなら最高じゃないか。恥じることはない」


「そうよ。明日からも何事もないといいわ」


 私たちの仕事は薬草を持ってくることで、魔物の駆除は必要ない。確かにこれならこれでいい。


「ま、とりあえず明日に備えて食べるぞ!」


 しばらくは同じ依頼を受けて、慣れてきたら別のものに挑戦するよう勧められている。焦る必要はないと自分でも口にしたけど、これを続けて成長に繋がるかどうか。


(いや、続けてみないとわからない。結論を出すには早すぎる)


 今の私に必要なことを学べると信じて、お肉にかじりついた。おいしい!






「オニタを倒したジャッキー様が弱いはずがないのに……わからないなぁ」


「ラームが私を過大評価してるだけで、あれはまぐれだったってことでしょ。今からでもマキの従者になれば期待外れの心配はないよ」


「いや……妹様はその、少し怖いというか……そもそもぼくなんて相手にされないですよ」


 本気でマキのところに行けだなんて思ってはいない。ラームが見限らないなら私のほうから捨てることはない。一応確認のため聞いてみただけだ。


「それにぼくがジャッキー様についていこうと決めたのは……あっ、もうそろそろ着きますよ」


「今日も魔物は私たちをスルーだ。仕事が楽でいいんだけどね」


 指定されている薬草の種類は毎日同じだ。だから行く場所も同じで、たくさん生えているからなくなることはない。すぐに成長するらしく、採り尽くしてしまう心配もなかった。安定の仕事だ。



「誰か先客がいるね」


「はい。子どもでしょうか……いや、魔物です!」


 かなり遠くからなら人間の子どもに見えたけど、あれは人型のスライムだ。人の形になっているだけで全身緑色、擬態にもならない。


「あの種類のスライムならぼくでも勝てますけど、どうしますか?後ろからやっちゃいましょうか」


「いや、追い払うだけでいいよ。近づけばあっちが勝手に逃げていくはず」



 二人なら危険なことにはならない相手で、そばに仲間がいる気配もない。堂々と収穫に向かった。そしてスライムのすぐ背後まで来たけれど、一切反応がなかった。このスライムは薬草を集めていた。


「………無視しているというよりは誰もいないと思っているようですね」


「作業に夢中になっているにしても変だなぁ。声も聞こえないのかな?鈍すぎるでしょ……あっ」


 スライムの様子を上から覗き込もうとしたとき、私の首にかけていたお守りが落ちた。後で拾えばいいやと無視していたら、私たちの存在をわかっていないはずのスライムと目が合った。



「……うわっ!い、いつの間に!?」


「びっくりした!少し前からいたよ!もう最後まで気がつかないものだとばかり……いきなり反応されたらこっちのほうが……」



 驚きのあまりスライムは集めた薬草をぶちまけて、ラームも腰をついていた。私は辛うじて倒れずにいたけど、足元に転がるお守りを見て全てを察した。


(………マキだな………)


 このお守りはマキがくれたものだ。ただの気休めではなく、魔物避けの力を付与していたに違いない。元々が高度な魔法で、姿も音も匂いも気配も全て完璧に消す。マキの魔力なら『残り香』程度でもこの森の魔物くらいは完封できるし、私が装備しているだけでラームにも効果があるほどだ。


 ただしこの魔法には欠点がある。魔物に見つかる前に発動しないと意味がなく、大群に囲まれたから消えて脱出なんて使い方はできない。お守りの形になってもおそらく同じで、家からずっと身につけていたから効果があった。すぐに拾い直しても目の前にいるスライムはもう私たちを見失うことはないだろう。


(う〜ん、どうしようかな)


 対応を間違えると後悔するような事態になるかもしれない。私はいま、試されていた。

 今年こそ横浜DeNAベイスターズが優勝するでしょう。日本シリーズが今から楽しみです。

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