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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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サキーと道場の巻

 サキーは月に一度か二度、生徒を集めて剣術を教えている。いつも一人で行くのに、今日はなぜか私を熱心に誘ってきた。とはいえ剣を使わない私はやることがなく、道場の隅に座って見学していた。


「49、50!あと50回!」


 何人か指導者がいる中で、サキーの授業は特に人気があるそうだ。訓練は厳しくても確実に強くなれるのだから、人が集まるのは当然だ。


 剣聖になれなかった脱落者、しかも若い女が何を教えるんだと馬鹿にしていた人のほとんどはサキーの実力に驚き、考えを改めて生徒になるという。



「こんなに繁盛してるなんて驚いた……優しく丁寧に教えるって感じはしないのに」


「見込みのあるやつはしっかり教える。そいつの人生がかかっているからな」


「………」


 少し前に好奇心からサキーの剣を持たせてもらったことがある。その時サキーは私を適当に扱っていた。つまり私は鍛えても無駄だと思われている。


「お前は剣で戦う人間じゃない。世界中を探せば大聖女だけが使いこなせる特別な剣もあるかもしれないが……」


「そんな剣があったらマキのものになるね」


 マキは武器なんて持たなくても強い。もし大聖女専用の聖なる剣が存在していたらますます人間を超越した強さを得る。


 私は武器があってもなくても弱い。剣に振り回されてしまうぶん、もっと弱くなる。



(いろんなタイプの剣士がいるな)


 剣の種類も得意な攻撃も様々だ。両手剣や二刀流のような攻撃こそ最大の防御というタイプがいれば、剣に魔法の力を乗せて戦うタイプもいた。


 一人で戦うのか、集団で戦うのかもスタイルの違いに大きく関係している。盾役がいれば攻撃に専念できるし、自分しかいなければ全てを自分でやらないといけなくなる。


(本来ならサキーは……)


 剣聖としてもっと大きな戦いで実力を発揮していたはずだ。そして聖女の私を守りながら戦い、サキーが傷を負ったら私が回復させるという互いの役割があった。


 私たちは子どものころから親しく、将来は共に戦おうと誓った仲だけど、そのまま同じチームになれたかはわからない。それに他国や魔族との戦いで命を落とす剣聖も聖女も珍しくない。何が幸せに繋がるかは時間が過ぎてからわかることだ。



「サキー先生の授業が人気になったのはつい最近のことですよ。指導力は確かでしたが、どこか熱がないというか、無気力というか……」


「そうなんですか?」


「生きる喜びみたいなものが見つかったんじゃないですかね。とても輝いていますよ。今の先生は。なるほどあなたが………」


 話を聞いてみると、私とチームを結成したあたりからサキーは変わったそうだ。今日私を連れてきたことでその理由がわかったと言ってくる人たちがいた。




「よし、次は私と手合わせだ。そうだな……三人一組でかかってこい」


 誰も文句は言わない。サキーとの実力差はそのくらい離れていると誰もが認めている。


「ただ戦うだけではそれでも差がある……よし、ルールを決めよう。ジャッキー、来てくれ」


「………え?あ、うん」


 だんだん飽きてきて半分寝ていたのがバレたのか、サキーに呼び出された。叱られるかと思いきや、サキーは何も言わず私の前に立ち、背を向けた。まるで壁だ。



「私に攻撃を当てられる前にこいつに触ればお前らの勝ちだ。三人いるのだからうまく動いてみせろ」


「……それでいいのですか?」


「ああ。こいつはここから逃げない。人質を取り返す、魔物から宝を奪う……目指すのが王国の兵士でも冒険者でも、これはいい訓練になる」


 それぞれ練習用の剣を持ち、戦いが始まる。三人で一気に襲いかかってくるチーム、時間差で攻めるチーム、サキーへの攻撃と私を狙う役をしっかり決めておくチーム……チームの数だけ作戦があった。



「てやっ!」 「せいっ!」


 しかしどんな策もサキーには通用せず、次々と敗れ去っていった。とにかく動きが鋭く、人間離れしている。


「ジャッキーには!」


「うげっ!」


「お前らなんかの指一本も!」


「ぎゃっ!」


「触れさせないっ!」


「ぐっ………」


 華麗で流れるような剣技に加え、足払いなどの攻撃も隙が一切ない。もしかしたら私に触ることができるかもと思った瞬間すらなく、サキーの強さを見せつけるだけの時間だった。



(これがやりたかったからなのかな………)


 私たちは剣聖でも聖女でもない。だけどやることは変わらない、サキーは「私はいつでもどこでもお前を守る」と改めて宣言したのだと受け取った。


「それなら私ももっと頼らせてもらうよ」


「………ああ。そうしろ。これからずっとな」


 安心させてくれる後ろ姿、そして完勝。サキーから離れない限り、私は何も恐れなくていい。






「ふ―――っ………つい熱が入ったな」


 生徒たちが帰ってから、サキーは水を浴びて汗を流す。何もしていないのに道場の熱気で汗をかいていた私もいっしょに身体を洗っていた。


「気迫がすごかったね。相手を寄せつけなかった」


「……そうだな。お前を守るという思いが強すぎた。しかしこれを抑えろというのは無理な相談だ」


 サキーの言葉に嘘はない、それはわかっている。でも私には追及したいことがあった。



「私を守る……?おかしいな。ダブジェ島の温泉でみんなに襲われた時、誰も助けてくれなかったような……」


「うっ!そ、それは………」


「助けるどころかいっしょになって……どこの誰だったかな?」


 サキーが小さくなった。私も本気で怒っているわけではないけど、しっかり反省してもらう。



「その……あの時は………」


「周りに流されちゃ駄目だよ。まあ他のみんなよりは控えめだったとはいえ……ね」


 些細なことでも「破廉恥だ」と顔を赤くするサキーだ。大胆な行動はできなかったのだろう。手つきも恐る恐るという感じだった。


「まあ次はちゃんと止めてもらうとして……ちょっとだけお仕置きだね。これでなかったことにしよう」


「お、お仕置きだと………はっ!」


 油断しているところを不意打ちすれは私でもサキーの速さに勝てる。ほんのちょっぴりからかうつもりで腰のあたりをなでてみた。


 ところがこれが大事件になった。軽率だった。



「ひうっ!!」


「!?」


 サキーは信じられないほど敏感だった。震えながら涙目になってその場から動けなくなってしまった。



「………えっと………ごめん」


「……………」


 この間のゴキブリにびっくりした時もそうだったけど、普段は凛々しいのにたまにかわいいところを見せてくれるのがいい……なんて考えている場合じゃなかった。




「………予定変更だ」


「へ?何の?」


 まだ呼吸が乱れているサキーは妖艶に笑っていた。 



「ルリ・タイガーの魔法が完成したら、お前に私との子どもを産んでもらうつもりでいた。しかし………私が身籠り、産むことにする。もうこの気持ちは揺らがない」


「あ……え?」


「その時だけはお前に守ってもらう。頼んだぞ」


 すでに全てが決定事項であるかのように語る。私がまずいことになったのもすでに決まりだ。

 ジャッキーは自分から攻めに回るタイプではありません。しかし適性が全くないというわけでもないようです。



 今回のオリンピックのいろんな出来事はDDTがネタにすると思います。そもそもプロレスほど疑惑の判定ばかりな競技はありません。


 ↑を書いたのは昨日だったのですが、早速今日発売の東スポに、DDTは疑惑のルーレットをすでに去年先取りしていたという記事がありました。詳しくは東スポで確認してください。

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