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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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ラームとデートの巻

 ダブジェ島ではたくさんおいしいものを食べて、飽きるまで温泉に入った。英気を養って無事に帰り、また頑張ろうという気持ちに満ちていた。



「え?依頼が何もない?」


「ああ。簡単な仕事しかなかったから爺さんどもにやっちまった。金には困ってないんだろ?また明日来てくれ」


 最近はずっと忙しかったギルドが今日は暇な一日だった。私がやる気を出すとこうなるのはよくあることだけど、ちょうどよかったかもしれない。


 今日はサキーが新しい剣を受け取りにいくため不在、マユは里帰りしている。だから私とラームしかいなかった。



「マキは溜まっていた大聖女の仕事があるし、ルリさんも魔法の実験に行った……みんないない日っていうのもなかなかないね」


「………いい機会です。ぼくとデートしませんか?」


「え?」


 珍しいことは続くもので、ラームとのデートが始まった。





「最初はぼくとジャッキー様だけでしたからね。すぐにマユとサキーさんが加わりましたが」


「言われてみればそうだったね」


 二人で薬草を集めていたのが懐かしい。そんなに前の話でもないけど、いろんなことがあったからかなり昔のように思えた。


「賑やかなのも楽しいですけど、こうしてジャッキー様と二人きり……格別ですね」


 歩き方から喜びが感じ取れた。ずっと私のために働いてくれているし、今日はラームのための日にしよう。




 私たちが来たのはギルドのすぐ近くにある湖だ。誰もいないとても静かな場所で、私と二人でいることを望むラームにとって最高の条件だ。


「魚がたくさんいますね。でもそこのは不味いやつか……」


「わざわざそんなの食べなくても、おいしいものはたくさんあるよ」


「奴隷として売られるために待機していた日々や、それが嫌で逃げていた時には考えられなかったことです。食べる物を選べるなんて」


 かつてのラームのように、生きるために最低限の食事で命を繋いでいる子どもたちがいる。それすらできない不幸な話もなくならない。


 ただ、マキが大聖女として活動を始めたあたりから明らかに減っている。特別なことをしなくても世の中が良くなっていくのだから、大聖女の力は底が知れない。



「こうして魚や鳥を見てるだけでも楽しいと思えるくらいに余裕のある毎日……ジャッキー様がぼくを受け入れてくれなかったらありえないことでした」


「いやいや、素晴らしいのはラームの行動力だよ。あの論外だった商人から逃げて、私たちの馬車に乗って……とても度胸があるよ」


「何を言っているんですか!普通の貴族だったらこんな汚い子ども、追い返して終わりです。ジャッキー様の優しさがあったから……」


 互いに褒め合いになった。とにかく相手に甘すぎる私たちだけど、罵り合うよりずっといい。



「しかしこの湖、こんなにいいところなのに誰も住んでいないし店もありませんね。でも人が集まったら騒がしくなって汚れも出始めて、いいところではなくなっちゃいますね」


「このままでいいのかもね。人間が来ないようにする力が働いている土地もあるって聞くけど」


 ゴキブリとハエの楽園はカササさんとブーンさんが身を守るために魔法を使って入口を認識できないようにしていた。ただし稀に住人ではなく土地そのものが人を遠ざける力を放ち、誰も住み着かないようにしている。遊びに来る気にはなっても、ここに住もうとは思わせない不思議な何かがある。



「ジャッキー様なら土地のほうから歓迎してくれる気がしますけどね。ぜひ来てほしいと」


「どうかなあ……あだっ!?」


 さっきまでなかったはずの大きな石に足をぶつけた。バランスを崩した私はそのまま………。


「うべぇっ!!」


 真っ逆さまに湖に転落、頭まで全部入った。すぐに陸に上がったけど全身ずぶ濡れだ。これがこの土地からの答えで、お前を歓迎なんかするはずないという強烈なメッセージだった。



「ジャッキー様!大丈夫ですか!?」


「やっちゃった………どうしようかな。このまま家まで歩くのはしんどいし………」


 人が来ないことを信じて裸になるしかない。服を脱いで水を絞り、しばらく乾かすことにした。


「……ジャッキー様だけにそんな格好をさせるわけにはいきません!ぼくも脱ぎます!」


「………え?いや、なんで?」


「二人なら恥ずかしくありません!それにこれなら泳いで遊べます!せっかく湖に来たんですから!」


 知らない人が来たとしてもラームは小さくなって隠れられるし、私も低級の魔法で対処できる。服が乾くまで目一杯遊ぼう。


「そーれ!」 「飛び込め―――っ!」




 結局私たち以外には誰もいないまま時間は流れていった。水中の生き物と触れ合ったり泳ぎの速さを競ったりしながら楽しんでいると、ラームが私に抱きついてきた。私たちはまだ湖の中で、何も着ていない。


「……どうしたの?急に」


「いえ……幸せだな、そう思っただけです。ぼくは両親の顔どころか自分が何者かもわかりません。この小さくなる能力、これが魔法やスキルなのか、ぼくが実は人間ではない別の何かだから使えるのか……」


 特殊な力を持つ人間か、人間そっくりな魔物か………ラームの正体はあえて調べないことにしていた。ラームはラーム、それ以上もそれ以下もない。


「でも、そんなぼくがこうして素晴らしい人と出会い、すぐそばにいられる……命のある限り、ずっとジャッキー様の隣で仕え続けます」



 いろんな感情が詰め込まれた表情、声、言葉。ラームを抱き寄せて、頭をなでずにはいられなかった。


「………!」


「そう、私たちはずっと家族だよ!私はラームのお母さんでもありお姉さんでもある。だからいくらでも甘えていいんだからね」


「ジャッキー様……ありがとうございます」


 家族として共に笑い、共に泣く。震えながら私の胸に顔を埋めるラームをこれからも守っていくと誓った。




(………ジャッキー様の二つの膨らみはやっぱりすごい!もし天国があるとしてもこれより上はない!)


 この時ラームが何を思っていたのか、心を覗く力のない私には当然わからない。ところが私の心の中はなぜかラームにバレていたらしく、


(ぼくたちは家族……それなら夫婦という形もある!絶対にこの人の子どもを産んでみせる!裸のぼくに抱きつかれた瞬間のジャッキー様の反応……陥落させるチャンスは十分にある!)



 守ると誓った大切な存在を自分で襲うことがないように、自制心を鍛えていこう。

 ジャッキーはラームも余裕でストライクゾーンです。しかし今のところどうにか我慢しています。



 この夏は沼津の新名所『キン肉マンミュージアム』で盛り上がりましょう。スクールアイドルが沼津の顔だった時代は終わり、アイドル超人たちがこれから町おこしをしてくれます。

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