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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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ツミオの決意の巻

「世間にどう思われているか、どれだけ金があるか……そればっかり考えていると全てを失うってのは真実だったな」


 マシガナさんに怒鳴られてからずっと沈黙していたツミオさんがぽつりと呟いた。今までとはどこか違う雰囲気で、私たちの胴上げも中断となった。


「俺がマシガナのオヤジとザ・グレーテストを設立したのは知っての通り、ゲンキ・アントニオを見返すためだった。あいつの下を離れても成功できる、それまで以上に稼げる人間になれると証明したかった」


 王様と仲が悪くなって闘魂軍を去っていった実力者たちは多い。そのほとんどがツミオさんのように独立して、同じように苦境に追い込まれていた。



「使える金は減ったのに自分を大きく見せようとした。だからこの島の一等地にギルドを建て、豪華なパーティーも開いた。あっという間に資金が飛んだよ」


「我々に配った土産物だけでかなりの出費だっただろう。貰っておいて言うのも悪いが、見栄を張りすぎたな。王国の組織と民間のギルドでは資金力が全く違う」


 私もお父さんが持って帰ってきた果物とかをおいしく食べたし、あまり批判はできない。


「……しかしそれくらいならすぐに回収できると思っていた。俺やエンスケたちならどんな難易度の高い依頼でもすぐにクリアできる、貴族どもが俺たちの後援者になってくれると疑っていなかった」


 ギルドが本格的に活動を開始した後の悲劇はマシガナさんからすでに聞いている。思ったように任務が成功せず、評判が落ちてどんどん仕事が減ってしまったと。



「俺たちはど真ん中を歩けるような力も、目ん玉飛び出るような勢いもない連中の集まりだった。ピークを過ぎたとわかってはいたが、最後の革命を起こすくらいはできると信じていた」


 ツミオさんが言う『革命』が具体的にはどんなことなのか、私にはわからない。でも何を目指していたとしても、うまくいかなかったのは確かだ。


「今日はっきり思い知らされた。盛り上がったのは若手同士の前座と外から来たトーゴーの試合だけ、圧倒的に格上だった大聖女を負けさせる展開にしたせいで不自然な内容になった俺の試合は大失敗……俺とマシガナのオヤジが描いた夢はここで潰えた」


 マキと戦えば誰でもそうなる。ツミオさんが全盛期だとしてもマキには勝てない。調子や衰えなんて話とは別の領域にいるのだから、これで自信喪失ということになったら気の毒だ。


 ところがツミオさんの表情は穏やかで、悲しみや苦しみはまるで感じられない。しかも諦めとは無縁の確かな炎、マグマがその瞳には宿っていた。



「……この土地はできるだけ高く売る。待遇に不満のあるやつは自由にさせる。これで借金はひとまずどうにかなるだろう」


「ツミオさん!まさか………」


「勘違いするな。ザ・グレーテストはここからだ。どれだけ小さく、狭くなろうが俺がいる限りザ・グレーテストは死なない!理想には程遠いが、ここで終わったら本物の負け犬だ」


 ザ・グレーテストの崩壊は免れた。マユやルリさんが提案した、規模を縮小して生き延びる方向になりそうだ。一発逆転を狙ったイベントが不発だったことで皆が納得してその道を選べるのなら、この大会も無駄ではなかった。



「実は稼げる仕事の話も来ている。断るつもりだったから黙っていたが、受けることにした。王国から……つまりゲンキからの依頼だった」


「国王様からの!?」


「あんな別れ方をした俺を許すんだからゲンキはやはり大した野郎だ。だが俺のほうが今さらあいつに頭を下げる気になれず保留していた……」


 王国直々の依頼となれば報酬も期待できる。ザ・グレーテストに逆転の道は十分残されていた。



「どうして今になって心変わりを?」


「人からの評判やプライドよりも守るべき大切なものがあると教えられたからな。そこの……ジャクリーン・ビューティにだよ」


 いきなり名前を出されたからびっくりした。完全に油断していた。


「俺を頼ってここに来てくれた若いやつらも二代目も、運命を共にする俺の家族同然だ。家族のためなら危険で稼ぎの悪い仕事だって何でもやってやるさ!」


 ツミオさんが力強く話を締めた。この決意が揺らがない限りザ・グレーテストは安泰で、いずれはダブジェ島を代表する冒険者ギルドに成長するかもしれない。




「冒険者らしくないこと……例えば街の掃除とか孤児院への訪問なんかで島の人たちに名前を知ってもらうというのは……」


「なるほど……遠回りに見えるが、これから長く続けていく気ならそうやって地盤を固めるべきだな。ジャクリーン、お前に出会ったおかげで俺たちは命拾いしそうだよ」


「小さな努力からコツコツと、ですね!」


 みんなの意見と比べて悠長すぎるかなと思ったけど、ザ・グレーテストの人たち全員が同意してくれた。


「最初からジャッキーに聞いて、全てその通りにすればよかったな。さすがは真の救世主だ」


「そうそう、やっぱりお姉ちゃんが一番だね!」


 称賛の言葉をたくさんもらった。でも今の私は嬉しさよりもほっとしている気持ちのほうが大きい。しょっぱい試合をして大会を失敗させたことが帳消しとまではいかなくても、だいぶ取り返せた。



「………素晴らしい!美しいものを見ることができて、

とても感動しています!」


「トーゴーさん!」


「ビューティ家の家族愛、ザ・グレーテストの復活……どんな魔法や奇跡の力よりも美しく見事でした!私はこれで失礼しますが、また会える時を楽しみにしていますよ!」


 夜遅くの船で帰るようで、トーゴーさんは去っていった。今回はたくさん話ができて、戦いのコツも教えてもらえたから大満足だ。早いうちにまた会いたい。


「………」 「………」 「………」






(……まさかあれほどまでとは………ジャクリーン・ビューティがもたらす光は………)


「だがそのほうがやりがいがある。光が眩しければ眩しいほど、闇に堕ちた時の喜びが増す。白が黒に染まる瞬間こそ『真の美』!今から待ち遠しいぞっ!」

『プロレスの神様、仏様よ……もしいるなら答えてくれ!男の夢を追うってのはそんなにいけねえことだったのか?』


『いや、もう答えは必要ないだろう。あばよ、長州力………』


 これで終わりではあまりに希望がないので、この世界のザ・グレーテストはまだ活動を続けます。今後のストーリーにも絡んでくることでしょう。

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