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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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巨大な力に勝つ家族の巻

 ザ・グレーテストが主催するイベントは終わった。入場料の収入はたくさんあるから一応成功と言える。


「いや……長い目で見たら駄目でしょう。ひとまずお金は手に入りましたが、信頼を勝ち取って今後の発展に繋げるという目的は果たせなかったわけで……」


「……そうだよね」


 金返せと叫んでいた人たちがこれからこのギルドに仕事の依頼をするとは考えにくい。逆に評判を下げてしまい、立て直しは苦しくなった。


 入場料で稼いだとはいっても場所代や経費、その他いろいろを考えると、ギルドの運営が安定するほどは残らないだろう。



「……私が大会の提案をしなければ……すみません」


「いえ、トーゴーさんには感謝しかありません。もっと多くの点をあなたに任せるべきでした」


 マシガナさんは落胆を隠せずにいる。それでも座り込むようなことはせず、やるべきことをしっかりこなしていた。



「大聖女様、それにジャクリーンさんとサキーさんも。旅行中なのに試合に出ていただいてありがとうございました。これ、少ないですけど……」


 一人につき金貨7枚。マキとサキーはともかく、私に対する報酬としては高すぎる。それに今のザ・グレーテストはこの出費もかなりの痛手になるはずだ。


「いや、それをもらったら………」


「受け取ってください。皆さんがいらないと言っても、どこかの誰かが「あのギルドは試合に出た選手に金を払わない」と噂を流しますから」


 私だけでも辞退しようと思ったけど、それならいただくしかないか。これ以上評判が落ちたらいよいよ望みはなくなる。



「私とマキがもっとうまくやれていれば……」


「いいえ、悪いのはこっちのベテランたちです。とっくに全盛期の力はないくせに真剣さが足りない……あの方々に過度な期待をした私が一番愚かでした」


 そこまではっきり言ってしまうか。大粛清と呼べる追放劇をやりそうな気配だ。今のマシガナさんは何をするかわからない。




「おお二代目!今日の俺の報酬は?」


「…………!!」


 最悪のタイミングでツミオさんがやってきた。その時、聞こえるはずのない『プツン』という音がマシガナさんから発せられた。完全に切れた。



「こ……このバカッ!あんたの金なんて一番最後に決まってるだろ、ボケ!」


「ボ……ボケ!?」


「ゲストに渡す金もないのをわかってんのかよ!どこまでおめでたい人間なんだ!クソバカがっ!」


 木製のテーブルを叩き割って激怒した。ツミオさんの能天気な様子に我慢の限界を超えたようだ。これは怒られても仕方ないなと思った。



 ところが実は私たちが知らない事情があった。ツミオさんは自分の貯めていたお金をこのギルドのために惜しまず投入、若い冒険者の衣食住を揃えてあげたりしていた。闘魂軍での栄光の日々に稼いだ大金はほとんどなくなってしまっていた。


 マシガナさんも自分の父親からそのことを聞いている。それでも感情に任せて怒鳴った。お金というのは恐ろしいもので、友情や愛情、信頼を簡単に壊す。




「その点ビューティ家は心配ありませんね。妹様がいる限り王国から無限に支援が受けられるのですから」


「いや……そうでもないようですよ」


 不穏なことを口にしたのはまさかのトーゴーさんだった。いつもの優しさが消えている。


「皇太子……つまり第一王子のマッチョ・アントニオと大聖女マキナ・ビューティの婚約破棄はもはや時間の問題だというのをまさか知らないのですか?」


 大聖女の力は異次元すぎて自分たちが利用できるものではないと王様たちも気がついたようだ。ただ、理由は他にもあった。



「バーバ、モトゥコ夫妻による王家への挑発の嵐、ただの喧嘩となった決勝戦を止めに入ったマッチョ王子への姉妹揃っての暴行、とどめはパーティーを無断欠席して王様に恥をかかせた。関係の悪化は必然でしょう」


「た、確かに全て事実ではある……」


「しかし私が聞いた話では、大聖女様が考えを改めマッチョ王子を心から愛するならば、これまで通りの仲でいられると……さすが王様は寛大ですね」


 王国と大聖女が険悪なのはまずい。他国や魔族に攻め込まれる隙を与えてしまう。国民と家族を守るためにマキが犠牲になれば丸く収まる………なんていうのは断固拒否だ。


 

「……………」


「そんな顔しなくていいって。お金も王族との関係も、もっと言うなら王国の平和も……マキが幸せでいることに比べたらゴミだよ。私が大事にしているものは何か……わかってるでしょ?」


 皆を幸せにする大聖女が不幸だったら、世界の平和も長くは続かないだろう。闘技大会の決勝戦で初めての姉妹喧嘩を終えたあと、これまで話題にしなかったこともじっくり話した。大聖女らしくではなく、マキの好きな生き方をするべきだと思った。



「お姉ちゃんっ!ありがとう!」


 笑顔のマキが勢いよく飛びついてきた。私もしっかり受け止めて、抱きしめてあげた。


「あはは、お礼を言うなら私のほうだよ。マキ……それにお父さんとお母さんがお金や名声を気にする人だったら私が真っ先に家を追い出されているんだから」


 ビューティ家の家族の絆はとても強く、王様から脅されたくらいで揺らぐことはない。ほんとうに大切なものを見失わなければどんな状況になってもいい人生だと言えるはずだ。



「美しいぞ!さすが我が娘たち!みんな、二人を胴上げだ!」


「ジャクリーンばんざい!マキナばんざい!」


 感動したお父さんが私たちを祝福する。ザ・グレーテストが揉めているのに親馬鹿子馬鹿を見せつけて、怒られないかと怖くなった。


「…………」


 ところがこの光景に、意外な人が心を動かされていた。

 かの有名なWJ1周年大会でのネタが今回の話の元になっています。


「オヤジ!オレの今日のギャラは?」


「な………なんだッ!!お前のギャラなんて一番最後に決まってるだろうが!!」「よその選手に払うカネもないのをわかってんのかッ!!」


 この後に『後楽園ホール監禁事件』が発生します。ゴマシオは選手や裏方から金をかき集め、どうにか使用料を支払ったのでした。


『旗揚げ1周年のこの日がWJの事実上の「終戦記念日」となった……』

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