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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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初めての仕事の巻

「まーそういうことだ。お前の親父からの推薦でこのギルドの一員になってもらったが、特別扱いはここまでだ。和を乱すような行動や契約違反は即クビ、わかったな?」


「はい」


「あとは依頼を受けたのに失敗続き、成功率が低いと厳しい立場になることも忘れるな」


 これは当然だ。ルールに従い確実に仕事を完遂する、どこで働くとしても基本中の基本だ。

 


「……推薦とか特別扱いとか言ってますけど、ここなら普通に入れたんじゃないですか?人がいないし年寄りばっかりの寂れ放題なギルド………」


「こらっ、ラーム!聞こえちゃうでしょ」


 悪口や陰口は小声でもなぜか聞き取れてしまう。サンシーロさんの目つきが変わり、机を殴って立ち上がった。



「おい小娘!この大ギルドマスターに対し無礼な発言、寿命を縮めることになると思え!」


「あっ!!」


 ラームの顔を両手で掴んで自分の体だけ後ろ向きになると、そのままジャンプしたサンシーロさん。着地のときにサンシーロさんの肩でラームの顎を砕く危険な技だ。


「くらえ――――――っ!!」


「くらわないっ!」

 

 寸前でラームの小さくなる能力の発動が間に合った。完全に固定されていた形から抜け出した。



「えっ!?うおあっ!!」


 一方で落下中にバランスを崩したサンシーロさんは着地に失敗、床の木が腐りかけていたところにお尻から落ちた。その衝撃で大きな穴ができてしまった。


「くそ〜〜〜………俺の歓迎の一撃をこんな方法で回避したのはお前が初めてだ。だが気に入った!見事!」


(こんなことしてるから建物はボロボロで誰も寄りつかないんじゃないの?)


 本人が満足そうだから指摘はしない。不意打ちを凌いだラームにとってもいい練習だったと考えよう。




「じゃあ早速依頼を受けてもらおうか。まだ半人前のお前らだ、まずは一人分の仕事を二人でやってこい」


 この先も私たちは二人でチームを組んで行動する。二人での戦い方を早めに覚えておきたい。


「……薬草を採ってくる………これでいいですか?」


「ああ。薬師が回復薬の材料を欲しがってる。忙しくて手が回らないから俺たちに任せてるだけで危険なことはない。要するに雑用だな」


 最初だからこれくらいがちょうどいい。それでもお金を貰う以上、どんな内容でも責任を持って仕事に励むつもりだ。



「地図と目当ての薬草の見本はそっちにある。迷うことはないだろうが間違った草を持ってくるなよ」


「目的地の直前にあるこの☓印は?」


「そこか。魔物の巣があるから気をつけろ。とはいえ臆病で弱い連中だから普通は襲ってこない。遠くから見てくるが警戒しているだけだ、無視していい」


 私たちから仕掛けなければ戦闘にはならないそうだ。ただし魔物たちが「こいつらなら勝てる」と判断した場合は例外で、攻撃してきたらきっちり返り討ちにする必要がある。



「お前たちの弱さを見抜いて襲ってくることもありえる。ま、あの森の魔物に負けるようなら勝てる相手なんかどこにもいない。冒険者引退だな」


「その心配は無用です。ぼくはあなたの奇襲を華麗に回避、そしてこのジャッキー様は私を遥かに凌ぐ力の持ち主!SS級の称号を得るのはこの方以外にいません!」


「はっはっは!そうなってくれりゃあ嬉しいけどな!」


 王国で唯一のSS級冒険者が所属するギルドなら、必ず人が殺到して賑やかになる。これ以上ない恩返しの形だけどまだまだ遠い先の話、今は目の前の仕事に集中だ。魔物が襲ってくるとしてもこないとしても、大事な初陣を飾れるように気合いを入れた。





「さっきの攻撃、私がやられてたら抜けられなかった。接近戦は自信があったけどラームのほうが強いかもね」


「そんなことありませんよ。意外と技が甘かったのでジャッキー様なら特別なことをしなくても脱出できたでしょう」


 一人でギルドのあれもこれもやっていたら体力や戦闘力が落ちるのも仕方がない。そんな状態で激しい戦いに巻き込まれたらとても危険だ。私たちが結果を出せばサンシーロさんも安心して事務仕事に専念できるだろうから、お父さんの親友を救うことに繋がる。


「よしっ!みんなのために私はやるぞ!ところでラーム、そろそろ魔物の巣が近づいてきたかな」


「ジャッキー様を襲おうなんて命知らずはいませんよ。本能で察しますって、強者が来たと」



 ここまでは何事もなく歩いてきたけど、いよいよ本番だ。きっと私は弱いやつだと思われるはずだ。いつ戦闘が始まってもいいように身構えながら道を進んだ。ところが、


「ほら、あそこに群れがいるのに一匹も襲ってきません。ジャッキー様の強さに気がついています」


「………そうだね。でも臆病で警戒心があるから様子を見てくるとサンシーロさんは予告していた。なのに魔物たちはこっちをちっとも見ずに普段通りの生活って感じだ」


「ジャッキー様が強すぎて目を合わせることすら危険だと思っているのでしょう。あの弱小ギルドのことですから、ジャッキー様ほどの強者がいなかったのでこんなパターンは未経験というわけです」


 ラームにおだてられて私もその気になった。そして薬草を集めてギルドに戻ると、まさかの事実が告げられた。




「あ〜〜〜………そうか。魔物たちは襲ってこなかった、しかも視線も向けなかったと………」


「そうです。これが意味することは……」


「お前たち二人、あまりにも弱すぎて認識すらされなかったってことだ。何年も受けてる依頼だ、最低限のレベルすら下回ると何も起きないのは確認済みなんだよ」


「ありゃっ!?」 「うへっ!」


 二人揃ってその場に崩れ落ちた。戦ってもいないのにダメージを受けて家に帰った。

 大社長、社長じゃなくなっちゃいました。

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