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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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下手な芝居の巻

『勝ったのはエンスケとカツ!ザ・グレーテストが誇るパワーファイターが大聖女の姉を見事に沈めました!』


 エンスケの必殺技で決着した。あんな弱い攻撃のダメージはほとんどないけど、敗者が元気よく歩いて帰るのはまずい。サキーとラームに支えられながらリングを去った。



「シャ――――――!!」


『豪快な雄叫び!見事な勝利でした!』


 熱戦を制したような咆哮。しかし観客たちは冷静で、


「あんなので決まっちまうのか。しょっぱい試合だな」


「レベルが低かったな。メインに期待しよう」


 説得力のない終わり方に不満の声が聞こえてくる。真剣勝負ならあんなので倒れたりしない。寒い空気を変えることはできなかった。




「参ったな………失敗したよ」


「ジャッキーさんはちゃんと仕事をしました!あのクズが試合を壊したせいで変な展開になったんです。もう一人は弱いし……心底どうしようもない連中ですよ!」


 マユは試合前より怒っていた。でもお父さんたちはそうではなく、私を負け役にした試合が低調に終わったことに笑顔すら見せている。


「やはりジャクリーン様が敗れるという設定に無理があったのでは?その時点で不自然な展開になるのは明らかでした」


「……だったら次はもっと変なことに………」


「………」 「………」 「………ですよね」


 ついにメインイベントの時間が来た。一番熱狂するはずの試合が私たちは一番不安だった。




『お待たせしました!いよいよ今日最後の試合、最高にマグマな時です!ザ・グレーテスト最強の男と大聖女の戦いが始まりますっ!』


「ツ・ミ・オ!ツ・ミ・オ!ツ・ミ・オッ!!」


 ギルドの評判は落ちていてもツミオさんの人気は健在のようだ。この人もかつて王国の闘技大会で優勝していて、知名度は抜群だ。


『リングでの戦いは約一年ぶり、しかも相手は今年の闘技大会優勝者にして数百年に一人現れる大聖女!革命を起こせるか、ツミオ!』


 

 このまま試合が終わるまでずっとツミオさんへの歓声が鳴り響くのではないかと思われたところで、場内の雰囲気が明らかに変わった。真の主役が登場したからだ。


『さあ、ゆっくりと歩いてきます!この国どころか世界の宝、救い主である大聖女!マキナ・ビューティがダブジェ島初上陸!』


「マキナ様―――っ!」 「大聖女様!」


 何回か遊びに来ているから初上陸じゃないのは内緒だ。わざわざ指摘する話でもないし、黙っていよう。それに今はもっと気になることがある。



「マキナ様!マキナ様!」 「最も清く聖なる方!」


「……………」


 マキへの声援の大きさがツミオさんを上回っている。皆が誰を目的にこの闘技場に足を運んだのか明らかになってしまった。


「まずいですね。ツミオさんはこの瞬間まで自分が主役だと疑っていなかった。ふてくされてやる気を失わなければよいのですが」 


 裏ではツミオさんの精神状態を心配する声が出始めていた。確かにそれも気がかりだけど、深刻な別の問題がある。



「………ツミオさんが勝った瞬間、どんな空気になるのか怖いですね」


「多くの観客が大聖女様の勝利を望んでいるのですから……それに実力差は歴然としています」


 マキとツミオさんが戦ってツミオさんが勝つのは無理があるだろうと誰もが思ったけど、何も言えなかった。ツミオさんの闘技大会優勝はかなり昔のことで、すでに心身のピークは過ぎている。


「しかしよく大聖女様が負け役を引き受けましたね」


「私からもマキにお願いしたからね。それにマキはこのイベントの成功やザ・グレーテストの未来に少しも興味がない。きっと面白がって………」


 大聖女の特別な力によって、マキには最初から失敗の未来が見えていたのかもしれない。それなら本人たちの好きなようにやらせて、言い訳や責任転嫁のしようがない『納得の敗北』を味わってもらうのもあり………いや、どうなんだろう。




「動きが鈍いな……ツミオはやっぱロートルだったということか?キレがない」


「大聖女様もまるで攻めないな。様子見か?」


 私たちの嫌な予感は見事に的中した。ツミオさんはとにかくスピードがない。マキはたまに身体強化の魔法を使ったりしているけど、それが試合を動かすこともない。まあマキが本気でやったら瞬殺だし、ぎこちない動きになるのも仕方ない。


 だけどそれにしてももっとうまいやり方があるだろうと思う。台本にも自然な形で接戦を演じるように指示があった。なのにあの露骨な無気力試合は何なのか。



(あっ!!ま、まさかっ!!原因は私!?)


 私がいいところなしで負ける台本にチーム・ジャッキーは不快感を露わにした。その中で私への愛が最も深く、重いのはマキだ。誰よりも憤慨しているに決まっていて、裁きを与える機会を探していたのだとしたら………。


(………逃げたくなってきた)


 こっそり姿を消そうとしても時すでに遅し、まだ数分なのに試合はクライマックスを迎えた。ツミオさんはスタミナもなかった。



「ハァ、ハァ………ウオ――――――ッ!!」


『ここでツミオの超必殺技が炸裂っ!弟子エンスケと同じように、鍛え抜かれた腕を大聖女マキナの喉元に叩きつけたっ!!』


 マキは途中で防御力を高める魔法を使っていたから、こんな攻撃はちっとも効いていない。それでも大ダメージを受けたかのように倒れ、決着というのが事前の決まりだ。マキはどうするのか。




「うわ〜〜〜。や、ら、れ、た〜〜〜っ」


 攻撃を食らって数秒してから、わざとらしくその場に崩れ落ちた。ノーダメージだけど試合を終わらせないといけないから倒れました、見ている人たちにそう伝えているかのようだった。



『だ、大聖女が倒れたっ!審判が確認するが……あっ、止めた止めた!続行不可能!勝ったのはツミオ!ハンマーよりも強い右腕が革命を起こしましたっ!』


「………」


 勝者が勝ち名乗りを受けている間にマキはさっさとリングを下りて私たちのところへ戻ってきた。ツミオさんは激闘を制したように振る舞っていたけど、当然観客は納得しなかった。



「なんだこの試合!短いくせに見せ場もない!」


「大聖女がそんな弱いわけねーだろ!偽者か!?」


 無茶な台本とマキの下手な演技のせいで大荒れだ。



「金返せ!」 「金返せ!」 「金返せ!」


 暴動が起きる前に皆で安全な場所まで逃げた。結局よかったのは最初の二試合だけであとはしりすぼみ、最後は観客の怒りのマグマによって火山が噴火した。

 旗揚げ戦のメインが8分未満、全ての試合が地味で短い……「今日よその団体を見に行ったヤツはアホだな!」


 インディーなのに目茶苦茶な経営、営業能力ゼロ、それでいて試合内容で盛り上げることもできないのでは地獄へ一直線もやむなしでした。


『当然客入りは低迷、評判も最悪!』

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