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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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冷え始めるマグマの巻

「どうした?急に迫力がなくなったな」


「もっとやる気出せ!つまんねーぞ!」


 第3試合と第4試合はザ・グレーテストのベテラン冒険者たちによる試合だった。実績のある人たちの戦いだからハイレベルになるだろうと予想されていたのに、動きの鈍い凡戦が続いた。


「リングの戦いは久々だからな……難しかった」


「練習時間が足りなかったよなぁ」


 手を抜いていたわけではないはず。それでも若手同士の第1試合、トーゴーさんが皆を魅了した第2試合に比べたら物足りないの一言だ。



「次ですよ……どうなっちゃうんでしょうね」


「まさか生きていたとはね……」


 台本でその名前を見て私とラームは自分の目を疑った。こんなところで再会することになるなんて。


『第5試合は特別ルール!ロープに触れると爆破される危険な戦い!ザ・グレーテストの『コシロウ』が、乱暴な魔物オニタと一騎打ちです!』


「いくぜオラ――――――!!」


 邪道オニタが登場だ。私がとどめを刺さずに、剣士エンスケに手柄を譲ったはずだった。



「なぜ邪道がここに……いや、エンスケがいるのだから不思議でもないか」


 エンスケはザ・グレーテストの一員になっていた。闘魂軍入りが確実だったのに、ツミオさんに誘われたことでこっちを選んだ。


 あえてオニタの命は取らず、役に立つ時に使おうとしたのかもしれない。もしくは殺したはずが不死身の生命力で生きていたということもありえる。



 相変わらず熱い戦いを求めているようで、特殊なロープを使う試合が用意された。触れた瞬間に爆発が襲うのだから、逃げ場がない。


「うおりゃ――――――っ!!」


『オニタが突進!しかしコシロウ回避!勢い余ったオニタはそのままロープに―――っ!?』


 少しも被弾を恐れないオニタは爆破ロープに自ら突っ込んでいった。これも台本通りと言われたらそれまでだけど、命知らずでないとこんな無茶はできない。



(よし、ここで爆破……ん?)


 ところがオニタの狂気を空回りさせる事件が起きた。ロープに触れたのに爆発せず、数秒遅れてから大きな音が起きてリングは光に覆われた。


『爆破ロープ最初の犠牲者はオニタのほうだ――――――っ!邪道なルールを提案した本人が餌食っ!』


「……なんか不自然じゃなかったか?今の」


「そうか?まあ言われてみれば確かに……」


 実はこのロープ自体は普通のもので、選手がロープに触れたらスタッフが爆発の魔法を使う仕掛けになっていた。どうしても少しタイミングがずれてしまい、しっかり見ている観客は騙せなかった。



「とどめだオニタ……うおっ!」


『あ――――――っ!コシロウが炎上!オニタが武器を隠し持っていました!魔法や技術によるものではないのでこれは反則!審判が慌てて試合を止めます!』


 相手が正統派の戦士だったこともあって、どこか噛み合わないまま試合はオニタの反則負けで終わった。派手な演出が続いたのに闘技場はあまり盛り上がらず、雰囲気が怪しくなってきた。



「……なんとか熱気を取り戻さないと……」


「あまり気負うな。失敗するぞ」


 私はサキーと組んでタッグマッチに臨む。台本は何度も読み返したし、問題ないはずだ。


「物足りない試合だったぜ……相手も舞台も悪かったな。お前となら熱い戦いができる、またやろうぜ」


「き、機会があれば……」


 オニタから再戦の要求をされた。もしやるとしても私は電流や爆発は嫌だから、普通の戦いがしたい。




『第6試合はタッグ戦!先に入ってきたのは王国の闘技大会で準優勝、3位に輝いた実力者コンビです!大聖女の姉ジャクリーン・ビューティと剣聖の姉サキー!』


「おっ!来たぞ」 「やはり強そうだな」


 私たちを見るのはこれが初めてで、闘技大会の結果も話で聞いただけという人が多かった。



「エンスケ――――――っ!」


「師弟コンビ!頑張れよ!」


『そして未知の強豪を迎え撃つのは我がギルドのナンバーツー、エンスケ!そしてエンスケの弟子である期待の星、カツ!大歓声のなか、ゆっくり入場!』



 エンスケはいいとして、カツがここにいたのはオニタと同じくらい驚かされた。スライムの集落やゴブリンの村を襲った罪で捕まっていたのに、見えない力が働いてすぐに外へ出てきた。


「……………」


 被害者のマユは当然不快だ。自分が暮らしていた場所で暴虐の限りを尽くした男が、反省しているとはいえ全く罰を受けずにいるのだから。


「ふざけた脚本だ、全く」


「ジャクリーン様を負け役にするなんて……」


 不機嫌なのはお父さんたちも同じだ。この試合で負けるのは私と決まっている。サキーと違って見せ場すらもらえずにやられる流れになっていて、チーム・ジャッキーは揃って憤っていた。


「こんな試合壊れちゃえばいいんですよ。もちろんジャッキー様が怪我する以外の形で」


「そうね。あいつらの思い通りというのは癪だわ。ジャッキーたちも反撃してやればいいのよ」


 皆は失敗を願った。そしていいのか悪いのかわからないけど、その通りになった。




「フン!フン!」


「うっ!何だこいつ……」


 カツは必要以上に強い打撃を放ってくる。台本では攻撃を受けることになっているとはいえ、これをまともに食らったら失神させられるかもしれない。サキーは避けた。


「落ち着け、このバカ!」


「ギャッ!」


 調子に乗っているカツを止めるためにサキーが繰り出した張り手。これが運悪くまともに入ってしまい、カツのほうが気絶して倒れた。



(まずいな……こいつはしばらく起きないかもしれない。おいエンスケ、この試合は……)


(ああ。少し早いがもう終わらせたほうがいいな)


 サキーはカツを場外に蹴り飛ばし、自身も追撃という形で外に出た。リング内は私とエンスケの一対一、互いに何回かわざと攻撃を空振りしてからエンスケの一撃で終わる場面になった。



「ヴァ――――――ッ!!」


 太い腕を私の喉と胸の中間あたりに叩きつけてきた。闘技大会でマキ相手に使って避けられていた技で、今日は必ず命中する。そうなると決まっているからだ。


(………あれ?全然威力がない………)


 弱そうな私に遠慮したのかもしれない。この一撃、全く痛くなかった。でもここで倒れるという約束だ。



「うあ〜〜〜っ………」


『強烈な一振り!ジャクリーンは起き上がれません!』


 勝敗と決着の形だけは予定通りだった。だからこの試合は成功した、とはとても言い難い雰囲気で………。

「こっちは天龍に健介、大森に大仁田までいるんだぞッ!」


「クソっ!よりによって嵐ときやがった……これじゃ当日券も伸びねえッ」


 ダメなところには運も味方しません。

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