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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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一か八かの大イベントの巻

「一発逆転の大イベント……具体的にはどんなことを?」


「それを考えるのはザ・グレーテストの人たちの仕事でしょ?わたしが決めることじゃないよ」


 マキは手を振りながらへらへら笑った。面白そうだから一か八かを煽っていただけのようだ。


「………次失敗したらいよいよ終わりでしょう?堅実に土台作りから始めたほうがいいですよ」


「う〜ん、やはりそれしか………」


 流されかけていたマシガナさんも正気に戻った。これで悲劇は避けられたと思いきや、全く想定外の人が現れたことで話の流れは大きく変わった。




「いいえ、大聖女様が正しいと言わせていただきます!」


「誰だお前………あっ!」 「っ!!」


「トーゴーさん!?」

 


 こんなところで会うなんて考えもしなかった。でもこれは嬉しすぎる偶然だ。


「トーゴーさんも温泉に?それとも仕事で?」


「心身のリフレッシュ……ですね。私は旅が好きなんです。この島は温泉だけでなく素晴らしい景色と自然が味わえますから、よく来ています」


「そうなんですか!?景色のいい場所、ぜひ私も連れていってください!」


 この優しい笑顔に穏やかな話し方、安心できる。温泉でとんでもない目に遭って、人への信頼を失いかけている時に最高の人が来てくれた。



「ぐっ……ト〜〜〜ゴ〜〜〜〜〜〜………」

 

「は?は?」「あの女何?あの女何?あの女何?」


 みんなが隅っこでぶつぶつ呟いているけど、どうでもいいや。しばらく放置だ。




「皆さんを見かけたので声をかけようとしたのですが、たまたま話が聞こえてしまいました。ギルドの真価が問われる勝負、大聖女様の言う通りやるしかないでしょう」


「いや、マキは適当に言っただけで……」


 大聖女だからといって全ての言葉を真に受ける必要はない。具体的な中身が何一つない意見なんか無視していいはずだ。


 それでもトーゴーさんは経験豊富な頼れる大人、私たちの誰よりも上だ。すぐに魅力ある提案を出してくれた。



「迫力ある試合を見せるのが一番です!ギルドのメンバーと豪華なゲストによる熱い戦い!入場料の収入はもちろん、試合を見た人々はザ・グレーテストの魅力を再認識し仕事の依頼が殺到……どうです?」


「おお……!観客の前での試合ですか!それが得意分野というメンバーは大勢います!やりましょう!」


 資金と信頼を両方集めることができる素晴らしい方法だ。マシガナさんの目も輝いている。


「乗りかかった船です。我々も協力しましょう」


「はい!いっしょに力を合わせて!」


 会場の確保やお客集めはむこうに任せて、試合を熱く盛り上げる手伝いをしよう。



「………ジャッキー様とトーゴーさんの距離、ぼくたちよりも近くなってませんか?くそっ!」


「温泉でやりすぎましたか……まずいですね」






 私たちがダブジェ島に滞在するのは一週間だ。初日にマシガナさんと出会い、三日目にはもうイベントが開催される。ザ・グレーテストの動きは早かった。


「観客は……ほぼ満員!」


「告知が間に合ってよかったです。熱気がありますね」


 屋根つきの闘技場とはいえ、いい天気で当日を迎えられたのはよかった。この島の天候は突然大荒れになることもあって、もし嵐でも来ていたら客足は伸びなかっただろう。



「やっぱりビューティ姉妹の参戦が大きいですね!闘技大会を盛り上げた大聖女とその姉を見るチャンスとなれば、そりゃあみんな来ますって!」


「あっ……このことはウチのエースには黙っていてくださいね。もうあの人の時代は終わったのに、いまだに自分がトップにいるつもりでいますから」


 エースの機嫌を損ねずに上手にやってほしいと頼まれている。マシガナさんの父親といっしょにギルドを設立した、元闘魂軍のベテラン。闘技大会は不参加だったけどパーティーには姿を見せていて、堂々と引き抜きに励んでいた。


「このギルドのエース……お義父様の旧友とは……」


「ああ、こいつのことだ。全試合の台本を用意してくると言っていたが遅れているな」


 お父さんとお母さん、それにルリさんは当然試合はしないけど、私たちと同じく関係者席に招待されていた。


 今日は真剣勝負ではなく、派手な技や駆け引きで観客に楽しんでもらうために戦う。だから試合の筋や勝敗は最初から決まっている。あとはその脚本を待つだけだった。




「おう!待たせたな、二代目!仕上がったぞ!」


「……お疲れ様です。もう少し早く完成してほしいところでしたが……とにかくありがとうございます」


 のっしのっしと現れたのはザ・グレーテストのエース冒険者、『ツミオ』さんだった。対戦カード、試合順、勝敗などをようやく私たちも知ることができる。


「調子はどうだ、ツミオ」


「俺の身体は仕上がってる。俺がいる限りザ・グレーテストが死ぬことはない!」


 赤字が膨れ上がって仲間が数人離脱していても自信に満ちた態度は変わらない。その気持ちの強さがあればある程度のことは我慢できるはずだ。



「対戦相手と練習する時間はもうないな……ぶっつけ本番で台本通りうまくやるしかないか」


「ジャッキー様と妹様、それにサキーさんとトーゴーさんが出場……それぞれ急いで確認しないといけません」


 ツミオさんがどんな試合を用意したのか、もらった紙をみんなで見た。


「…………!!」 「こ、これは…………」


 観客はたくさん集まった。あとはその大観衆を満足させられるか。運命の時は来た。

 実際のWJが一発逆転を狙ったイベントは大失敗に終わりましたが……。


「つまんねえぞッ!!」

「出てこい長州!!客をナメてんのかッ!!」


『長州のプロレスとは真逆をいくその大会の結末は、まさに「お笑い」だった!』

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