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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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地獄への道のりの巻

「ザ・グレーテスト……始まったばかりですよね?お土産に高級な果物を配ったりして、お金はありそうだったのに……」


「あれがまずかったんですよ。金銭感覚が狂っていたとしか言いようがありません。まだ活動してすらいないのに資金がかなり飛びましたから」


 余裕があったからではなく、何も考えていなかったから大盤振る舞いだったのか。


「私の父はトップクラスのギルドで長年働いていて、エースのS級冒険者も王国の騎士団、闘魂軍で活躍していた人間です。限られた予算の中でやりくりする術を知らなかったのです」


「ゲンキ・アントニオと対立して闘魂軍を去った幹部たちは多いが、成功している人間は稀だからな……」


 大きな夢を追ったのか、王様への復讐心だったのか……どんな思いで始めたにせよ、半年も経っていないのに危機を迎えているのなら、その行動は間違いだったと言われても何も反論できないだろう。



「いざギルドの活動がスタートしても、父が高額で引き抜いてきた冒険者たちはほとんどピークを過ぎたベテランで……任務をこなすスピードも成功率もいまいちでした」


 仕事ぶりが悪ければ信頼を失って、どんどん厳しい立場に追いやられるのは当然のことだ。サキーと会うまでは失敗ばかりだった私が言うのだから間違いない。


「やがて運営費用が厳しくなり、冒険者への報酬も遅れるように……」


 仕事を終えたその日に支払うのが当たり前なのに、それができないとなると悪循環は止まらない。ザ・グレーテストは転がり落ちていった。




「マシガナさん……俺、今日で辞めます。報酬がずっと未払いじゃないですか」


「ま、待ってくれ!今に経営は安定する!しかしお前に抜けられたら……」


「俺も食わないと生きていけませんから……失礼します」


 優秀な冒険者がいなくなってしまう。命がけで戦ってもお金が貰えないとなると、やる意味がない。移籍されても文句は言えなかった。



「ゲッ!!見ろ、リアス!あの野郎、ギルドの内情をいろんなところで喋っちまってる!」


「あっ……未払いから内紛まで………」


「ますます貴族たちの信頼を失うぞ!くそっ、やっぱりあんな奴誘うんじゃなかった!」


 悪評が広がり、報酬の高い仕事は今まで通り昔から地元にあった老舗のギルドに流れてしまった。そして先代が心労でダウンして、リアスさんが二代目になったという。




「何をやってもすでに手遅れな気がして、あとは終戦日がいつになるか、それだけのような………」


「諦めたらほんとうに終わっちゃいますよ。相談に乗りますから、もうちょっと頑張りましょう」


 そろそろまた全身で温泉を楽しみながら話をしよう、そう思っていたら両腕を掴まれた。



「あ、あれっ!?」


「いけませんよ、ジャクリーン様。汗をかいているのですから、ちゃんと流してから入らないと他の方の迷惑になってしまいます」


「そうだよ!変な人が文句をつけてくるかもしれないし、完璧に洗おう!わたしたちが手伝ってあげるからね!」


 すでに脱出は不可能だった。ずるずると連行された。



「う、うわ――――――っ!!」


「………この人たちに相談してよかったのかな………」






 温泉を出てから落ち着いた場所で話をすることになった。私の回復が遅れたからで、まだ少しぽーっとしている。


「マシガナ、お前はこれからどうしたいんだ?ギルドを復活させたいのか、とにかく少しでも損害を取り戻して終わらせたいのか。閉鎖するだけなら早いほうがいいぞ、現実を見ればそれは明らかだろう」


「……このギルドに入るためにそれまでの地位や安定した立場を捨ててきた人たちのことを思うと、簡単には諦められません」


 サキーは撤退を勧めたけど、マシガナさんはギルドを続けたいようだ。そうなるとやるべきことはたくさんある。


「すでに何人か辞めているようですが、やる気を失っていたりここで活動を続けることを不安に思っている人は無理して引き留めず、出ていってもらったほうがいいでしょう。立て直しの邪魔になります」


「………こちらから切り捨てると?」


「報酬カットや危険な仕事を進んで引き受けてでもギルドを復活させたいという気持ちがあるのは誰なのか、それを見極めてください」


 ある程度の期間は共に我慢する覚悟を持ち、本気で再建を目指す仲間だけを残すべき。マユの意見は個人よりも組織を大事にするスライム族らしいものだった。



「わたくしもマユさんの考えに賛同します。ひとまず人員を減らし、規模を縮小して営業を続けましょう。島の一等地にギルドを構えているようですが、売却して安い借家に移転するのも一つの手ですよ」


「プライドが高いエースを説得できるかどうか……」


 ルリさんの案は現実的だった。細々と身の丈に合ったレベルで活動して生き延びて、再びチャンスが来るのをじっと待つ。


「プライドとか言ってる場合じゃないと思いますよ。よそのギルドに頭を下げて仕事を分けてもらうか、冒険者を派遣して出稼ぎさせるか……そのくらいしないと」


 もっと厳しいのはラームだ。自分たちだけでどうにかするのは無理だと認め、周りに助けてもらって命を繋ぐ……これは屈辱だ。


 ここまでの四人の提案は全員似ていた。ザ・グレーテストの復活は難しく、それでもやりたいのならできる限り節約して地道に稼ぐ。まあそれしかないなという感じで、私が言うことはもう何もなかった。



 ところが最後、マキだけは違った。凡人とは違う感覚を持つ大聖女だからなのか、この話に飽きただけなのか。全く違う方向へ導こうとした。


「そんなことしてたって死ぬのが遅くなるだけだよ。だったらもう一発逆転、大勝負に出なくちゃ!」


「大聖女様!」


「お金をいっぱい集めて知名度と評判も上げる、大きなイベントを開こうよ!ドカンと派手に!」


 これは天の恵みか、それとも悪魔の誘いか。

 ザ・グレーテストの元ネタのプロレス団体について詳しく知りたい方は前々回紹介した『プロレス地獄変』もしくは永島勝司氏の著書を購入することを勧めたいのですが、『WJプロレス』で検索すればすぐにたくさん出てきます。旗揚げ前に派手な忘年会で500万円使ったのを筆頭に、時代錯誤な目ン玉飛び出る金銭感覚団体でした。


『「地獄」への特急列車……これより出発進行!!』




『地獄のアングル』の実質ライターだった石川キンテツさんがお亡くなりになりました。先生のおかげで伝説のスキャンダル団体は永遠に語り継がれることでしょう。ありがとうございました。

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