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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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修行の旅?の巻

「ママたちが勝った!やったやったっ!」


「さいきょーのチャンピョンだ――――――っ!!」


 私が転がっている横でゴキブリとハエの親子は大喜びだ。敗因はいろいろあるけれど、一番の理由は『母は強し』ということにしておこう。



「くそっ……ジャッキー、大丈夫か?」


「………うん。なんとかね。でも珍しいものを聞いちゃったよ。まさかサキーがあんなかわいい声を……」


 普段の振る舞いでつい忘れがちになるけど、サキーもやっぱり女の子だなと思った。一瞬の不覚からの悲鳴は本人も恥ずかしかったようで、私の言葉に顔を真っ赤にした。


「し、仕方ないだろっ!いきなり目の前でゴキブリを出されたんだぞ!あんな最低な飛び道具、反則だろ!」


 審判はいらないと言ったのは私たちだ。しかも公式の試合でこれを食らったとしても、たぶん審判は反則を取ってくれない。炎の玉や氷の刃を飛ばしてもいいのに虫は駄目、それはおかしい。



「しかし驚きました……まさかカササさんとブーンさんも例の魔法の被験者になっていたなんて」 


「いくらモンスター人間でも女同士で子孫を残すことなど不可能……その常識を壊してくれたあのお方は英雄です。そのうち魔王様も興味を示されるのでは……」


 やはりそうなるか。ルリさんのことを守る必要があると思ってはいたけど、人間界だけではなく魔界にも要注意だ。



「それよりどうです、私たちの娘二人は!私たちの良いところを全て受け継いだ自慢の子たちです。まだ幼いですが、数年もしたら地上で大会に出場させてみようと楽しみにしているんです」


「……強敵になりそうですね。待ってますよ」


 ゴキブリとハエのいいとこ取りか。モンスター人間でも新種の虫でもそれは恐ろしい。彼女たちが成長するまでに対策を練らないと人類は敗北しそうだ。


「もっと強くならないと……」


「そうだな。修行の旅に出るのもいいかもな」


 今回のダンジョンはそもそもダンジョンではなかった。次はもっと鍛えられる場所に行きたい。





「……おお、皆さん!ご無事で何よりです」


「あっ!トーゴーさん!」


 地上に戻るとトーゴーさんがいた。私たちが心配で様子を見に来てくれたようだ。


「どうでしたか、このダンジョンは?戦利品を持ち帰ったようには見えませんが……」


「……何もない不毛な場所だった。あんたも行く必要はない。どうせしばらくしたらこの入口はなくなる」


 カササさんたちの楽園が脅かされないように、ギルドにもこんな感じで報告しよう。でももしかすると、ゴキブリとハエの巣だったと全てを隠さず話したほうが誰も近寄らなくなるかもしれない。どっちがいいか迷うところだ。


「そうですか。ではそうしましょう。ではまた皆さんと共に戦える日まで……」



 まだ話していたかったけど、すぐに行ってしまった。次に会えるのはいつなのか、今から待ち遠しい。


「はぁ……無理にでも引き止めればよかったな。トーゴーさん………」


「………」 「………」 「………」





(害虫どもの巣に入れてどうなるかを試すために私が結界を破ったが……判断が難しい。虫に心をやられることはなかったが、おそらく最深部のモンスター人間には勝てていない……あと一度だけ様子を見るか)






 未知の強豪はどこにいるかわからない。いつ戦うことになってもいいように、私たちはレベルアップが必要だという結論に達した。


 またダンジョンに向かって実戦の経験を重ねるもよし、山奥でひたすら鍛錬を続けるもよし。とにかく修行の旅に出て、能力の底上げや新たな技を身につける……そう決意した。






「………これが修行の旅ですか?」


「……………」


 私たちは今、船に乗っていた。チームのメンバーだけではなく、ビューティ家もいっしょだ。


「家族旅行なんてなかなか行けないからね。忙しいマキの予定が合う機会は逃せないよ」


「久々だよね。楽しみだなぁ」


 修行とは程遠い、ただの旅行だった。心身を休ませるのも大事だからと言い訳した。



 船で行くとはいっても数時間の短い船旅だ。私たちが向かう『ダブジェ島』は近くて、文化も全く変わらない。


「ダブジェ島ですか……どんな場所なんですか?」


「魚がおいしいよ。でもそれ以上に大きな特徴は……マグマだね」


「マグマ?」 


「火山がある。でも噴火の心配はない……だから温泉を心置きなく満喫できる」


 魔法の力でも治せない慢性的な病気や痛みにも効果があると言われている。ただし今回の私たちのように数日だけではなく、もっと長い期間療養しないと劇的な改善はないようだ。



「大きい島だから一度に全てを見て回ることはできない。あいつらに会えるかどうか、五分五分だな」


 この島にはお父さんの知り合いがいた。実は闘技大会のパーティーにもその人は出席していて、いろんな人に声をかけていたのを見ている。


「ついこの間、あいつらは新しい冒険者ギルドを設立した。その記念パーティーに呼ばれた身としてギルドには顔を出したいが、忙しくしているだろう」 


 島内はもちろん、依頼があれば私たちのほうにも来るという。そういえばお父さんがとても高級な果物をお土産として持ち帰ってきた。


「最近だと大金持ちの商人が始めた『オール・エリート・ギルド』が注目の的だが、こっちも負けてないなと思ったよ」


「営業を始める前から大盤振る舞いですからね。よほど資金力があるのでは?」


 貴族の私たちですらなかなか買えないレベルのお土産に加え、馬車の費用まで出してくれたそうだし、すごいギルドに違いない。



「お父さん、そのギルドの名前は……?」


「『ザ・グレーテスト』だ。我々の地方まではまだその活躍の噂は聞こえてこないが、ダブジェ島ではど真ん中を突っ走っているだろう」


 マグマの島でトップギルドになっていると思われる、ザ・グレーテスト。私たちはいろんな意味で何度も驚かされることになった。

 今回から始まる『WJ島編』は、漫画『劇画プロレス地獄変』を参考にしています。有名な『地獄のど真ん中』だけでなく、プロレス界の悲劇やスキャンダルを知ることができます。


 暗い話(NOAH事件)、切ない話(アンドレや阿修羅・原)、馬鹿な話(ゴマシオ絡み)が多い中で、アンドレ・ザ・ジャイアント対スタン・ハンセンの対決を描いた『田コロ伝説の舞台裏』だけはいい話のまま終わります。電子書籍で購入できます。

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