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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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地下のタッグマッチの巻

「では皆さんが帰り次第、入口は作り直します。私たちゴキブリとハエは嫌われ者だというのはわかっていますから地下に潜り、退治しようとする人間から隠れて生活していたのです」


 昨日まではその入口もわからなかった。誰かが偶然仕掛けを解いてしまったと考えるべきか。 


「ところで……せっかく来たのですから腕試しをしませんか?私たちの強さはまあそれなりですが、リングでの戦いなら自信があるので……」


「そういえば部屋の外にありましたね。記念にやりますか」


 ダンジョンに向かう目的の一つは、経験を積んでレベルアップすることだ。この試合から得られるものがあるかもしれない。



「じゃあ決まりだ。こっちは私とジャッキーが出る」


 サキーとのタッグは巨体の魔物兄弟に勝った実績がある。ラームとマユには見学してもらう。


「審判が必要ならぼくがやりましょうか」


「いや、いらないよ。正式な試合じゃないし、どっちも反則なんかしないから」


 怪我する前に自分で止めるから審判は必要ない。これはただの練習だ。




「じゃあ最初の合図だけ………始めっ!!」


「よし、まずは私が様子を見てきてやる」


 サキーが先に出る。相手はハエのブーンさんだ。


「ハッ!トゥ!」


「なるほど……ハエらしくスピード自慢か」


 背中の羽根や短い頭の触角がぱたぱた動いている。衣装にしか見えなくても立派な身体の一部で、戦いにも使っているようだ。



「せいっ!むっ!」


「だが一撃が軽い!これなら!」


 ブーンさんのキックをあえて受けたサキー。捕まえるのが面倒な相手が自分から接近するのを待っていた。足を掴んでそのまま投げる。


「あぐっ……強い!カササ〜〜〜………」


「ブンちゃん!タッチ!」


 マットに叩きつけられたブーンさんは自分の陣地へ逃げた。交代して休む気だ。



「よし……こっちも代わろう」


「任せて!」


 これが真剣勝負だったらサキーは私と代わらずに追撃していた。弱っている敵を攻め続けて、一気にギブアップ勝ちを狙うほうがいい。


「私たちもここで何もせず暮らしているわけじゃありません。簡単には負けません!」


 ゴキブリのモンスター人間であることを考えれば、カササさんも身の軽さが武器のはず。でも小柄なブーンさんと違って、カササさんは豊満な身体の持ち主だ。太っているわけではないけどスピードで勝負するタイプには見えない。



「タァ――――――!」 


「うわっ!おっとっと………」


 強烈なパンチや腕を使った攻撃をどうにか避ける。やっぱりブーンさんよりは遅いから私でも対応できるけど、反撃する余裕はない。そもそも私はスピード、パワー、テクニック……その他全てにおいて最下位だ。有利に戦える場面は稀だ。



「むっ……ジャッキー!」


「させるかっ!」


 私が劣勢になったのを見て、サキーがタッチせずにリングに入る。ところがすぐにブーンさんにカットされて外に落ちてしまい、自力で流れを変えるしかなくなった。


「どうしましたか!?交友を深めるための戦いとはいえ遠慮は無用です!さあ!」


 手応えを感じないのか、私が本気を出していないと勘違いしている。悲しいことにこれでも全力だ。




「ジャッキー様!ここからです!」


「落ち着いて戦えば勝てる相手ですよ!」


 ここで応援団の声が大きくなった。このまま私が負けるのを黙って見ていられないという感じだ。


「ジャッキー!ジャッキー!」


「ジャッキー!ジャッキー!」


 この声援が後押ししてくれた。私の中に僅かに眠る大聖女の力が刺激されて、全身が熱くなった。



「この光は……はっ!?」


「そりゃあっ!そりゃあっ!」


 一瞬で逆転だ。こんなところで負けていたら闘技大会決勝で熱戦を繰り広げたマキの価値まで落ちてしまう。



「ぐっ……このままでは……!」


「カササ!今助けに……うわっ!」


 今度はサキーがブーンさんを排除した。地面に叩きつけたからしばらくは入ってこない。これでリング上にカササさんを孤立させた。


「よし、一気に終わらせるぞ!」


「ダブルキックでとどめだ!」


 ラームとマユの拍手が鳴り響く空間は完全に私たちのものになったはずだった。ところが、応援団がいたのは私たちだけではなかった。



「ママ――――――っ!負けないで――――――っ!!」


「お母しゃんがんばえ――――――っ!!」



 いきなり現れた小さな女の子二人は、一人がゴキブリの頭にハエの胴体、もう一人がハエの頭にゴキブリの胴体というモンスター人間だった。


(この二人……カササさんとブーンさんの!)


 これもルリさんの魔法の成果か。純粋な人間ではなくてもここまで人に近い種族で実験に成功しているのなら、完成は間近だ。



「…………!」


 この時私はいろいろ考えすぎた。戦う親を必死に応援する幼い子ども、ゴキブリとハエのハーフという新種、魔法が完成したら私も………一つでも余計なのにこれだけ頭を使えば動きは停止する。


「おいジャッキー!子どもがいたからって攻撃を緩めるな!相変わらず優しすぎるぞ!仕方ない、ここは……」

 

 サキーは一人で攻め続けようとした。しかしその直後、別の方法でサキーも止められてしまった。



「よし……秘奥義!」


「秘奥義?何をする気だ……」


 恐ろしい技だった。カササさんの指から突然3匹のゴキブリが飛び出してきて、サキーを驚かせた。自在に虫を出せるのもこの人たちの能力だった。


「きゃあっ!」


 もっとびっくりしたのはサキーの反応だ。かわいい悲鳴を上げると、そのままリングの隅に座り込んでしまった。



「サ……サキー?」


 こうなると私たちはどうしようもない。起き上がってきたブーンさんが素早くリングに戻ってくると、


「ありゃっ!?」


 背後から足払い。私はあっさり倒された。


「カササ!決着だ!」


「よーし、とぉっ!」


 カササさんはロープを支える鉄柱の上に立つ。倒れる私とはちょうどいい距離だった。



「たぁ―――――――――っ!!」


「ぎゃっ!!」



 高く飛び上がり、私の上に落下。リングでの戦いに長けていたのは相手のほうだった。


「ギ……ギブアップ!」


「ああ………」 「なんとあっさり………」


 勝ったと確信したところから切り崩されて大逆転負け。私たちはまだまだ真の強さを持ってはいないと思い知った。

 ハイフライフロー

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