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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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カササとブーンの楽園の巻

 虫が嫌いな方はお気をつけください。

 地下二階で終わりの小さなダンジョン……いや、ダンジョンかどうかも怪しくなってきた。


「私たちは昨日発見されたここに探索しようとやってきました。ですが今、家だと仰いましたか?」


「ええ。この場所に暮らしてしばらく経ちます。ですが入口は誰にもわからないようにしていたはず……」


 これでダンジョンではなく誰かの家で確定だ。私たちが勘違いしていただけらしい。



「そうか……わからないようにしたということは、人に近づいてほしくないんだろう?ならば今の入口は封鎖して、新たに作り直すべきだ」


「確かにそうですね。いろいろ確認したいこともあります。どうぞ中にお入りください」



 扉が開いた。女性の声が二人分聞こえていたから、中にいるのも二人なのはわかる。予想外だったのはその姿だ。


「どうぞ。狭いところですが……」


「………!」 「人間……ではないな」


「はい。私たちは魔人やモンスター人間と呼ばれる存在です。驚きましたか?」


 これまで出会ったモンスター人間たちに比べて、かなり人間に近い姿だった。普通の人間が被り物や衣装を着ているだけに見えるほどだ。ただし問題はこの二人の種族、これはまさか………。



「私はゴキブリの『カササ』といいます」


「ハエの魔人、『ブーン』です」


 やっぱりゴキブリとハエか………。私とサキーは思わず後退しそうになった。ラームとマユが平気そうなのは育った環境の違いか、それともまだ幼いからか。私も子供のころは汚い虫にもそんなに抵抗がなかった気がする。


 私たちも自己紹介を終えると、出してもらった椅子に座った。他のモンスター人間と同じく人間の暮らしをしていて、部屋に不潔なところは全くなかった。



「私たちの前にも何組か冒険者が入ってきたはずだ。騒がしくしてすまなかったな」


「いえ、気がつきませんでした。誰もここまでは来なかったので」


「みんな途中で引き返したと言っていました。途中に宝箱がいくつか転がっていましたが、あれは侵入者対策の罠ですか?」


 この部屋へ向かう通路でしかないのに、あんなに宝箱があるのは変だ。しかも全部危険だとサキーの魔法が明らかにしている。先行した冒険者たちをリタイアさせた罠はどんなものだったのか。



「……宝箱?いやいや、あれは卵箱です」


「たまごばこ?」


「ゴキブリとハエの赤ちゃん……つまり卵が大量に入っています。孵化してからもしばらくはあの中で成長させます。びっしりといますよ、みんなかわいいです」


 想像しただけで倒れそうになった。もし箱を開けていたら大量の卵か幼虫とご対面だった。カササさんたちにとっては罠ではなくても、私たちを一発で行動不能に追い込む恐ろしいトラップだ。



「途中で狭い側道を見ましたか?」


「はい、確か二つ……立ち寄りませんでしたが」


「それぞれゴキブリとハエの楽園に繋がる道です。地下百階まであって、全階層で仲間たちが生活しています。繁殖力がありますから、所狭しと増え続けていますね」


 そっちはまさにダンジョンだった。地下一階の通路には全く出てこなかったけど、横に逸れたらいきなりとんでもないものを見せられるわけだ。ここから帰ってきた冒険者たちが全員食欲を失うのも納得だ。


(何千、何万匹……いや、それ以上?それが百階まで……考えないほうがいいな)


 さすがにラームも渋い顔になった。それでもマユは平然としたままで、話を詳しく聞こうとしていたほどだ。よく考えたらマユはスライムだし、虫をどう見ているか人間とまるで違うのは当たり前だった。




「水と食べ物に困らない、私たちにとって最高の環境……しかしそれ以外にも増え続けることができている理由が、大きく二つあります」


「………そ、それは?」


「まず一つ目に、この家にいる全てのゴキブリとハエは私たち二人と結ばれています。ゴキブリはカササ、ハエはブーンと。どんな時でも互いに支え合うことができるのです」


 ただでさえ生命力が強いゴキブリとハエ。でも不死身ではない……はずだった。


「彼らが空腹や怪我で命の危険を感じても、私たちのエネルギーを分けることで回復できます。逆に私たちの致命的な負傷や病も彼らから力をもらって生き延びる……億単位でいるのですから、ほんの少しずつもらうだけでいいのです」


 仲間のために自分の余力を分け与える技は知っている。それでもこんな大規模な数で力をやり取りできるのは聞いたことがない。これなら不死身だ。



「もう一つの秘訣も教えてください!私たちスライム族が繁栄するために参考にしたいんです!」


 マユは前のめりになって話を聞く。またしても私たちを青ざめさせる内容だろうと思いきや、まさかの名前が出てきた。



「……あなたたちは信頼できそうだから教えますが、繁殖の魔法のおかげです。ルリ・タイガーさんという人間が私たちを支えてくれました」

 

「ルリ・タイガー!」 「ルリさん………」


「オスがいなくなって絶滅寸前の種でもメスだけで子どもができるようになり、卵の質と量、幼虫の健康も向上しました。あの方の魔法は本物です!」


 人間以外で試している、とはルリさんから聞いていた。実験という表現にその時は嫌な気持ちになったけど、ゴキブリやハエならまあいいか。




「これは朗報だ。ルリ・タイガーの魔法が成功したと語る証人に会えただけでもここに来た価値があった」


「あれ?お知り合いだったのですか?あの方のことも魔法のこともご存じのようですが……」 


 ルリさんも今はビューティ家の一人だ。だから私とこの人たちも無関係ではなくなる。ゴキブリやハエとの付き合いも見直す必要があるかも。



「ああ。あいつはこのジャッキーの『自称』!婚約者だが、その事実もなければそうなる未来もない」


「はい、自称!」 「自称でしかありません!」


 サキーたちはなぜか自称という言葉を強調していた。確かにそうなんだけど、なぜここで強く言うのかわからなかった。

 ゴキブリマスク&ギンバエマスク

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