大ギルドマスターの巻
お父さんからは目的の場所へ向かう地図、お母さんからは二人分のサンドイッチ、そしてマキからはお守りをもらって私たちは門を出た。
「いよいよ今日から……よろしくね、ラーム」
「はいっ!精一杯ジャッキー様を支えます!いざというときにはこの命を使ってお守りします!」
私の願いは認められた。ラームが来た日の夜、長い話し合いの末に最後まで反対していたマキが渋々折れた。私も大聖女の姉として恥ずかしくない生き方をするため、そしてビューティ家を守るための力を身につけることを目指す日々が始まる。
マキのすぐそば、つまり王国の中心で働くにはあまりにも私のレベルが低い。いくら大聖女のマキでも私を無理やり精鋭たちの一団に加えるわがままを通したら立場が悪くなる。何より私が耐えられそうにない。
「ジャッキー様ならすぐに真の力を発揮してもっと上に行けますよ!そのうち大聖女様すらも……」
「私も早く強くなりたい。でも焦って失敗したら全ては水の泡、じっくりいこう。それに私はマキを超えたいなんて動機で力を磨くわけじゃないよ」
「は、はいっ!失礼しました!」
いずれはマキと同じ場所で働けるまでになれたらいい。もちろんその地位を奪って立場を逆転させることは考えていない。少しでも負担を減らしたい、いざというときに身代わりになって助けるためにそばにいたい、これが嘘偽りない本心だ。
「家から近くてよかった、もう着くよ」
「これなら楽に日帰りできますね。お父様は何件も断られた末に仕方なく決めた場所だと言っておられましたが……」
私たちが向かっているのは冒険者ギルド。まずは冒険者として登録、それから仕事をこなしていきながら実力を磨く。実戦の数を積めば経験も得られる。
話を早く進めるために、ビューティ家からの紹介状を送ってくれた。でもそれに対していい反応を返してくれたのは今から行くところだけだったらしい。
その理由は様々だった。私が聖女になれなかったダメ人間だという話を聞き、そんな弱いやつを連れてこないでほしいと断られたり、働く必要のない金持ちの娘の道楽に付き合う余裕はないとやる気を疑われたりもした。そんな中で快く私を迎えてくれるギルドのためにも頑張ろうと誓った。
「あのご両親なら、ジャッキー様に何かあればすぐに駆けつけられるこのギルドは最適の位置にあるはずなのですが。なぜ消去法みたいな言い方を……」
目的地に到着すると、ラームは黙ってしまった。疑問の答えが明らかにされたからだ。
「………なるはど、私も謎が解けたよ」
とても古く汚い建物はいつ何が起きてもおかしくない。静かなのは人が少なく賑わっていないからで、たまに誰かが出入りしてもかなり高齢の冒険者がほとんどだった。お父さんよりずっと年上ばかりだ。
「見た目じゃわからないこともある。とりあえず入ろう」
「前途多難ですね……」
建物が古いままなのは忙しすぎて改装する時間がないのかもしれない。人が少ないのは少数精鋭で、超ベテランたちは実力者揃いということも考えられる。あの年齢まで冒険者を続けられるのは並の人間では不可能だ。学べることは多そうで、希望を胸にギルドの門を開いた。
「おお、ジャッキーか。小さい女の子を連れて来るから頼むとあいつから話は聞いてるよ。ようこそ、『ドラマチック・ドリーム・ギルド』へ!」
受付にいたのは以前からの知り合い、『サンシーロ』さんだった。お父さんと仲がいいから昔はよく家にも遊びに来ていた。マキが大聖女だとわかって豪邸に引っ越してからはあまり会う機会がなかったけど、友情は続いている。誰からもいらないと言われた私を受け入れてくれたのがその証だ。
「あいつめ……娘が大聖女になった途端大金持ちの成金貴族だ。羨ましい限りだが、態度や振る舞いはまるで変わらん。俺が同じ立場だったらとっくに狂っていただろうな」
「あはは……でもサンシーロさんが職員のギルドだと知って安心しました。どうしてお父さんは黙ってたのかな?」
「なんだ、教えてもらっていなかったのか?俺はただの職員じゃないぞ。ギルドマスターであり受付係でもあり、S級の現役冒険者でもある!」
受付は一つだけ、他に職員は誰もいない。サンシーロさんがすごいのか、一人でどうにかなる仕事量しかないのか……。
「とりあえずお前ら二人は……A級冒険者からスタートだ」
「A級!?」 「さすがジャッキー様!え、ぼくも?」
冒険者の最低ランクはF級、最高はSS級だ。ただしSS級だけはギルドではなく王国が認定した人間しか名乗ることは許されない難関で、しかもそこまでの力があればもっといい仕事があるから、私たちの国にSS級冒険者は現在一人もいない。
事実上のトップはS級、私たちは新人なのにそれに次ぐA級の資格が与えられた。どういうこと?
「ウチは人が少ないからな、SとAだけしかないんだよ。細かく分けなくてもいいんだ」
「………」 「そういうことですか………」
まあこんなことだろうと思った。多くは語るまい。
「じゃあ先輩方はほとんどS級ということに?」
「いや、半々くらいだな。あの爺さんどもはランクなんか興味がない。老後の時間潰し、ちょっとした小遣い稼ぎでしかないからな。他所じゃ相手にもされないだろうよ。あとは生涯現役を名乗りたいためだけに追い出される心配のないここにいるのもいる……学べることなんか何一つないぞ」
「あ〜………なるほどなるほど………」
お父さんが躊躇うのも納得の理由が次から次へと出てくる。とはいえ私もここ以外に行く場所のない人間だから、偉そうなことを言える立場じゃなかった。
大社長の社長業専念が近づいています。寂しいです。




