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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第二章 スポイラー・トーゴー編
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転移者の偉業の巻

「トーゴー?確かにトーゴーと名乗ったのか」


「うん。優しかったし強かった。どこかで聞いたことがあるとは思ってたけど……」


 今回の仕事でお世話になったトーゴーさんのことを話してみると、お父さんたちはすぐに反応した。


「そのスポイラー・トーゴーという人間については知らないが……もしそれが本名で、あのトーゴー家の末裔だとしたら……」


「体術が得意というのならもう決まりだわ」



 トーゴーさんの秘密……いや、秘密ではなく私が忘れていただけか。二人が思い出させてくれた。


「彼女の先祖は異世界から転移してきた。文化や常識が何もかも違う世界から」


 今ではほとんど聞かなくなったけど、数十年くらい前までは時々いたらしい。神秘的で不思議な場所にいたら、気がつくと物語の中のような世界にいたと転移者たちは話したそうだ。



「なぜか言葉が通じるあたり、転移者たちは誰かが意図的に連れてきたのだと言われた時もあった。しかし全ては偶然だった。彼らが歴史を変えたり救世主になったりしたことはなかったからな。初代トーゴーを除いて」


 それでも『トーゴー』の名前が残ったのは、あるものをこの世界に普及させて、それが定着したからだった。


「彼が流行らせたリングでの戦い……狭い正方形の覇者が高い地位や名声を得るようになった」


 闘技大会の決勝トーナメントでもこの方式が採用されている。私たちの国だけでなく、ほぼ全世界で。



「噂では魔族もリングを使った勝負に力を入れているようだ。戦争のやり方も大きく変わるかもしれないな」


「広い荒野や市街ではなく、観客を集めた広場や会場で……すでにそういう話も聞いているわ」


 魔法や剣技もリングでどう戦うかを考えて腕を磨いていく時代になるかもしれない。うまくやれば魔力の少ない私でも強者になれる。


(トーゴーさんに聞いてみてもいいな……)


 このルールを持ち込んだ人間の子孫なら当然うまく戦えるはず。今度いっしょに仕事をする時はすぐに寝ないでちゃんと話をしよう。






 遺品探しを終えてから数日後、ギルドに行ってみると知らない人たちがたくさんいた。身なりで判断するなら、全員冒険者だ。


「ダンジョンに挑戦させてくれ!腕試しがしたい!」


「このギルドの冒険者たちでは力不足だろ?我々にダンジョンの調査と魔物の討伐を任せてほしい!」



 全員目的は同じだった。ちなみに私たちのドラマチック・ドリーム・ギルドの事務員は、これまでギルドマスターのサンシーロさんが一人でやっていた。でも今後仕事が増えることを見越してもう一人雇っているから、今日みたいな突然の多忙にも対応できた。


 新しい事務員の名前は『コーチン』さんといった。30代後半くらいの男の人で、冒険者としてもS級だ。


「この人だかりは?」


「連中が口にしている通りですよ。ここから歩いて数分のところに突然ダンジョンが現れたんです。昨日までは何もなかった場所なのに」


 ずっとそこにあったのに見えていなかっただけ、なんてこともありえる。何十万のスライムが住んでいる集落だって皆が知らないだけですぐそばにあるのだから。



「新発見のダンジョンか……面白そうだな」


「ぼくたちならきっとあっさり攻略できますよ!」


 強敵との戦いや罠を乗り越え冒険者としてのレベルアップ、魔物を倒して貴重な部位や素材を持ち帰ってお金を稼ぐ、難関ダンジョンを制覇したという名声を得る……これだけたくさん手に入るものがあるのだから、新しいダンジョンが見つかったら大騒ぎだ。


 見返りが大きいのは危険だからだと当然誰もが理解している。リスクが高ければ高いほど報酬は豪華で、命を落とすかもしれない難易度こそ大歓迎という冒険者も多い。




「よし、わかった!先着順だ!そこのお前のチームが最初に行け!少人数で来たやつらはここで即席チームを組んでもいい、早い番号のやつと組めば得だぞ!」


「やった!おい、治癒魔法が使えるやつは仲間に入れてやってもいいぞ!」


「くそっ!しかしあいつらは失敗する!俺たちが宝を残らず持ち帰ってやる!」



 私たちの順番は17番目と決まった。出番が来るのは数日後になりそうで、それまでに全て終わってしまう可能性が高い。

 

「……ダンジョンの主が討伐され金目の物が何もなくても潜るだけなら可能だ。一応記念に行くか?」


 サキーも諦めたような言い方だ。ところがサンシーロさんがやってきて、周りの冒険者たちに聞こえないように小さな声で私たちに話し始めた。


「あんな連中がダンジョンを制覇できるはずがない。強さを求める冒険者というよりは金が欲しいだけのクズどもだ。だからあえて先に行かせるんだ」


「………どういうことですか?」


「クズでも雑魚払いやマッピングぐらいはできる。どんな仕掛けがあるのか、魔物の種類や数はどんなものか、地下何階まであるのか……やつらに調べさせてお前たちを助けさせるつもりだ」


 これはサンシーロさんの策だった。よそのギルドから来た冒険者たちを挑ませておいて、最後は私たちがおいしいところを持っていく狙いだ。



「いや、まだあの人たちの実力もわからないのにクズって決めつけるのは……」


「ジャッキー様、決めつけていいんですよ。一流の冒険者はわざわざこんなギルドに来ません。自分のギルドで立場が悪くなっているか誰にも相手にされない弱小ばかりでしょう」


 このラームの言葉に怒ったのはサンシーロさんだ。こんなギルド呼ばわりされて、マスターとして黙っていられなかった。


「このクソガキ!相変わらず生意気だぞ!こいつをくらえ、反省しろっ!」


 近くにあった椅子と花瓶を勢いよく投げた。だけど力いっぱいにぶつけようとしたのが失敗で、強く振りかぶったせいでラームに対処する時間を与えた。



「よっと!」


 左の親指を噛んだラームは小さくなって、簡単に避けた。その先には待機する冒険者たちがいた。


「クソ、外したか……げっ!!」


「うわっ!!」 「ぐおっ!」


 彼らの頭や背中に直撃した。飛んできた方向から誰が投げたのかは明らかで、すぐに詰め寄ってきた。サンシーロさんだけでなくそばにいた私たちまで怒りの対象になっていた。



「これがお前らの歓迎のやり方なのか!?」


「だったらお礼をしてやらないとなぁ!」


 不毛な戦いが始まってしまい、ダンジョン攻略どころではなくなりそうだ。

 コーチンが早々にフェロモンズを離脱したのは、やはり生放送で卵が見えたのが原因だったのでしょうか。

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