悪を滅する光の巻
アンデッドの群れにすっかり怯えて動けずにいる私たちとは違い、トーゴーさんは勇敢に前に出る。そして一人で村人だった者たちとの会話を始めた。
「どうしてそんな不自然な形で生きているのですか?これはあなたたち自身が望んだことなのでしょうか?」
「気ガツイタら……コウナッテいた!」
「ナ…ナゼか村カラ出ラレナイガ、べ、別ニ困ラナイ。モトモト外ニイクコトもアマリナカッタしナ」
普通に話ができた。これなら戦わなくてすむ道もあるかもしれない。
「私たちは二年前にこの村で死んだ神父様の遺品を探しに来ました。皆さんが殺害したと聞いていますが」
「………」 「………」
簡潔に、それでも突き刺すようにトーゴーさんが尋ねる。村人たちは一瞬沈黙したものの、すぐに反論した。
「イヤ、違ウ!アレは事故ダッタ!」
「転ンデ頭ヲ打ッて死ンダンダ……シカシ彼ハ悪人ダ。我々ヲ無理ヤリ改宗サセヨウトシタ。助ケが欲シカったラ信ジル神ヲ変エロと………」
まさかの答えだった。もしこれが事実なら一連の出来事へのイメージは大きく変わる。被害者は神父様ではなく村人たちだ。弱みにつけ込まれていた最中に神父様が勝手に死んでしまったのに、殺したと決めつけられて救援が来ずに全滅……強欲な村ではなく悲劇の村になる。
(………今さら真相を確かめるのは難しいな……)
私たちが聞いていたことが正しいのか、村人たちの主張が正しいのか。それについては謎のまま終わるしかないだろうから遺品探しに専念しよう、そう思っていたら全く予想外の展開になった。
「わかりました。ではあなたたちの口ではなく魂に聞いてみましょう。不幸な善人だったのか、やはりただの悪人か、私ならそれがわかります」
「トーゴーさん?」
「これから繰り出す技は『悪を切り裂く正義の手刀』!善人には全く傷を与えず、悪人には致命的な一撃を与えるこの右手はアンデッドだろうが魂ごと切断することができます!」
(………あれ?これなら私はいらなかったんじゃ?)
トーゴーさん一人で終わってしまう仕事だ。私の役割は何かあったときのための保険か。
「さあ、この世にしがみついている者たち!神父が死んだことであなた方に責められる点がなければ何事も起こりません!一列に並びなさい!」
「…………!」 「〜〜〜〜〜〜ッ!!」
村人たちの様子が変わった。表情に乏しいゾンビや骨の群れなのに、動揺や焦りが伝わってくる。
「グ……クソ!」 「ヤッチマエ!!」
「やはり……せいっ!」
一斉に襲いかかってきた。先頭のゾンビ二体はトーゴーさんが手刀で真っ二つにした。
「うゲゲ………グハ」
そのまま息絶えて動かなくなった。アンデッドに効く攻撃なら倒せる、つまり敵は不死身ではない。それがわかっただけでもかなり気分が楽になった。
「おいジャッキー!トーゴーは確かに強いが、大人数を相手にする戦いが得意ではなさそうだ!」
純粋な体術使いの弱点だ。囲まれたら苦しい。
「やはりジャッキー様の力で……あっ!?」
「ガキドモは最初ニ殺ス!」
四方八方から敵が現れて、ラームとマユに魔の手が迫っていた。
「俺タチの仲間ニシテヤルッ!」
「カワイガッテヤルゾ!ぐヘヘヘェ!」
ラームたちにはいつか私から巣立ってほしいと思っている。でもそれは今ではないし、こんな村の一員になるなんてありえない。二人を、そしてサキーとトーゴーさんも守るんだ!
「邪悪な霊ども……滅びろ――――――っ!!」
強く念じると、私の身体から眩しい光が放たれた。
「アガアァァ………」
「ア……熱イ!魂ガ燃エテ……ナクナルゥ!」
聖なる光は悪しき心を持つアンデッドをひどく苦しめるという。死んだはずなのに生に固執する者たちすら、早く死なせてほしいと願うそうだ。
「ウゲェ――――――ッ!!」
善のアンデッドは痛みを感じず安らかに消えていくらしいけど、そんな反応を見せる敵はいなかった。ここまで悪に染まっている村人たちなら、二度目の死を与えることに罪悪感を感じなくてすむ。
「お……おおっ!これはすごい!」
「ぼくたちの攻撃でもゾンビが苦しんでいます!」
私の光はサキーたちを強化していた。ゾンビや悪霊に通用する力を与えていて、私自身が一番驚いていた。
(………フム、これが大聖女の姉の力………)
こうなれば私たちの圧勝だ。かすり傷一つなく敵を全滅させて戦いは終わった。
「よし、やはりあったぞ!大事に保管されていたから損傷も腐敗もない」
「近くに連中の日記もありました。神父殺しは事実だったとこれではっきりしましたね」
神父様の遺品もあっさり見つかった。もしあるとしたらこんな物が出てくるはずだと事前に言われていた通りの品々で、無事に目的を達成した。
「もう帰ろう。長居するような場所じゃない」
「ええ。私たちまで悪い影響を受ける前に」
村人たちがアンデッドとして生き続けていた理由はわからないままだ。原因はこの土地そのものなのか、人々の強い欲望と悪しき心なのか、何者かが目的を持って新たな命を与えたのか。
私たちの今回の仕事はその調査ではないから、深く関わることはせずに滅びの村を去った。村の外に被害が出ているわけでもないし、もう来ることはないだろう。
「………ジャッキー様!もう着きますよ!」
「……あれ!?もう私たちのギルドの前!」
またしても私はずっと寝ていた。特別な力を使ったからではなく、これが私という人間だ。
「トーゴーさんがいないようだけど……」
「ついさっき馬車を降りましたよ。用があるからここで失礼すると」
爆睡のせいでお礼も言えなかった。でもトーゴーさんとは近いうちにまた会える気がした。その時にまたいろんな話をしよう。
スポイラー・トーゴーの元ネタがわかる方は、彼女の正体をだいたい察することができるでしょう。『悪を切り裂く正義の手刀』がどんな技なのか気になる方は検索していただければすぐ見つかりますが、関係ないブロッケンJr.が出てきたりします。




