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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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近づく敗北と死の巻

 これは戦いですらなく教育だと語るマキ。さっそく何らかの攻撃魔法を唱えようとした瞬間、何かに気がついて中断した。


「……ふ〜〜〜ん………」


「………」


「そういえば準決勝でも使ってたね。この寝技で魔力を吸い取るってやつ。思った以上にやられちゃったよ」


 昨日は無意識のうちにフランシーヌさんの炎を封じていた。その時の感覚でやればいけると試してみたらうまくいった。



「それにその服……大聖女に与えられた加護の力が教えてくれなかったら危なかったよ」


 全身を覆う鎧と兜、魔法をほぼ完璧にガードするローブに比べたら今の私は地味な格好をしている。特別な装備ではないと思わせるのが狙いだった。


「一度だけ魔法による攻撃を跳ね返す……どう?」


「……参ったね、当たりだよ」


 この服は予選が始まる前にルリさんからもらったものだ。実はそのまま反射するだけではなく、二倍にして返す力を秘めていた。カウンターで一撃必殺とはいかなかった。



「わざとすっごい弱い魔法を当てて反射効果を潰しちゃうのもありだけど……やる気しないなぁ」


 跳ね返ってきても無害なレベルの攻撃魔法を唱える、マキの性格を考えたらそんな面倒な真似はしない。戦い方を変えるほうを選ぶだろう。


「最初の回復と今の吸収で魔力もだいぶ減っちゃったから……もう魔法で攻撃するのはいいや」


 マキとフランシーヌさんでは魔力の量が全然違う。こんなもので困るはずがないから、大げさに言っているだけだろう。



『どうやら大聖女様は攻撃魔法を使わないと決断した模様!こうなると勝負は五分五分か!?』


『……パワーやスピードを強化する魔法は使うわけだから……もっと残酷なことにならないか?』


 炎や爆発であっさり負けるほうが生き残る確率は高かった。動かなくなるまでひたすら殴られるのはかなり苦しい死に方だ。


(どうにもならない魔法より物理攻撃のほうがまだなんとかなるかな?)


 マキが慣れていない接近戦なら勝機があるかもしれない。私にとってもこの試合はマキに大事なことを教えるための戦いだ。一方的にやられたら授業にならないから、苦しくても粘って食らいつこう。






「うわっ!ぎゃっ!!」


「………」 「………」 「………」


『一方的です!マキナ様の速さと重い攻撃の前にジャクリーンはやられっ放し!世界の救世主となるべき大聖女と出来の悪い姉の差を見せつける試合になりました!』


 甘かった。手も足も出ないとはまさに今の私で、チャンスなんか全く来ない。マキは強すぎる。


「やれ!やっちまえ!」


「神に代わって天罰を下してください!」


 もともとマキ一色だったのに、試合前の奇襲で完全に大闘技場全体を敵に回している。私がやられている姿を見て観客たちは大喜びだった。



「ジャッキー!守っていてもやられるだけだ!思い切って前に出ろ!」


「体格では負けていません!戦意を失わないで!」


 サキーとフランシーヌさんがラームたちといっしょに応援してくれる。リング下の仲間の数だけなら勝っていた。



「……ジャクリーン様………」


 私の惨めな姿にルリさんは泣いている。周りにラームたちがいなければリングに乱入して試合を止めようとするかもしれない。


「ジャッキー!ギブアップか!?」


「ま……まだまだ!」


 お父さんは審判として試合を終わらせるタイミングを慎重に見極める。私に勝ち目があるかではなく、続行できるか、命が危うくないかを確かめるのが仕事だ。


「………無理するなよ。正直これ以上はきつい!」


 それでも自分の娘同士の戦い、しかも片方が圧倒している展開となると、親心から普通よりも早く終了の決断をするだろう。そろそろ反撃しないと止められてしまう。動けなくなるほどダメージが蓄積する前にここでやるしかない。



「う……うおおおおお――――――っ!!」


『おおっ!ジャクリーンがいった、ジャクリーンがいった―――っ!決死の突進!』


 流れを変えないとどうにもならない。頭突きで倒すか怯ませて攻守交代を狙った。

 

 

「はっ!?」


「……遅っ。何してるの?」


 目の前から一瞬でマキが消えた。


「弱いなああぁぁぁぁぁ――――――っ!!」


「うぎゃっ!!」


 そして私は空を見ていた。背後に回られて腰を掴まれ、持ったまま投げられマットに後頭部から落下。首の骨が折れたかと思った。



『打撃だけでなく投げ技も凄い破壊力!大聖女の攻撃につけ入る隙はありません!』


「まだ耐えられるよね?もっと楽しませてよ!」


 マキに無理やり立たされると、今度は軽々と片腕だけで私の頭を掴み、持ち上げてくる。それだけで頭蓋骨が割れそうなのに、空中で逆さまに固定されている。


「あがががが……」


「ちょっと痛いかもよ?でもこれも頭の弱い国民たちを教育するためだから……頑張ってね!」


 勢いよく背中から落とされた。腰や首、頭にもその衝撃が伝わって、ついに立てなくなった。



「うぐっ………がっ!!」


『ジャクリーンはすでに虫の息ですがマキナ様は攻撃を緩めません!膝でジャクリーンの首を痛めつける姿はまさにギロチン処刑、悪を滅ぼす断頭台!』


(い……意識が薄れる………)


『思ったより粘ったがとうとう限界か!ジャクリーンの手足が動かなくなって………』


「ジャッキー!もう無理だ!試合はここで………」



 このまま動かないほうが楽なのに、私の右腕が勝手に伸びて、お父さんの足を掴んだ。


「な………まだやる気なのか!?」


「こ、こんな……こんな簡単に負けちゃったら………マキのためにならない。私の戦いは……終わってない!」


 この勝負を私の人生の集大成にすると誓った以上、少しでも力が残っているのならやめるわけにはいかない。限界はまだ先だ。

 運古はもうグロッキー、必要以上にワザを仕掛ける強気っ!ま…まるでアントニオ強気のリサイタルです!←これが何のことかわかった方は運古先生のパンツを洗う権利を差し上げます。

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